『異端力のススメ-破天荒でセクシーな凄いこいつら-』(島地勝彦、光文社文庫、2012)という本が面白い。人物エッセイ集といった内容。しかし、人物とはいっても、「常識に染まらず、己の道を行く」怪人の類である。
著者が、「週刊プレイボーイ」を百万部雑誌に成長させた元編集長。編集者として、人生の早い段階で薫陶をうけた今東光(こん・とうこう)、開高健(かいこう・たけし)、柴田錬三郎(しばた・れんざぶろう)といった作家たちの教えを散りばめた、nikkei BPnet連載の『乗り移り人生相談』は、じつはひそかに愛読している人も少なくないのでは?
『異端力のススメ』に収録されているのは、「Ⅰ. 本人が薫陶を受けた怪人たち」として、さきにあげた今東光、開高健のほか、超人学者の小室直樹(こむろ・なおき)、再建王の坪内寿夫(つぼうち・ひさお)。いまではもう忘れられているかもしれないが、なつかしい名前である。
わたしは、まっさきに小室直樹の項を読みふけった。著者は、集英社インターナショナル社長時代に、小室直樹には『痛快!憲法学』、『日本人のための憲法原論』や『日本人のためのイスラム原論』など書かせた編集者でもあるから、語られたエピソードのなかには著者ならではのものがある。
また、再建王として名をはせた坪内寿夫の名前をここに発見したのもうれしいことだ。創業者の名前は長く残るが、造船業界でつぎからつぎへと再建をなしとげた破天荒な男の名前が忘れ去られているのはじつに哀しいことだから。
「Ⅱ. シマジが鍾愛する怪物たち」は、編集者として大いに影響を受けた宮武外骨(みやたけ・がいこつ)、画家のレオナール・フジタ(=藤田嗣治)、大金持ちの家に生まれた「お坊ちゃん」である白洲次郎(しらす・じろう) vs. 薩摩治郎八(さつま・じろはち)、超人学者の南方熊楠(みなかた・くまぐす)。
宮武外骨と南方熊楠。わたしもこの二人の怪物たちには、ずいぶんむかしから影響を受けてきた。ちょうど1980年代以降に、大いに再評価されてきたことも、わたしが親しんできた理由の一つだろう。せっかくやるなら、南方熊楠と小室直樹を、『プルターク英雄伝』のように「対比列伝」として並べて書くと面白かったかもしれない。
しかい、列挙してみただけでも、すごい面々である。カネ儲けを徹底した人間もいれば、カネにはまったく無頓着だった人間もいる。しかし、いずれもカネは惜しまず使い切った人間ばかりだ。
「常識に染まらず、己の道を行く」怪物たちとは、日常生活のなかで接するのはたいへんだが、エピソードとして読むぶんには楽しい。
先行き不透明で萎縮しがちな日本であるが、明治から昭和にかけてのほうがはるかに激動期だったのではないかとも思う。
そういう時代を生き抜いた怪物たちのことを知り、その人生をなぞってみるのは、つまらない「自己啓発書」を読むよりはるかに役に立つと思うのだが、いかがかな?
著者プロフィール
島地勝彦(しまじ・かつひこ)
1941年東京生まれ。「週刊プレイボーイ」(集英社)編集長として同誌を100万部雑誌に育て上げる。その後、「PLAYBOY」「Bart」編集長などを歴任。2008年11月集英社インターナショナル社長を退任(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
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