『学歴狂の詩(うた)』(佐川恭一、集英社、2025)という本を読んだ。これまた笑えるノンフィクション型エッセイだ。
このタイトルは、水島新司の名作マンガ『野球狂の詩』のもじりだろう。「受験戦争」などとうの昔に終わった話だと思っていたが、21世紀のいま現在も「学歴狂」なるものが存在するのかというオドロキ。
京大文学部卒の作家である著者のネーミングによる「学歴狂」とは、偏差値や大学ブランドに異様なまでに執着する人間たちのことだ。どうやら、いったん身についたこの習性は一生抜けないようである。
京都の「中高一貫男子進学校」の「特進クラス」が舞台であるが、こんな極限的に狭い世界から「学歴狂」が生まれるのだなあ(笑) 著者は一浪しているので、舞台は京都の予備校から、さらに進学先の京大まで拡がる。
著者の京大ライフを読んでいて、そういえば1980年代前半には「西の京大、東の一橋」というフレーズがあったなと思い出した。京大といっても人文社会科学系学部限定の話だろうが、入ってしまえば、あとは楽勝なレジャーランドという意味である。実際は、かならずしもそうではなかったのだが・・・
生まれは京都(府)だが、関東に移住した家庭で育ち、しかも進学校ではあるが県立の男女共学校で、しかも「一般クラス」に通っていた自分にとっては、よく知らない世界を垣間見る面白さもある。会話が関西弁なのは、ローカル性が明確になっているのでリアリティがある。
この本のなにが面白いかといったら、読んでみたらわかるとしかいいようがない。「目次」を見たら、その面白さが想像できようというものだ。著者によるひねりのきいたタイトルに、思わず読書欲がそそられるのではないかな?
第1章 〈田舎の神童〉の作り方第2章 「こんなんもう手の運動やん」とつぶやいた〈天才〉濱慎平第3章 〈東大文一原理主義者〉内山とスーパー学歴タイム第4章 〈伝説の英語教師〉宮坂の恐怖政治第5章 〈努力界の巨匠〉菅井が教えてくれたもの第6章 ノートに apple と延々書き続ける〈大物受験生〉永森第7章 京大生のヌルすぎる就職活動第8章 佐川恭一以来の神童と呼ばれる〈後継者〉国崎くん第9章 〈二浪のアニオタ〉柴原が深淵をつづった詩集第10章 〈数学ブンブン丸〉片平のあまりに危険な戦法第11章 神戸大学志望を貫いた〈足るを知る男〉本田第12章 「二十時間勉強法」ですべてを突破した〈極限坊主〉野々宮第13章 〈別次元の頭脳〉で学問の面白さを教えてくれた中村さん第14章 『ルックバック』で思い出す〈神童覚醒前夜の親友〉大城第15章 マウント柔術の使い手〈非リア王〉遠藤第16章 京大卒無職〈哲人王〉栗山
つまるところ、「学歴狂列伝」といった内容である。気になった人は、連載の一部が公開されているので、読んでみたらいいだろう。単行本に収録されてないものもあるようだ。
しかしまあ、「学歴狂」という人間が生み出されてくるメカニズムは興味深いが、東大であろうが京大であろうが、その後の人生が幸せなものとなるかどうかは、その人次第ということなのだろうねえ。
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著者プロフィール佐川恭一(さがわ・きょういち)1985年、滋賀県生まれ。京都大学文学部卒業。2011年「終わりなき不在」で第3回日本文学館出版大賞ノベル部門を受賞。2019年「踊る阿呆」で第2回阿波しらさぎ文学賞を受賞。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)
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