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2012年10月22日月曜日

書評『ネット大国 中国 ー 言論をめぐる攻防』(遠藤 誉、岩波新書、2011)ー「網民」の大半を占める80后、90后が変える中国



中国が「ネット大国」というのは、けっしておおげさではない。13億人の人口大国の中国であるが「網民」は、なんと4.5億人(2010年現在・・2012年時点では5億人突破*)を越える。「網民」とはネットユーザーのこと、「網」はネット(net)のことだから、「網民」は「ネティズン」(netizen)としてもいいだろう。

日本もネット先進国といわれるが、全人口は 1.2億人しかいない。中国の「網民」が約5億人超という事実は、しっかりとアタマのなかにいれておかないと中国情勢を大きく見誤ることになることが数字でわかるはずだ。情報統制されている中国ではあるが、この5億人という数がハンパではない。数はチカラである。

しかも、「網民」の大半を占めるのが、いわゆる「80后」(バーリンホウ)、「90后」(ジューリンホウ)と呼ばれる、1980年代以降に生まれた若者たちである。大雑把にいってしまえば、1978年の「改革開放」以後に生まれた、まったくあたらしい世代なのである。

一人っ子が当たり前の社会で、しかも資本主義的ビジネス中心主義に舵を切った中国に生まれ育った若者たち。しかも、ネットには完全に習熟し、役人の腐敗や社会矛盾には敏感で、権利意識もはるかに強い。価値観もメンタリーも旧世代とは大きく異なる若者たちである。

こういう背景を踏まえたうえで、「グーグル撤退騒動」、「08憲章」、「尖閣事件」、「反日デモ」、「中国茉莉花(ジャスミン)革命」といった一連の事件をみていくと、日本のマスコミ報道とは異なる現実が浮かび上がってくることが理解できるようになる。規制と検閲を強める政府と、「網民」の攻防戦の具体的な姿がそこにあることがわかるのである。

著者は、中国生まれで13歳で日本に帰国するまで共産中国草創期を現地で体験した日本人。『チャーズ』で衝撃的なデビューをした作家だが、『卡子(チャーズ)』の中文版はいまだに中国では出版が認められていないという。そこには、中国共産党の恥部が包み隠さず書かれているからだ。

中国がかかえる問題を内在的に理解し、ネットの実際にも通じた著者が、深い洞察をもとに、きわめてロジカルに「中国のいま」を語った本である。さすが物理学者であっただけに、内容はきわめて明快だ。

中国への思い入れが深く、中国の原論自由化がなされてこそ「中国革命」は成就するのであると説く著者。「ネット言論」ははたして民主化を導くのか? それを考えるための必読書だといっていい。ぜひすすめたい一冊である。


*注: CNNIC第29次調查報告:網民規模與結構特徵(北京新浪新聞 2012年1月16日)
・・「截至2011年12月底,中國網民數量突破5億,達到5.13億,全年新增網民5580萬。互聯網普及率較上年底提升4個百分點,達到38.3%」とある。すでに「網民」は5億人を突破。 





目 次 

はじめに
第1章 「グーグル中国」撤退騒動は何を語るか
第2章 ネット言論はどのような力を持っているのか
第3章 ネット検閲と世論誘導―“官”の政策
第4章 知恵とパロディで抵抗する網民たち―“民”の対応
第5章 若者とネット空間―権利意識に目覚める80后と90后
第6章 ネット言論は中国をどこに導くのか
あとがき

著者プロフィール

遠藤誉(えんどう・ほまれ)1941年中国長春市生まれ。1953年日本帰国。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、国務院西部開発弁公室人材開発法規組人材開発顧問などを歴任(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<関連サイト>

中国の対日外交を読み解く:カギは「網民」の民意(日経ビジネスオンライン)・・本書のもとになったネット連載

ビッグデータ分析で、中国政府による検閲の中身が明らかに ゲイリー・キング米ハーバード大学教授に聞く (日経ビジネスオンライン 2014年2月4日)
・・中国政府によって削除される前に入手した膨大なネット書きこみ情報を「ビッグデータ」の手法で解析することにより、検閲手法と方針が明らかになった!
「分かったことは、中国政府が監視しているのは、とにかく「団体行動」であるということです。人を扇動したり、抗議行動に駆り立てたり、政府以外の人間が他人をコントロールしようとする発言は即刻検閲されます。・・(中略)・・中国政府は恐らく、特定の話題に関するソーシャルメディアを監視していて、特定の話題が盛り上がる様子を眺め、突然投稿者たちが1つの方向で議論を始めて明らかに「炎上」した時に動くようです。団体行動を実行に移しそうな炎上の仕方が見られると、すべての炎上した投稿を削除してしまうのでしょう。それが、政府寄りだろうが、反政府寄りだろうが、関係ない。団体行動の芽が見えたらとにかく取り締まる」


中国問題研究家 遠藤誉が斬る (連載 2013年10月2日から現在) 



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(2010年1月14日)

Google が中国から撤退!?(続き)(2010年1月15日)

Google が中国から撤退!?(その3)(2010年3月23日)

書評 『蟻族-高学歴ワーキングプアたちの群れ-』(廉 思=編、関根 謙=監訳、 勉誠出版、2010)

書評 『中国貧困絶望工場-「世界の工場」のカラクリ-』(アレクサンドラ・ハーニー、漆嶋 稔訳、日経BP社、2008)

書評 『中国動漫新人類-日本のアニメと漫画が中国を動かす-』(遠藤 誉、日経BP社、2008)

書評 『拝金社会主義中国』(遠藤 誉、ちくま新書、2010)

書評 『チャイナ・ジャッジ-毛沢東になれなかった男-』(遠藤 誉、朝日新聞出版社、2012)-集団指導体制の中国共産党指導部の判断基準は何であるか?


「アラブの春」の前後

『動員の革命』(津田大介)と 『中東民衆の真実』(田原 牧)で、SNS とリアル世界の「つながり」を考える

書評 『アラブ諸国の情報統制-インターネット・コントロールの政治学-』(山本達也、慶應義塾大学出版会、2008)

書評 『エジプト革命-軍とムスリム同胞団、そして若者たち-』(鈴木恵美、中公新書、2013)-「革命」から3年、その意味を内在的に理解するために

(2014年8月9日 情報追加)


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