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2013年11月30日土曜日

映画『キャプテン・フィリップス』(米国、2013)をみてきた-海賊問題は、「いま、そこにある危機」なのだ!


映画 『キャプテン・フィリップス』(米国、2013)をみてきた。アカデミー賞候補の呼び声も高いということだが、その可能性はかなり高いとおもう。かなり重厚で見応えのある作品である。シナリオ、主演、映像そのすべてが三拍子でそろっているためだ。

なによりもつい最近の出来事なのである。実話なのであるいまから4年前、2009年4月12日のことだ。

ソマリア沖を航行中のコンテナ船が海賊に襲撃され、乗組員20人のために海賊の人質となったリチャード・フィリップス船長が体験した息詰まる4日間を描いた作品だ。


どこに生まれようが生き残る(=サバイバル)がテーマにならざるをえない

映画の冒頭からこの映画はサバイバルをテーマとしたものであることが暗示される。

フィリップス船長にとっては、自分の子どもたちが生きる時代のアメリカ経済の厳しさ。そしてソマリア人漁師たちにとっては、政治経済が機能不全となり無法地帯と化している破綻国家に生きるという過酷さ。

船長はアメリカ東部のバーモント州に暮らす。海賊たちは破綻国家ソマリアの元漁師たち。本来ならまったくあい交わることのなかったはずの両者が、ソマリア沖の航海において遭遇し、けっして望んだわけではない濃い日々をともにすることになる。

両者ともにサバイバルがテーマとして浮上しているのが21世紀の現状。置かれている状況はかなり異なるが、サバイバルという点においては本質的には同じなのである。

映画の前半は大型コンテナ船における海の男たちの世界、後半は船長(キャプテン)が海賊たちの人質になった結果、救命艇という閉鎖空間のなかでのサバイバルが描かれる。

映画の後半でテーマになるのが、人質になった船長自身にとっての極限状況におけるサバイバル。この段階になって、フィリップス船長にとってのサバイバルは、ソマリア人海賊たちと同じレベルになる。むきだしの人間として対等の関係になるのだ。

そう、心理学者マズローの欲求五段階説でいえば「生理的欲求」と「安全の欲求」という人間にとって最低限必要な欲求が満たされない状況にフィリップス船長は置かれたのである。


想定していた成功を得られなかった海賊たちは救命艇でコンテナ船から脱出することになるが、その際にフィリップス船長は身代金目的の人質として海賊に連れていかれる。救命艇に乗ることによって彼らは運命共同体となった。いわゆる呉越同舟であるが、同じ船に乗っていることには変わりないのだ。英語ではこれをさして We're in the same boat. という。

同じく船に乗っているという点においては、大型コンテナ船の船員(クルー)も、海賊たちが乗るモーターボートも本質においては同じ存在だ。つねに危険と背中合わせなのが海の世界、「板子一枚下は地獄」という点において。だから、フィリップス船長は同じ海の男として海賊のリーダーと対話が成り立つと踏んだのだろう。

船長(キャプテン)がその乗員すべてに対して全責任をもつことにおいては、コンテナ船だろうが豪華客船だろうが、軍艦だろうが漁船だろうが、みな同じである。国際法に通じていようがいまいが、船長というのはそういう義務を担った職務なのだ。


大型コンテナ船が舞台

大型コンテナ貨物船という、その大きさの割には乗員が男だけで、しかも20人程度しかいないという地味な世界が映画の舞台となるのは珍しい。

映画にでてくるのは世界最大の船会社マースク社(Maersk)のコンテナ船である。この船会社の大型コンテナ船アラバマ号が海賊から襲撃されたのである。デンマークに本籍のある会社でメルスクともいう。日本の港湾でもメルスクのコンテナはよく見かけるはずだ。

図らずして自社商品や自社ブランドが映像のなかに登場する広告宣伝手法のプロダクト・プレイスメントになっているわけだが、法人取引が中心の B2B企業である海運会社にとっては、ブランドを一般消費者に知らせること機会になっているかもしれない。実話をもとにした映画であるだけに怪我の功名かもしれない。



フィリップス船長の今回のミッションは、ソマリア沖を航行してアフリカ中部ケニアのモンバサまで救援物資を輸送するというもの。そのために船長はアメリカ東部バーモント州にある自宅から乗船地まで移動することになる。映画には出てこないが航空機での移動だろう。

当然のことながらフィリップス船長も海賊の危険は織り込み済みだったようだが、2009年当時はまだ一般人にとってはソマリア人海賊の話は常識とはなっていなかった

国際的な要請に基づいて、日本が海上自衛隊艦船をソマリア沖に派遣することが決定され実行に移されたのが2009年、まさにこの映画で取り上げられた海賊事件が発生した頃である。

たとえ危険地帯であっても輸送をやめることはできない。依頼主がいればそれに応えるのがビジネスというものだ。船長もまた船会社の要請でアサインされれば任務につく。船員組合に所属している船員もまた契約ベースで動く。ちなみに企業内組合が常識の日本企業であっても、船員組合だけは企業横断型の業界ベースである。

危険を承知で船を出すケースもある。かつてベトナム戦争時代に商船の船長として荒稼ぎをしたという英国人の元船長から話を聞いたことがあるが、戦争地帯であれば海上保険がつりあがる。船長や乗員も危険手当がつくので、それを承知で船にのる男たちもいるのだ。

(これがホンモノのキャプテン・フィリップス 原作本となった自著のカバー写真)

だが、フィリップス船長の今回のミッションでは、乗員たちは実際に海賊に遭遇することはアタマではその可能性については理解していても、まさか自分たちが乗った船が海賊に襲撃されるとは想像もしていなかったようだ。希望的観測というやつである。

しかも巨大コンテナ船とくらべれば、漁船をつかった海賊船はふけば飛ぶようなちっぽけな存在だ。だがマシンガンで武装した海賊たちは、ある意味ではゲリラのような存在だろう。

武装していない丸腰のコンテナ船の船腹に「脆弱性の窓」(window of vulnerability)を発見した海賊たちは、そこになんと原始的な手段だが梯子をかけて乗り込んできたのだ! 

いったん海賊たちの侵入を許してしまったが最後、コンテナ船は絶体絶命の窮地に追い込まれることになる。映画をみている観客にとっても、息詰まるシーンの連続である。




海上における「非対称戦争」とアメリカ海軍の本気度

事件が発生した2009年の前半は、まだソマリア人海賊問題が一般人のレベルでは常識となっていなかった頃だ。その海域でパトロール活動を行っていたのが、アメリカ海軍の艦船など少数に過ぎなかったこともフィリップス船長にとっても不幸なことであった。

だが、アメリカ人の生命と財産を守るというつよい意志を示したアメリカ政府が動き出すと、ソマリア人海賊に勝ち目はない。

米海軍の駆逐艦が現場に急行し、周辺海域が戦闘地域であえるという宣告がなされて海賊掃討と
人質救出作戦が実行されることになる。ここがまたこの映画の見ものである。アメリカという国家のゆるぎない意志が具体的な形で示されるからだ。

海軍特殊部隊SEALs(ネービー・シールズ) が海上でみせる特殊作戦。映画のなかではオペレーション(operation)ではなくマヌーバー(maneuver)といっていたが、まさにプロフェッショナルの仕事であった。

人質救出作戦もまた対テロ戦争と同様、非対称戦争である。いまの時代、海上においても従来型の正規戦よりも非対称戦争のほうが多い。

映画 『ゼロ・ダーク・サーティ』はウサーマ・ビン・ラディンを殺害するミッションを描いたノンフィクション映画であったが、ビンラディン殺害外作戦を実行したのは機動力をフルに活かしたネービー・シールズであった。使用された機能は、SEALs のうち L すなわち LAND(陸)とAIR(空)での特殊任務であった。

『キャプテン・フィリップス』では、海軍特殊部隊であるネービー・シールズにとっては本来の戦場である S すなわり SEA(海)での特殊作戦の遂行。これがまたすごいのだ。この映画の見どころの一つでもある。

(ソマリア沖の海賊 wikipedia掲載の図よりインド洋全域)


けっして他人事はない海賊問題

日本の海上自衛隊も艦船派遣いるが映画には出てこないのは、事件発生当時はまだ海上自衛隊艦船はまだ派遣されていなかったからだ。

ソマリア沖の海賊問題は、日本から遠く離れたアフリカの話にみえるが、日本にとってもきわめて重大な問題だ。

「食糧とエネルギー」のほとんどを大きく海外からの輸入に依存、金額ベースでみて約7割が「海上輸送」に依存しているのである。輸送時間の関係から、海上運賃は航空運賃よりはるかに安い。量ベースでみたら比率はもっと高くなるはずだ。

日本にとってシーレーンはまさに海上の生命線(ライフライン)。シーレーンはスエズ運河から日本列島までつながっている。江戸時代後期の警世家・林子平がロンドンから江戸まで水路でつながっていると言ったことを想起しべきだろう。

日本の商船隊にとってはマラッカ海峡における海賊問題だけでなく、ソマリア沖の海賊問題もきわめて重大な問題なのだ。日本人の生存は海上輸送に依存しているのである。

海賊というと映画『カリブの海賊』に代表されるファンタジーがあるが、海賊をロマンチックに語るのは現実的ではない。現代の海賊はマシンガンで武装した大義なきゲリラのような存在だ。

この映画は、「いま、そこにある危機」として、現実世界でいまなにが起こっているかを知るためにも見るべきなのだ。

ヒューマン・ドラマとっしてもすばらしいが、それ以外のさまざまな意味においても、ぜひ見るべき映画だといっておこう。




『キャプテン・フィリップス』
●監督 :ポール・グリーングラス
●出演 :トム・ハンクス、キャサリン・キーナー
●配給 :ソニー・ピクチャーズ
●上映時間: 134分
●公開日 :11月29日より全国公開



PS 2013年度の第86回アカデミーにノミネートされながらも、残念ながら受賞は逃した『キャプテン・フィリップス』。絶対に受賞間違いなしだと思っていたのだが・・・ (2014年3月5日 記す)。




<関連サイト>

映画 『キャプテン・フィリップス』 オフィシャルサイト(日本版)

Captain Phillips - Official Trailer (HD) Tom Hanks (英語版トレーラー)

Captain Phillips (映画のフェイスブック・ページ 英語)

『本当にあった 奇跡のサバイバル60』に載った ありえない生還劇6 第1回 映画『キャプテン・フィリップス』で描かれなかったもう一人のヒーロー (ナショナル・ジオグラフィック、2014年)

ソマリア沖2009年4月12日の事件(wikipedia)
Piracy in Somalia (wikipedia英語版)

マースク社公式サイト(日本語)
・・正式社名 A.P. モラー・マースク(デンマーク語:A.P. Møller - Mærsk A/S)は、デンマークの首都コペンハーゲンに本拠を置く世界一の海運会社

Rose George: Inside the secret shipping industry (TED Talk  FILMED OCT 2013 • POSTED DEC 2013 • TED@BCG Singapore)
・・「知られざる海運業」(シンガポールにて公開録画  英語)

港のエース、ガンマンの絆 クレーン運転士・上圷(かみあくつ)茂 (NHK プロフェッショナル 仕事の流儀) (2014年4月21日 放送)
・・コンテナ輸送に不可欠の業務であるガントリークレーンの操作を行う運転士の仕事



ソマリアの「海賊ビジネス」 海賊に憧れ罪を犯す少年を救え (國井 修、日経ビジネスオンライン、2012年11月28日)

ジブチに集う欧米と日本の自衛隊 (日経ビジネスオンライン 2013年12月19日)

US Navy SEAL & SWCC—official website (ネービー・シールズ 公式サイト)
U.S. Navy SEAL & SWCC Page (ネービー・シールズ facebookページ)

『本当にあった 奇跡のサバイバル60』に載った ありえない生還劇  第1回 映画『キャプテン・フィリップス』で描かれなかったもう一人のヒーロー(ナショナル ジオグラフィック日本版、2014年4月15日)

The hidden opportunity in container shipping  By taking advantage of savings and revenue opportunities, container lines can return to profit. (McKinsey & Company, November 2014)


すしざんまい社長が語る「築地市場移転問題」と「ソマリア海賊問題」(ハーバー・ビジネス・オンライン、2016年1月18日)
・・築地すしざんまい社長の木村氏は、伝手を頼ってソマリアの海賊達と話し合い、ソマリア沖がキハダマグロの好漁場であることを知り、みずから漁船を提供しマグロ漁のやりかたを教えたうえで、みずから買い取るルートを整えて元漁民が大半の海賊たちの更正をビジンスベースで援助している、という。その結果、その海域では海賊被害ゼロが実現しているという。ただし、いまだ赤字だとのことだ。

(2014年8月29日、11月21日、2016年1月21日、5月18日 情報追加)



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その他

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