1936年2月26日、いまから78年前に起きたのが「二・二六事件」。昭和11年に発生した陸軍のクーデター事件のことです。
78年もたつと、当事者はもちろん関係者で現存している人もほとんど亡くなり、話題になることも亡くなっていく。しかし、話題になることが少なくなればなるほど、かえって反比例的に時代は近づいてゆくのではないか? そんな「逆説」を感じるのはわたしだけでしょうか。
「二・二六事件」関連の本は、これまでかなりの数を読んできましたが、そのなかでもピカイチなのは、昭和史を主テーマにしているノンフィクション作家・澤地久枝氏によるこの2冊。
● 『妻たちの二・二六事件-遺されたものの三十五年-』(中公文庫、1975 単行本初版 1971)
● 『雪はよごれていた-昭和史の謎 二・二六事件最後の秘録-』(日本放送出版協会、1988)
先週、先々週と、東京都心部もふくめて関東地方は記録的な大雪となって大きな混乱となりましたが、78年前の本日も東京は雪でした。そしてその雪はよごれていたのでした。「雪はよごれていた」とは・・・。
ずいぶん昔の本で、わたし自身も読んだのはすでに四半世紀前(!)ですが、それでもつよく印象に残っています。
『妻たちの二・二六事件』は、クーデターの中心になった青年将校たちを、未亡人たちから聞き取りをつうじて描いたもの。青年将校たちは自決した者以外は特設軍法会議で即席裁判の上、すべて銃殺刑されているため「未亡人」となったわけです。
基本的に軍事テクノロジーを扱うエンジニアであるのが軍人というものの本質ですが、ゲーテを読み文学を論じる青年将校たちが描かれており、かれらがいずれも「教養主義」の申し子であったことがわかります。
文学を愛するエンジニア。これだけみれば「文理融合」という美しい響きを感じるかもしれませんが、ここに欠けているのは社会科学の素養。これは「二・二六事件」の7年後に学徒出陣で動員された商大生の手記と比較すれば明らかなことだと思います。クーデター後の国家運営の見取り図が視野に入っていなかった青年将校たちの欠点が何であったかがわかると思います。
『雪はよごれていた』は、「NHK特集 消された真実-陸軍軍法会議秘録-」で放送された内容の活字化。特設軍法会議の首席裁判官が残した膨大な資料をもとに構成された番組では、当時の憲兵隊がクーデター計画をキャッチし電話を盗聴していたこと、そして盗聴内容が録音されレコードとして残されていたことが発見されたことが明らかにされ、北一輝の肉声を聞いたこともつよく印象に残っています。残念ながらこの本は現在は入手不能。
『妻たちの二・二六事件』は現在でも入手可能のロングセラーなので、まだ読んだことがない人はぜひ読んでほしいと思います。
先にも書きましたが、「二・二六事件」が話題になることが少なくなればなるほど、反比例して時代が近づいてゆくのではないか? 事件の当事者で現存している人がほとんどいなくなっただけでなく、朝のテレビニュースで取り上げられることもまったくなくなり、「事件」のリアリティがますます薄まっている感がなきしにもあらずですが・・・。
そんな気がしてならないのは、いまの日本は日に日に「閉塞感」が強まっているからです。しかも、いまだに東北復興も実現していない状況。たった3年前の「3-11」ですらこんな状況・・・。
「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」というのは「史上最強のナンバー2」であったドイツ帝国の宰相ビスマルクの名言ですが、「事件」がすでに「記憶」から消え、「歴史」の彼方に去ってしまったときが、ほんとうはいちばん怖い。
「歴史は繰り返す」と俗にいいますが、まったく同じことが繰り返されることはありません。さすがにクーデターがふたたび起こるとは考えにくい。
とはいえ、「閉塞感」が強まっていくとき、日本人がいかなる行動をとるのかについてのケーススタディになるのが「二・二六事件」ではないでしょうか。
わたしは、「二・二六事件」は、けっして過ぎ去った過去の話だとは考えておりません。「二・二六事件」は、一度でも「組織人」を経験したことがある人なら、感覚的に理解できるはずの「事件」だと思います。
そうでなくても「忘却」したいと思うのが人間というもの。繰り返し繰り返し語ることによってしか、「記憶」を風化させないことが大事だと思うのですが・・・
「NHK特集 消された真実-陸軍軍法会議秘録-」 (NHKアーカイブス 1988年放送)
「青年日本の歌 昭和維新の歌」(YouTube)
映画 『226』 予告篇 (YouTube)
映画「動乱」特報・劇場予告 (YouTube)
・・映画 『動乱』(1980年の日本映画)
二・二六事件から 75年 (2011年2月26日)
4年に一度の「オリンピック・イヤー」に雪が降る-76年前のこの日クーデターは鎮圧された(2012年2月29日)
「精神の空洞化」をすでに予言していた三島由紀夫について、つれづれなる私の個人的な感想
「憂国忌」にはじめて参加してみた(2010年11月25日)
「かくすれば かくなるものと知りながら やむにやまれぬ 大和魂」(吉田松陰)・・個人の心情に基づく個人の行動。公僕は組織を巻き込んではならない
石川啄木 『時代閉塞の現状』(1910)から100年たったいま、再び「閉塞状況」に陥ったままの日本に生きることとは・・・
書評 『昭和16年夏の敗戦』(猪瀬直樹、中公文庫、2010、単行本初版 1983)-いまから70年前の1941年8月16日、日本はすでに敗れていた!
・・陸軍首脳部は当然のことながら日米の国力の差は数字で把握していた
書評 『忘却に抵抗するドイツ-歴史教育から「記憶の文化」へ-』(岡 裕人、大月書店、2012)-在独22年の日本人歴史教師によるドイツ現代社会論
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