『飲食事典』(本山荻舟、平凡社、1958)の原本を入手した。昨年のことである。
2013年に平凡社ライブラリーから上下の二巻巻本で復刊されて、はじめてその存在をしった。だが、事典ものは二巻にわかれているとつかいにくい。
『飲食事典』は「引く事典」というよりも「読む事典」としての性格がつよいので、読み物としては文庫版でもいいのだろうが、わたし的には本を開いたまま手で押さえる必要のない大型ハードカバーのほうがのぞましい。これだと机上でも楽ちんである。ベッドの上なら腹ばいで読める。目だけ動かせばいいからだ。
もちろん、「手で押さえる必要がない」という点にかんしては電子本のほうがいいが、検索性を重視した「引く事典」ではなく「読む事典」ということであれば、印刷本のほうが使い勝手がいいことは否定できない。慣れの問題もあるだろうが。
(平凡社ライブラリーから刊行された二巻本)
原本はすでに絶版になっているようなのでネット古書店でさがして、3,000円+送料で入手した。じっさいに入手して思うのは、すごいボリュームの読む事典だということだ。
どんな感じかは以下に適当に開いた見開きページの写真をご覧いただきたい。
(『飲食事典』 見開きページ)
じつは、本山荻舟(もとやま・てきしゅう)という人は存在そのものも知らなかった。美食家でも飲食業界の人間ではないからだろう。ネットで調べたら以下の記述があった。
本山荻舟 もとやま-てきしゅう1881~1958 明治-昭和時代の随筆家。
明治14年3月27日生まれ。報知新聞などでながく記者生活をおくり,劇評,料理記事を担当。小説「近世数奇伝」,随筆「日本食養道」などの著作があり,「飲食事典」が没後に刊行された。昭和33年10月19日死去。77歳。岡山県出身。本名は仲造。(デジタル版 日本人名大辞典+Plus」)
『飲食事典』の内容は、「BOOK」データベースのものが簡潔明瞭なので引用させていただく。
大正から昭和前期の小説家・料理研究家本山荻舟が、日本の食文化史にかかわることすべてを網羅し、体系化することを目的に書き下ろした事典形式の大著。料理、食材、祭礼行事、人名など約6,000項目にわたり解説。荻舟翁のゆたかな趣味生活を反映し、随筆的興趣もあわせもつ、実用と趣味の読み物両面に通ずる書。
現在では修正を要する項目もあるようだが、それにしてもすごい網羅性である。50音で並んでいるが、たしかに江戸時代以来の随筆の伝統の所産であろう。これをぜんぶ一人でやってのけたということもまたすごい。原本は三段組みで600ページある。
しかし、この大著は生前には刊行が間に合わず「遺稿」となってしまったという。出版元は平凡社であるが、1958年の初版出版当時の社長であった下中弥三郎が前書として「本山荻舟君を語る」という短文でそのことに触れている。
大型本である原本は、うつぶせになって寝床で眺めるのに最適だ。その意味では生前に完成しなかったのは、病床にあった著者にとっては残念至極なことであったのではないかと思うのである。
もちろん、読む辞典であって引く辞典ではないから、読み物として平凡社ライブラリー版として「読むのも悪くない。著者ならそう思うかも知れない。
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