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2014年3月28日金曜日

「史上空前規模の論文捏造事件」(2002年)に科学社会の構造的問題をさぐった 『論文捏造』(村松 秀、中公新書ラクレ、2006)は、「STAP細胞事件」(2014年)について考える手助けになる


2014年を騒がしてきた再生医療分野における「STAP細胞事件」、マスコミやネットでの持ち上げ方と引きずり下ろし方の展開は、ジェットコースターのように激しいものがありますが、どうも問題の本質からは遠いのではないかと感じておりました。

NHKの特集番組を製作した担当ディレクター自身による著書 『論文捏造』(村松 秀、中公新書ラクレ、2006)を読むと、「科学社会」における「科学倫理」の問題が構造的なものであることがよくわかります。

本書で取り上げられた、2002年に発覚して一大スキャンダルとなった「史上空前規模の論文捏造事件」と、2014年の「STAP細胞事件」は、物理学と医学・生物学専門分野と、捏造の規模が違うものの、「既視感」(デジャビュー)を感じてしまうのです。

「史上空前規模の論文捏造事件」とは、「超電導」の分野でノーベル賞に最も近いといわれたドイツ人の「若きカリスマ物理学者」が、アメリカのベル研究所を舞台「超電導」の分野英国の『ネイチャー』や米国の『サイエンス』などの科学専門ジャーナルに矢継ぎ早に発表した26本の論文にかんするもの。

その論文の大半に実験データ捏造による不正(misconduct)が発見されたのです。しかも、論文捏造が発覚するまで、なんと3年(!)もかかっています。

一方、「STAP細胞事件」は、日本人の「若い女性研究者」が、実験データ捏造と論文捏造を行った事件。あっという間に脚光を浴びて、あっという間に地に墜ちた事件です。

日本のこの事件では、わずか2カ月たらずで急展開しているのは、そうでなくても研究不正が発生しやすい医学・生物学分野で、しかも「若い女性研究者」であるというファクターを抜きには考えられないでしょう。

ともに科学ジャーナルの『ネイチャー』を舞台にしたものであり、研究者の国籍が日本とドイツと異なりながらも、科学立国の30歳前後の若い研究者である点、しかもアメリカ東海岸の「科学社会」とかかわっている点も共通しています。

また、ストーリー性の強調といった点は、たしかに「偽ベートベン事件」の佐村河内守氏と同じですが、研究者がかかわる「科学社会」に固有の問題は、マスコミ報道だけでは理解できません。


「科学社会」における構造的問題

本書は、国内外のテレビ番組コンクールで受賞したNHKの特集番組をもと書きおろされたものです。

残念ながら番組は見ていないのですが、番組では紹介されていない膨大な取材内容をもとに書きおろされた本書を読むと、ドキュメントとして興味深いだけでなく、科学の専門コミュニティにまつわる構造的な問題が手に取るように理解できます。


「史上空前規模の論文捏造事件」のケースにおいては、なんと論文捏造が発覚するまで3年もかかったいます。その理由はなぜか? なにが背景にあったのでしょうか?

本書の「第9章 夢の終わりに」の小見出しをあげておきましょう。「科学社会」における「科学倫理」がなぜ機能しなかったのか、その輪郭がなんとなく理解できるでしょう。

●正しさが担保されない現実
●「間違い」への寛容
●不正を立証する困難
●気づかれにくい小規模の捏造
●捏造が「再現」される可能性
●「狭い専門領域
●「再現性」の幻想
●「金(かね)の生(な)る木」と秘密主義
●国家というプレッシャー
●成果主義の功罪
●内部告発は可能か
●「共同研究」のあいまいな責任
●科学の「変容」と科学界の「構造的問題」

上記の小見出し意外に重要なキーワードとしては、「信頼を基本にした科学社会」、「不正(misconduct)と間違い(mistake)の違い」、「確証バイアス」、「論文引用回数(サイテーション)」、「商業出版物である科学ジャーナルのインパクト・ファクター」などをあげておきましょう。くわしくは本書を読んでみてください。



「狭い世界」では「空気」が働きやすく「世間」が形成されやすい

自然科学分野とはいえ、人間がかかわる社会、しかもきわめて「狭い世界」での事象であるだけに、避けて通れない倫理的問題が発生します。

「狭い世界」は、本質的に「空気」が働きやすい「世間」的な要素をもっていることを示しています。

たとえ特定の研究者の論文に不正や捏造の疑いをもったとしても、コミュニティ全体にその研究者を称賛する「空気」が醸成されていると一人では反対しにくいこと、さらにその世界の学界ボスが称賛しているとなれば、なおさら反対はしにくい。これは「世間」以外の何者でもありません。

「狭い世界」では「空気」が醸成され「世間」が形成されることは、日本だけではなく、アメリカであっても同じことがわかります。

わたし自身は、大学受験前に「文転」して社会科学系にいったので自然科学分野出身ではありませんが、米国の工科大学の大学院で学んでいた時代、理工系の研究室に出入りしていた頃を思い出しながら読みました。

米国人や日本人の研究者たちとの交流をつうじてさまざまな話をしてましたが、科学(サイエンス)であれ工学(エンジニアリング)であれ、基本的に研究室を基本にした狭い人間関係というコミュニティであるのはたしかなことです。この点は、日本もアメリカも同じでしょう。本書を読めばドイツもまた同じであることがわかります。つまり普遍性のある話なのです。

「科学社会」における「科学倫理」の機能不全問題は、どうしたら解決することができるか?

医学・生物分野における米国の ORI(= Office of Research Integrity:米国研究公正局のような独立機関を設立し、研究不正が発生しない「仕組み」をつくることも重要です。

とはいえ、若い研究者の卵たちは「狭い世界」のなかで、指導的立場にある研究者の日常的な振る舞いすべてから「学ぶ」のである以上、科学倫理は研究者すべてが実践しなければ意味がありません

つまり、座学をいくら行っても解決されるものではないということです。研究者としてのスタート地点である博士号を取得する時点に、すでに問題の根があるからです。

本書には、米国の研究者の3分の1は、なんらかの形で不正にかかわっていると紹介されてますが、「科学倫理」の徹底はそれほどむずかしいのです。人間の行動と心理がかかわってくるからです。


「科学倫理」にかんする問題はタックスペイヤーとして関心をもつべき

「STAP細胞事件」が一過性のスキャンダルとして終わることなく、「科学社会」にかかわる本質的な問題として日本全体で国民的な議論が深まることを期待したいと思います。

なぜなら、舞台となった理化学研究所(=理研)の約1,000億円の研究資金は、その大半が日本国民の「血税」によってまかなわれているためです。その意味では騙されやすい一部の民間人からカネをまきあげた佐村河内守氏よりも、はるかに罪は大きいというべきでしょう。

そうでなくても財政悪化が進行している現在、予算には優先順位をつけて執行される必要があります。ただしい予算執行のためにも、タックスペイヤー(納税者)として大いに関心をもたなくてはなりません。

本書は「科学ジャーナリスト大賞2007」を受賞しています。迫真のドキュメントとして興味深く読めるだけでなく、ジャーナリスト魂ここにありと感じることのできる本書は、ぜひ読んでおきたい一冊として推奨します。


* 研究者「個人」と研究室という「組織」、そして「学会」というコミュニティという「社会」にかかわる問題については、姉妹編のブログ 「個」と「組織」のよい関係が元気をつくる! も参照していただけると幸いです。






目 次

はじめに
プロローグ
第1章 伝説の誕生
第2章 カリスマを信じた人々
第3章 スター科学者の光と影
第4章 なぜ告発できなかったのか-担保されない「正しさ」
第5章 そのとき、バトログは-研究リーダーの苦悶
第6章 それでもシェーンは正しい?-変質した「科学の殿堂」
第7章 発覚
第8章 残された謎
第9章 夢の終わりに
 正しさが担保されない現実 「間違い」への寛容 不正を立証する困難 気づかれにくい小規模の捏造 捏造が「再現」される可能性 狭い専門領域 「再現性」の幻想 「金(かね)の生る木」と秘密主義 国家というプレッシャー 成果主義の功罪 内部告発は可能か 「共同研究」のあいまいな責任 科学の「変容」と科学界の「構造的問題」 日本は大丈夫なのか?
 日本学術会議の対応
 アメリカ型でよいのか
 第2、第3のシェーンを防ぐには
エピロ-グ-「わからなさ」の時代に
放送歴・受賞歴・番組スタッフ一覧

本書の元になったNHK特集番組『史上空前の論文捏造』は、以下の4つの賞を受賞。
① バンフ・テレビ祭 最優秀賞
② アメリカ国際フィルム・ビデオ祭クリエイティブ・エクセレンス賞
③ アルジャジーラ国際テレビ番組制作コンクール銅賞(調査リポート部門)
④ 科学技術映像祭・文部科学大臣賞

著者プロフィール

村松 秀(むらまつ・しゅう)
1968年、横浜生まれ。東京大学工学部卒業。1990年NHK入局。「NHKスペシャ ル」「クローズアップ現代」「サイエンスアイ」等を担当し、環境、先端科学、 医療、生命倫理など主に科学系番組の制作に携わってきた。特に環境分野では、 環境ホルモン問題を日本で最初に報道、その後も継続して取材を続ける。「地球!ふしぎ大自然」「迷宮美術館」など新番組の立ち上げも多い。現在、科 学・環境番組部専任ディレクター、「ためしてガッテン」デスク。NHKスペ シャル「生殖異変」で放送文化基金賞本賞、地球環境映像祭大賞、科学技術祭内閣総理大臣賞、戦後60年関連企画で毎日芸術賞特別賞など受賞多数。著書に 『生殖に何が起きているか』(NHK出版)、『環境から身体を見つめる』(アイオーエム)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。





<関連サイト>

科学ジャーナルの『ネイチャー』

理化学研究所(=理研)

米国史上最悪の「科学研究不正」の反省と対処に学ぶこと (大西睦子、フォーサイト、2014年4月3日)
・・1932年から1972年まで40年間にわたり、アラバマ州タスキーギの農村で、米国政府の公衆衛生局によって行われた、米国史上最悪の研究不正と言われる「タスキーギ梅毒実験」について

ハーバード大学内でも勃発した世界的著名教授の「論文撤回」騒動 (大西睦子、フォーサイト、2014年4月30日)

裸の王様だったSTAP細胞研究者-こんな研究に数十億円の税金を注ぎ込んだ責任を明らかにすべし (伊東 乾、JBPress、2014年4月9日)
・・研究所の人事そのものに問題があることが示唆されている

【STAP細胞論文問題】科学史上最悪のシェーン論文捏造事件が残した教訓と防止策 (ハフィントンポスト、2014年4月14日)
・・「史上空前規模の論文捏造事件」(2002年)とは「シェーン論文捏造事件」のこと

STAP細胞論文、世界一の不正で「教科書に載る」 改革委員会が指摘 (ハフィントンポスト、2014年6月14日)
・・「STAP細胞の論文をめぐる問題で、理化学研究所(理研)が設置した外部有権者による改革委員会は6月12日、小保方晴子さんらが所属する「発生・再生科学総合研究センター(CDB)」を解体することなどを求める提言書を公開した。同じ日に開かれた改革委員会の記者会見では、委員らがこの問題について「世界の3大不正の一つ」「教科書になる」などと発言。被害は理研だけにとどまらず、今後発表される日本の研究者の論文全体にも影響が及ぶ可能性を指摘した。・・(中略)・・研究者の倫理観を研究している信州大学特任教授の市川家国氏は、STAP論文問題では様々な不正が同時に行われている点を挙げ、2002年にアメリカで起こった「超電導研究不正(シェーン事件)」や、2005年に韓国で起った「ES細胞捏造(ファン・ウソク事件)」と並び、三大不正事件の一つであると断言。「3つの事件のなかでも一番がSTAP細胞論文の問題で、これから教科書的に扱われることになる」と述べた。」

(2014年614日 情報追加)






<ブログ内関連記事>

「セルフブランディング」と「セルフプロデュース」、そして「ストーリー」で「かたる」ということ-「偽ベートーベン詐欺事件」に思う
・・この記事で「騙された消費者もまた共犯者」という趣旨で書いているが、騙された被害者はあくまでも日本国民の一部である。「STAP細胞事件」は、国の予算=納税者の血税を使用しているので、結果として国民全体を被害者にしたのと同じである。河内守よりも、より悪質であるといわざるをえない

書評 『「空気」と「世間」』(鴻上尚史、講談社現代新書、2009)-日本人を無意識のうちに支配する「見えざる2つのチカラ」。日本人は 「空気」 と 「世間」 にどう対応して生きるべきか?
・・「壊れた『世間』にかわって現在の日本人、とくに若い人たちを支配して猛威をふるっているのが『空気』だという指摘は、実に納得いくものである」「安定した状態ではその組織なり人間関係の中で『世間』が機能するが、不安定な状態では『空気』が支配しやすい。/『世間』が長期的、固定的なものであるのに対し、『空気』は瞬間的、その場限りの性格が強い」。

書評 『見える日本 見えない日本-養老孟司対談集-』(養老孟司、清流出版、2003)- 「世間」 という日本人を縛っている人間関係もまた「見えない日本」の一つである
・・解剖学者の養老孟司氏は「学会は世間」であると言っている

集団的意志決定につきまとう「グループ・シンク」という弊害 (きょうのコトバ)
・・グループシンクという「空気」がつくりだす「集団浅慮」のワナ

映画 『es(エス)』(ドイツ、2001)をDVDで初めてみた-1971年の「スタンフォード監獄実験」の映画化
・・視線という権威、権力が支配する空間が「世間」。集団同調圧力は日本人以外にも働くのである

映画 『偽りなき者』(2012、デンマーク)を 渋谷の Bunkamura ル・シネマ)で見てきた-映画にみるデンマークの「空気」と「世間」
・・「世間」も「空気」も特殊日本的現象ではない

レンセラー工科大学(RPI : Rensselaer Polytechnic Institute)を卒業して20年

書評 『「科学者の楽園」をつくった男-大河内正敏と理化学研究所-』(宮田親平、河出文庫、2014)-理研はかつて「科学者の楽園」と呼ばれていたのだが・・

(2014年5月9日 情報追加)




(2012年7月3日発売の拙著です)





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