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2015年11月17日火曜日

書評 『ドイツリスク-「夢見る政治」が引き起こす混乱-』(三好範英、光文社新書、2015)-ドイツの国民性であるロマン派的傾向がもたらす問題を日本人の視点で深堀りする


経済力を背景に政治面でも強大化しつつあるドイツ。このドイツについて、最初にまとまった形で警鐘を鳴らした日本語による出版物は、2015年に出版されたフランスの人口学者エマニュエル・トッド氏によるものであった。

だが、ほぼ同時期に出版された本書は、トッド氏のインタビュー集よりもはるかに面白く有益である

著者は大手新聞社の編集委員。ベルリン特派員としての経歴は、1997~2001年、2006~2008年、2009~2013年の3度にわたる。ドイツ通として、「再統一」後の現代ドイツ社会ををつぶさに見てきた人である。

同じ著者による 2004年に出版された 『戦後の「タブー」を清算するドイツ』(亜紀書房)は興味深い内容であったが、その11年後に出版された本書は、すでにドイツが過去を清算して「普通の国」となっただけでなく、強大化するドイツが世界の政治経済にとっての「リスク要因」であることを、著者に知見を踏まえて突っ込んだ検討を行っている。

欧州で一人勝ちするドイツは、すでに欧州の範囲を超えてユーラシア世界全体に影響を与える存在となりつつある。ドイツ世界に隣接する東方世界のロシア、さらには東端の中国まで含めたユーラシア全体である。島国の日本からみれば、対岸の大陸中国の背後に、ドイツの影がひたひたと迫っているというべきかもしれない。

「リスク要因」となりつつドイツを、著者は「ドリーマー」というキーワードを使用して解明を試みているドリーマーとは、夢見る人のこと。夢想家と言い換えてもいいだろう。著者による定義を引用しておこう。

「夢見る人」を定義するならば、現実を醒めた謙虚な目で見ようとするよりも、自分の抱いている先入観や尺度を対象に読み込み、目的や夢を先行させ、さらには自然や非合理的なものに過度な憧憬(しょうけい)を抱くドイツ的思惟の一つのあり方、である。本書はこの「夢見る人」の概念をてがかりに、ドイツの「危うさ」を解き明かす試みである。(P.11)

「ドリーマー」という表現は、著者によるインタビュー取材の際に、北欧フィンランドの地方政治家が発したものだという。フィンランドはおなじくアジア系のハンガリーとともに、二度の世界大戦でドイツと組んで参戦したが、二回とも手痛い失敗をなめている。ドイツのロマン主義的姿勢に乗る選択にはこりごりしているのだろう。

「夢見る人」的傾向のあるドイツ的思惟とは、別の表現をつかえば、18世紀以降の音楽や文学における「ドイツロマン派」であり、哲学用語をつかえばザイン(Sein)よりもゾレン(Sollen)を重視する立場といってもいいだろう。いずれも目の前にある現実よりも、あるべき姿や理想、そして夢を追い求める傾向のことある。ある種の観念論でもある。

個人的な趣味嗜好の分野であれば、「ドイツロマン派」には問題はない。わたし自身も、ドイツロマン派の音楽や文学は大好きだ。だが、それが個人レベルを超えて、政治の世界でロマン派的傾向が現れると、危険なものとなりかねない。いわゆる「政治的ロマン主義」(カール・シュミット)である。

「夢見る人」ドイツの「危うさ」は、本書のタイトルを使用すれば、「偏向したフクシマ原発事故報道」、「隘路に陥ったエネルギー転換」、「ユーロがパンドラの箱をあけた」、「「プーチン理解者」の登場」、「中国に共鳴するドイツの歴史観」となる。日本人から見たドイツへの違和感が見事に表現されたタイトルであり、内容はいずれも読み応えのあるものだ。

『ドイツロマン派とナチズム』(ヘルムート・プレスナー、松本道介訳、講談社学術文庫、1995)という本がある。近代化したドイツからなぜナチズムが生まれ、しかもドイツ人が熱狂的に支持したのかを解明した名著である。ドイツ語の原題は「遅れてきた国民」(Die verspätete Nation)というものだが、『ドイツロマン派とナチズム』という日本語版のタイトルは、内容を的確に表現したものといえる。

21世紀になっても、依然として「夢見る人」というロマン派的な思考回路をもつドイツ人が、またなにか大きな問題を引き起こして道を誤るではないかと懸念する声があるのも、当然のことかもしれない。歴史はそのままでは繰り返さないが、ある種の共通するパタンが繰り返し出現することがある。

英語人がネガティブに捉える思考パタンに、希望的観測(wishful thinking)というものがある。現実を直視しない思考傾向のことであり、英米のビジネス界では戒めのコトバとしてとくに強調されるものである。「夢見る人」の思考パタンそのものといえよう。

もちろんドイツでも、結果が数字で明確になるビジネス界は現実主義に立脚しているが、「夢見る人」の最たるものであるエコロジー政党の「緑の党」の関係者にに支配されたマスコミとの乖離がきわめて大きいことが本書でも指摘されている。この件については、日本でも似たような傾向があるかもしれない。

「ドイツ的 vs アングロサクソン的」という二項対立で物事を把握することは、やや単純化の傾向がなきにしもあらずだが、著者が具体的に記事内容を比較対象している、ドイツの大手メディアと英米メディアの報道姿勢の違いには目を見張るものがある。とくに福島第一原発報道についての具体的に比較した本書の記述を読めば、ドイツの大手マスコミ報道の偏向ぶりには驚きを禁じえないはずだ。

ドイツと同様、第二次世界大戦において取り返しのつかない大きな失敗を引き起こした日本と日本人は、ドイツを「他山の石」として捉えるべきなのである。本書は、日本では依然として根強い「ドイツ見習え論」に警鐘を鳴らした内容の本である。

見習うべきは見習い、反面教師とすべきものはそう受け取るべきである是々非々の態度である。人の振り見てわが振り直せ、である。とかく情緒的になりがちな日本人は、大いに心すべきことである。

日本人の認識変容に寄与することが大きい本書を、ぜひ読むことを薦めたい。





目 次  

はじめに 危うい大国ドイツ-夢見る政治が引き起こす混乱
第1章 偏向したフクシマ原発事故報道
 1 グロテスクだったドイツメディア
 2 高まる日本社会への批判
 3 原発を倫理問題として扱うドイツ
第2章 隘路に陥ったエネルギー転換
 1 原発推進を掲げる政治勢力は存在しない
 2 急速な自然エネルギーの普及
 3 不安定化する電力需給システム
 4 ドイツ人ならやり遂げる、という幻想
第3章 ユーロがパンドラの箱をあけた
 1 それはギリシャから始まった
 2 「戦後ドイツ」へのルサンチマン
 3 夢を諦めない人々
 4 綱渡りを強いられるメルケル
 5 「夢見るドイツ」がユーロを生み出した
第4章 「プーチン理解者」の登場
 1 緊密化する対ロシア関係
 2 「東への夢」の対象としてのロシア、中国
第5章 中国に共鳴するドイツの歴史観
 1 歴史問題での攻勢
 2 歴史認識がなぜ中国に傾くのか
おわりに ロマン主義思想の投げかける長い影


著者プロフィール  
三好範英(みよしのりひで)
1959年東京都生まれ。東京大学教養学部相関社会科学分科卒。1982年、読売新聞入社。1990~1993、バンコク、プノンペン特派員。1997~2001年、2006~2008年、2009~2013年、ベルリン特派員。現在、編集委員。著書に『特派員報告カンボジアPKO 地域紛争解決と国連』『戦後の「タブー」を清算するドイツ』(以上、亜紀書房)、『蘇る「国家」と「歴史」 ポスト冷戦20年の欧州』(芙蓉書房出版)。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。







<関連サイト>

How Berlin’s Futuristic Airport Became a $6 Billion Embarrassment : Inside Germany’s profligate (Greek-like !) fiasco called Berlin Brandenburg (Bloomberg BusinessWeek, July 23, 2015 by Joshua Hammer)
・・なぜか日本のマスコミではほとんど取り上げられていないベルリンの3つの空港の統合プロジェクト。本書でもドイツの大失敗事例として言及されているが、ドイツが規律正しいという評判に疑問を抱かせるのに十分な事例である
“The number of defects that they’ve found has grown to 150,000” これもまた現代ドイツの現実だ。

(Bloomberg BusinessWeek の特集より)


ドイツの「夢見る体質」が抱える3つのリスク 欧州の優等生はなぜ混乱しているのか (幻冬舎plus、東洋経済オンライン、 2015年11月26日)
・・『ドイツリスク-「夢見る政治」が引き起こす混乱-』著者の三好範英氏が執筆

【日本人へ】 なぜ、ドイツ人は嫌われるのか(塩野七生、「文藝春秋」2015年9月号 巻頭エッセイ)
・・イタリア人詐欺団による『300ユーロ紙幣事件』でだまされたドイツ人の話

ケルン暴力事件で露わになった「文明の衝突」 欧州難民危機と対テロ戦争の袋小路(中) (熊谷 徹、日経ビジネスオンライン、2016年1月19日)
・・ロマン主義的政治姿勢が招いた結果がこれか?

ドイツも中国に見切り…不要論まで飛び出す強烈な手のひら返し (MAG2ニュース 国際、2016年1月27日)
・・「無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者、北野幸伯氏が中国経済の状況に不安を感じたドイツが中国を見放し始めていることを指摘

ドイツ人教授が、E・トッドらのドイツ脅威論に反論する (フランク・レーヴェカンプ、幻冬舎plus、2016年4月9日)

メルケル首相も王毅外相も見落としている-日本とドイツでは戦後状況が異なる (遠藤誉、2015年3月10日)
・・「ドイツのヨーロッパ近隣諸国における戦後処理と、日本の戦後処理は全く異なり、日本には選択の余地はなかった。アメリカの言う通りに動き、アメリカのご機嫌をうかがいながら、その意向に沿って動く以外になかったのだ。メルケル首相も王毅外相も、その事実を直視していない」 つまり中国とドイツは、事実から目を背けほっかむりしているということだ。

(2015年11月28日、2016年1月2日、19日、27日、5月21日、7月27日 情報追加)






<ブログ内関連記事>

書評 『驕れる白人と闘うための日本近代史』(松原久子、田中敏訳、文春文庫、2008 単行本初版 2005)-ドイツ人読者にむけて書かれた日本近代史は日本人にとっても有益な内容
・・「優雅さを湛えつつ、ぴしりと叩きつける。微笑みつつ、ぐさりと切り付ける。その防御と攻撃の武器」(・・第16章で使用されている著者の表現)を駆使する国際派日本女性の手になる必読書

書評 『ブーメラン-欧州から恐慌が返ってくる-』(マイケル・ルイス、東江一紀訳、文藝春秋社、2012)-欧州「メルトダウン・ツアー」で知る「欧州比較国民性論」とその教訓
・・「秩序と規律をこよなく愛すドイツ人は、ギリシアとはまさに正反対にあるこことは言うまでもない。だが、そのドイツにも落とし穴があったことを指摘するルイスはじつに鋭い。「リーマンショック」の際、ドイツの金融機関が無傷であったわけではないのだ。「ルールを偏愛するがゆえの脇の甘さ」という指摘はじつに示唆に富む。米国の金融機関が、まさかルールにはずれたことをしているとは想定もしなかかったという脇の甘さを指摘している


「勝ち組」ドイツについての考察-はたしてドイツはヨーロッパか?

書評 『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる-日本人への警告-』(エマニュエル・トッド、堀茂樹訳、文春新書、2015)-歴史人口学者が大胆な表現と切り口で欧州情勢を斬る 
・・「気がついたら出現していた「ドイツ帝国」。はたしてドイツ人に帝国をマネジメントしていく覚悟と能力があるのか? 「ドイツ帝国」がふたたび世界の混乱要因となるのではないかという著者の懸念と憂慮は、大いに傾聴に値する」

書評 『アラブ革命はなぜ起きたか-デモグラフィーとデモクラシー-』(エマニュエル・トッド、石崎晴己訳、藤原書店、2011)-宗教でも文化でもなく「デモグラフィー(人口動態)で考えよ!
 ・・「西洋民主主義とは、その最も狭い意味において、その出発点において、その創設的中核というものは、フランス、イングランド、アメリカ合衆国だからです。つまりはトックヴィルの世界なのです。今日、歴史的な西洋というのが、当初から政治面でドイツを含んでいたなどという考えは、妄想というべきなのです」(トッド)


ドイツ現代史

書評 『なぜメルケルは「転向」したのか-ドイツ原子力40年戦争の真実-』(熊谷 徹、日経BP社、2012)-なぜドイツは「挙国一致」で「脱原発」になだれ込んだのか?
・・「本書を読むと、先進工業国という共通性をもちながら、およそドイツ人と日本人は似て非なる民族であることが手に取るようにわかる。ユーラシア大陸の東端にある島国と、大陸の「中欧」国家であるドイツとは地政学的条件もまったく異なるのである。陸続きで何度も国土を蹂躙された経験をもつドイツ人の不安心理は長い歴史経験からくるものであろう。(・・中略・・) もちろん日本人の「根拠なき楽観」は大きな問題だが、といって一概にドイツを礼賛する気にはなれない。なんだかナチスドイツに一斉になびいた戦前のドイツを想起してしまうからだ。」 怒濤のように「反原発」になだれ込んだドイツ。なにか危ういものを感じるのはわたしだけだろうか?

ベルリンの壁崩壊から20年-ドイツにとってこの20年は何であったのか?

映画 『バーダー・マインホフ-理想の果てに-』(ドイツ、2008年)を見て考えたこと ・・1968世代のなかから生まれた極左テロ組織の末路


近代の病としてのロマン主義

書評 『オウム真理教の精神史-ロマン主義・全体主義・原理主義-』(大田俊寛、春秋社、2011)-「近代の闇」は20世紀末の日本でオウム真理教というカルト集団に流れ込んだ

「ユートピア」は挫折する運命にある-「未来」に魅力なく、「過去」も美化できない時代を生きるということ


現実主義の思考方法

「ログブック」をつける-「事実」と「感想」を区分する努力が日本人には必要だ
・・「戦前・戦中」と「戦後」を区分して考えたいのは人の性(さが)。だが、事実と解釈は区分して考えないと道を誤る

「是々非々」(ぜぜひひ)という態度は是(ぜ)か非(ひ)か?-「それとこれとは別問題だ」という冷静な態度をもつ「勇気」が必要だ

書評 『国際メディア情報戦』(高木 徹、講談社現代新書、2014)-「現代の総力戦」は「情報発信力」で自らの倫理的優位性を世界に納得させることにある
・・世界を支配するのは英語による英米メディアである


日本もまた過去に大きな問題を引き起こした

『王道楽土の戦争』(吉田司、NHKブックス、2005)二部作で、「戦前・戦中」と「戦後」を連続したものと捉える
・・ドイツや日本などの「敗戦国」は、過去を全否定するという「断絶史観」への誘惑が強く存在するが、それは正しいものの見方ではない

『愛と暴力の戦後とその後』 (赤坂真理、講談社現代新書、2014)を読んで、歴史の「断絶」と「連続」について考えてみる

(2016年1月23日 情報追加)



(2012年7月3日発売の拙著です)










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