月刊誌「クーリエ・ジャポン COURRiER Japon」 2010年3月号の献本が、「R+ レビュープラス」から本日午後に届いたので、さっそく目をとおしてみた。
「貧困大国(アメリカ)の真実」の責任編集を担当した堤未果は、『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書、2008)で一躍有名になったジャーナリストである。1991年、米国野村證券に勤務したいたときに9-11に遭遇、ジャーナリストに転身したという。
この本は著者の顔写真(カラー)のある帯付きで、書店の店頭に山積みになっているので存在そのものは知っており、またアマゾンの書評では本日現在、なんと130本もレビューが寄せられている!が、私自身はこの新書本には目を通してはいない。
内容を紹介しておこう。基本的にアメリカを中心とした雑誌記事の日本語訳で構成されているので、米国の現状を米国人自身の眼をとおして見ることができる。
堤未果インタビュー 「色褪せたHOPE、もう一つの希望」
ブッシュ政権下で米国は「貧困大国化」が進み、
一握りの富裕層が富を独占し、貧困層が拡大する社会になった。
「変化」への希望を託されて大統領になったオバマは、
その流れを止められたのか。堤氏が米国で見たものとは。
Part1 「貧困大国」は変わったか?
あの日から1年、オバマはアメリカをどう変えたのか
1日2万人のペースで増え続ける「フードスタンプ」受給者の衝撃
Part2 人間の尊厳を奪う「医療崩壊」
タイム誌記者の家族が直面した民間医療保険の "不都合な現実"
「医療破産」が忍び寄るシニア世代の "懐事情"
国から見棄てられた哀しき「医療難民」たち
Part3 学生を借金漬けにする教育システム
授業料の高騰がもたらす「大学教育崩壊」の危機
高金利の学資ローンが学生たちの未来を奪う
「金持ち」を優遇する名門大学の入学試験
Part4 民営化で加速する「刑務所ビジネス」
営利企業が支配するアメリカの「罪と罰」
貧困層を死ぬまで搾取する「保護観察」という名のビジネス
Essay 真の「チェンジ」を起こすもの (堤未果)
奨学金の返済負担が若者に重くのしかかっている記事や、「刑務所ビジネス」の実態についての記事は、マイケル・ムーア監督の映画『キャピタリズム-マネーは踊る-』でも取り上げられたのでその実態については知っていたが、あらためて活字で読むと暗澹(あんたん)とした気持ちにならざるをえない。
『キャピタリズム』については、このブログでも、CAPITALISM: A LOVE STORY、および マイケル・ムーアの最新作 『キャピタリズム』をみて、資本主義に対するカトリック教会の態度について考える、と2回にわたって書いているので、参照していただきたい。
また、「医療保険改革」がいかに骨抜きにされたかについての記事は、結局のところ「オバマの改革」とはいったい何だったのか、民間保険会社が儲かるような「改革」となっていったか、その実相について知ることができた。
現在の米国は、 最貧層からさらに搾り取る、いわゆる「貧困ビジネス」がいかに米国ではびこっているか、そのおぞましい実態を知ることができる。私が米国に滞在していた1990年から1992年にかけての期間においても、すでに中流階層の崩壊が指摘されていたが、この動きはまったく止まることなく、かえって加速しているようだ。日本の状況は、経済アナリストの門倉貴志が『貧困ビジネス』(幻冬舎新書、2009)で 扱っているが、米国の状況は想像を越えている。
1981年のレーガン大統領就任以降の約30年間、歴代の政権によって政党に関係なく、金持ちに有利な政策誘導がなされてきたが、行き過ぎた格差を是正すべく選ばれたオバマ大統領も彼一人のチカラではこのアメリカの現実を変えることはできないのだろうか。それとも、この特集で堤 未果が指摘しているように、献金総額の7割が企業献金が占めるという状況から考えれば、そもそもオバマは誰の利害で動いているのかについて疑問をもつのが健全な見方といえるだろう。
しかし、この特集だけを読んで、これが米国の現実すべてだとは思わない方がいい。私が書いた書評 『超・格差社会アメリカの真実』(小林由美、文春文庫、2009)を読んでいただくのがいいと思う。
『超・格差社会アメリカの真実』によれば、富が平準化した時代は、大恐慌後の1930年代から1970年代までの期間だけであり、アメリカ史においては、あくまでも例外なのである。一方では、米国は実力ある人間や才能ある人間には広く「開かれた社会」であり続けている。依然として、移民流入による人口増加があり、またそれが要因の一つとしてイノベーションを引き起こし、さらなるな富を創りだしている国であり、「リーマンショック」による金融危機を乗り切った後は、格差をさらに拡大させながらも、国全体としては再び成長軌道に戻ると予想される。
日本が米国のような「開かれた社会」でない以上、また「敗者復活戦」の余地がきわめて小さい社会である以上、少子高齢化によって人口減少の方向にある「下り坂社会」を乗り切るためには、格差是正はかけ声だけで終わってはならない。とくにカギとなるのは教育問題である。
日本は米国をそっくりそのままモデルとするのではなく、米国の負の側面から大いに教訓を学ぶ必要がある。そうでないと、日本全体の国力が大幅に低下してしまうことになる。
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さて、総特集以外の記事では「サザビーズジャパン社長と考えた アート市場からみる世界経済」という特集が面白かったが、このほかも面白い記事が多い。「クーリエ・ジャポン」はひさびさに読んだが、かなり読み応えのある記事が多かった。
ただ翻訳記事が大半なので、たとえ翻訳文はうまくできているといっても、正直なところ最初から日本語で書かれた、もう少し読みやすい文章もあったほうがいいのではないかとは思う。しかしそれでは、この雑誌のコンセプトに反してしまうかもしれないのだが・・・。
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<関連サイト>
大学進学はペイする投資なのか 高卒職場に大卒者がなだれ込む米国の苦悩 (太田智之、日経ビジネスオンライン、2014年6月12日)
・・奨学金の返済負担が若者に重くのしかかっている記事
Student Debt Threatens the Safety Net for Elderly Americans (Bloomberg BusinesWeek, August 12, 2014)
・・奨学金ローン返済問題は50歳代以上にも及び始めている
(2014年6月12日 項目新設 2014年8月13日 情報追加)
<ブログ内関連記事>
書評 『超・格差社会アメリカの真実』(小林由美、文春文庫、2009)-アメリカの本質を知りたいという人には、私はこの一冊をイチオシとして推薦したい
(2014年6月12日 項目新設)
(2012年7月3日発売の拙著です)
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