■「海域アジア」を舞台にした英国から米国への覇権交代と浮上する中国、そして「海洋国家」日本の復活をインドネシア中心に描いた戦後日本現代史■
敗戦によって満洲を含めた海外植民地のすべてを失った「大陸国家」日本は、戦後「海洋国家」として活路を見いだし、復活に成功した。
本書は、この「海洋国家」日本の戦後史を、東南アジアを舞台に、大きく変化する国際関係のなかで描いた好著である。
かつて日本人が「南方」とよんでいた地域は、現在では戦時中に大英帝国が命名した「東南アジア」とよばれている。大英帝国は、第二次大戦の勝利者となったにもかかわらず国力を急速に失い、植民地が次々に独立して解体、東南アジアの覇権は、海軍力で世界を圧倒する米国に取ってかわられた。
「市場としての中国」を失った敗戦国日本は、冷戦構造のなか、米国の反共戦略の一環として「市場としての東南アジア」での経済活動を許され、「戦後賠償」というひも付き援助によって、日本企業の東南アジア進出を後押ししてゆく。
こうして戦前の「大陸国家」の痛い失敗から立ち直った日本は、米国の世界戦略の枠組みのなかで「海洋国家」として復活をとげたのである。
タイトルには直接でてこないが、日本の戦後復興と高度経済成長が、とくに資源大国インドネシアとのかかわり抜きにはありえなかったことが活写されている。
日本政府は、スカルノ大統領が盟主となった非同盟の「第三世界」ではなく、日米安保条約による同盟国米国の枠組みのなか、実利を求める道を選択した。
「戦後アジアの転換点」になった1965年の「九・三〇事件」でスカルノ大統領が失脚、軍人出身のスハルト大統領が以後「開発独裁」体制を進めていくが、これを全面的に支えたのが日本であった。
冷戦構造が1991年に崩壊し、その後発生した1997年の「アジア金融危機」でスハルト大統領が失脚、日本のインドネシアに対する姿勢は大きく変化することを求められたが、迷走を続けている。
戦後アジアにおいて、米国と並ぶプレイヤーであり続けた中国と日本の綱引きも実に興味深い。
戦後日本現代史に興味をもつ人だけでなく、インドネシア現代史、米国と中国の国際関係に関心をもつ人にも読んでほしい。おすすめである。
<初出情報>
■bk1書評「「海域アジア」を舞台にした英国から米国への覇権交代と浮上する中国、そして「海洋国家」日本の復活をインドネシア中心に描いた戦後日本現代史」投稿掲載(2010年2月10日)
*再録にあたって一部字句の修正を行った。
PS 「増補版」が2017年8月7日に「ちくま学芸文庫」から刊行
『増補 海洋国家日本の戦後史-アジア変貌の軌跡を読み解く-』と改題したうえで、増補版が「ちくま学芸文庫」から2017年8月7日に刊行。良書は生き続けるということでしょう。(2017年7月19日 記す)
<書評への付記>
■「海洋国家」とインドネシア現代史にかんする記事
内容については書評に書いたとおりであるので、とくに付け加えることはない。読んでから時間がたっていたが、テーマの関連性から書評として仕立て上げ、紹介することとした次第。
いままで書いたブログのなかから、「海洋国家」日本とインドネシア現代史にかんするものを掲載しておきます。
書評 『海洋国家日本の構想』(高坂正堯、中公クラシックス、2008)
・・通商国家日本の生存条件について書かれた戦後日本の古典的名著
タイのあれこれ (21) バンコク以外からタイに入国する方法-危機対応時のロジスティクスについての体験と考察-
・・急ぎの貨物は航空貨物(エア)で飛ばす。海上貨物輸送の論理的延長である航空貨物の世界と、ロジスティクスと危機管理についての体験談
書評 『100年予測-世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図-』(ジョージ・フリードマン、櫻井祐子訳、早川書房、2009)
・・通商保護のカギである制海権、その担い手である米国海軍のパワーについて
NHKスペシャル『海軍400時間の証言』 第一回 「開戦 海軍あって国家なし」(2009年8月9日放送)
「海軍神話」の崩壊-"サイレント・ネイビー"とは"やましき沈黙"のことだったのか・・・
・・日本海軍は太平洋の覇権をめぐった対米戦において完膚無きまでにたたきのめされ、敗戦後は日本は米国の同盟国として「海洋国家」の担い手の一つとして海上自衛隊として再生する。なぜ日本海軍は米国海軍に敗れたのか? ただ単に物量の差だけだったのか? 内部組織に問題があったのではなかったのか?
書評 『田中角栄 封じられた資源戦略-石油、ウラン、そしてアメリカとの闘い-』(山岡淳一郎、草思社、2009)
・・この本も、タイトルには直接でてこないが、日本の戦後史とインドネシアが密接な関係にあったことも重要なテーマの一つである
書評 『帰還せず-残留日本兵 60年目の証言-』(青沼陽一郎、新潮文庫、2009)
・・とくにインドネシアで大東亜戦争を闘った一般兵士たちとインドネシア独立戦争について
原爆記念日とローレンス・ヴァン・デル・ポストの『新月の夜』
・・英国陸軍コマンド部隊の大佐として、インドネシアで日本軍と戦い、捕虜収容所で終戦を迎えた南アフリカ出身の作家について
インドネシアについて考えるにあたっては、旧宗主国である植民地国家オランダ、大英帝国、米国、日本、中国、東南アジア・・といったプレイヤーを視野に入れないと見えてこないことも多い。
インドネシア経済はようやく回復傾向にあり、最近は景気のいい話を聞くことも多い。しかし実際そこでビジネスをやるのは、それはそれで難しい点もあるのだが・・・
追加(2014年7月9日)
■オランダ領東インドと日本
書評 『西欧の植民地喪失と日本-オランダ領東インドの消滅と日本軍抑留所-』(ルディ・カウスブルック、近藤紀子訳、草思社、1998)-オランダ人にとって東インド(=インドネシア)喪失とは何であったのか
書評 『五十年ぶりの日本軍抑留所-バンドンへの旅-』(F・スプリンガー、近藤紀子訳、草思社、2000 原著出版 1993)-現代オランダ人にとってのインドネシア、そして植民地時代のオランダ領東インド
・・『西欧の植民地喪失と日本-オランダ領東インドの消滅と日本軍抑留所-』の2年後に日本で翻訳出版された。ともに健忘症の日本人への警鐘と受け取りたい。重要なことはバランスのとれた「ものの見方」。夜郎自大にならず、卑屈にも自虐的にもならず・・
『戦場のメリークリスマス』(1983年)の原作は 『影の獄にて』(ローレンス・ヴァン・デル・ポスト)という小説-追悼 大島渚監督
・・日本占領時代のジャワ島の捕虜収容所が舞台
■インドネシア現代史
GRIPS特別講演会 「インドネシア経済の展望」(2012年10月11日)に参加してきた-2025年にGDP世界第12位を目標設定しているインドネシアは、内需中心の経済構造
映画 『アクト・オブ・キリング』(デンマーク・ノルウェー・英国、2012)をみてきた(2014年4月)-インドネシア現代史の暗部「9・30事件」を「加害者」の側から描くという方法論がもたらした成果に注目!
(2014年7月9日 追加)
戦後アジアにおいて、米国と並ぶプレイヤーであり続けた中国と日本の綱引きも実に興味深い。
戦後日本現代史に興味をもつ人だけでなく、インドネシア現代史、米国と中国の国際関係に関心をもつ人にも読んでほしい。おすすめである。
<初出情報>
■bk1書評「「海域アジア」を舞台にした英国から米国への覇権交代と浮上する中国、そして「海洋国家」日本の復活をインドネシア中心に描いた戦後日本現代史」投稿掲載(2010年2月10日)
*再録にあたって一部字句の修正を行った。
『増補 海洋国家日本の戦後史-アジア変貌の軌跡を読み解く-』と改題したうえで、増補版が「ちくま学芸文庫」から2017年8月7日に刊行。良書は生き続けるということでしょう。(2017年7月19日 記す)
<書評への付記>
■「海洋国家」とインドネシア現代史にかんする記事
内容については書評に書いたとおりであるので、とくに付け加えることはない。読んでから時間がたっていたが、テーマの関連性から書評として仕立て上げ、紹介することとした次第。
いままで書いたブログのなかから、「海洋国家」日本とインドネシア現代史にかんするものを掲載しておきます。
書評 『海洋国家日本の構想』(高坂正堯、中公クラシックス、2008)
・・通商国家日本の生存条件について書かれた戦後日本の古典的名著
タイのあれこれ (21) バンコク以外からタイに入国する方法-危機対応時のロジスティクスについての体験と考察-
・・急ぎの貨物は航空貨物(エア)で飛ばす。海上貨物輸送の論理的延長である航空貨物の世界と、ロジスティクスと危機管理についての体験談
書評 『100年予測-世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図-』(ジョージ・フリードマン、櫻井祐子訳、早川書房、2009)
・・通商保護のカギである制海権、その担い手である米国海軍のパワーについて
NHKスペシャル『海軍400時間の証言』 第一回 「開戦 海軍あって国家なし」(2009年8月9日放送)
「海軍神話」の崩壊-"サイレント・ネイビー"とは"やましき沈黙"のことだったのか・・・
・・日本海軍は太平洋の覇権をめぐった対米戦において完膚無きまでにたたきのめされ、敗戦後は日本は米国の同盟国として「海洋国家」の担い手の一つとして海上自衛隊として再生する。なぜ日本海軍は米国海軍に敗れたのか? ただ単に物量の差だけだったのか? 内部組織に問題があったのではなかったのか?
書評 『田中角栄 封じられた資源戦略-石油、ウラン、そしてアメリカとの闘い-』(山岡淳一郎、草思社、2009)
・・この本も、タイトルには直接でてこないが、日本の戦後史とインドネシアが密接な関係にあったことも重要なテーマの一つである
書評 『帰還せず-残留日本兵 60年目の証言-』(青沼陽一郎、新潮文庫、2009)
・・とくにインドネシアで大東亜戦争を闘った一般兵士たちとインドネシア独立戦争について
原爆記念日とローレンス・ヴァン・デル・ポストの『新月の夜』
・・英国陸軍コマンド部隊の大佐として、インドネシアで日本軍と戦い、捕虜収容所で終戦を迎えた南アフリカ出身の作家について
インドネシアについて考えるにあたっては、旧宗主国である植民地国家オランダ、大英帝国、米国、日本、中国、東南アジア・・といったプレイヤーを視野に入れないと見えてこないことも多い。
インドネシア経済はようやく回復傾向にあり、最近は景気のいい話を聞くことも多い。しかし実際そこでビジネスをやるのは、それはそれで難しい点もあるのだが・・・
追加(2014年7月9日)
■オランダ領東インドと日本
書評 『西欧の植民地喪失と日本-オランダ領東インドの消滅と日本軍抑留所-』(ルディ・カウスブルック、近藤紀子訳、草思社、1998)-オランダ人にとって東インド(=インドネシア)喪失とは何であったのか
書評 『五十年ぶりの日本軍抑留所-バンドンへの旅-』(F・スプリンガー、近藤紀子訳、草思社、2000 原著出版 1993)-現代オランダ人にとってのインドネシア、そして植民地時代のオランダ領東インド
・・『西欧の植民地喪失と日本-オランダ領東インドの消滅と日本軍抑留所-』の2年後に日本で翻訳出版された。ともに健忘症の日本人への警鐘と受け取りたい。重要なことはバランスのとれた「ものの見方」。夜郎自大にならず、卑屈にも自虐的にもならず・・
・・日本占領時代のジャワ島の捕虜収容所が舞台
■インドネシア現代史
GRIPS特別講演会 「インドネシア経済の展望」(2012年10月11日)に参加してきた-2025年にGDP世界第12位を目標設定しているインドネシアは、内需中心の経済構造
映画 『アクト・オブ・キリング』(デンマーク・ノルウェー・英国、2012)をみてきた(2014年4月)-インドネシア現代史の暗部「9・30事件」を「加害者」の側から描くという方法論がもたらした成果に注目!
(2014年7月9日 追加)
(2023年11月25日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2022年12月23日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2022年6月24日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2021年11月19日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2021年10月22日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2020年12月18日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2012年7月3日発売の拙著です 画像をクリック!)
end