■アメリカの本質を知りたいという人には、私はこの一冊をイチオシとして推薦したい。■
単行本出版時点(2006年)で滞米26年になる、経営戦略コンサルタントでアナリストの日本人が書いた「超・格差社会アメリカの真実」。
著者は、シリコンバレーでベンチャー・キャピタルやM & A、不動産の世界で仕事をしてきた人なので、経済データ分析はお手のものである。
資本主義の総本山アメリカの本質を、これほど真っ正面から取り組んで、政治・経済の歴史的変遷を綿密に分析し語り尽くした本は、他にはないのではないだろうか。
本書こそ、まさに真の意味でアメリカとは何かを明らかにした本であり、類書が及ばない説得力をもつ。
アメリカの本質を知りたいという人には、私はこの一冊をイチオシとして推薦したい。極端な話、この本を熟読すれば、アメリカの真の姿をつかむことができるといっても過言ではないのだ。読めばかならずや、日本人が一般に抱いているアメリカに対する固定観念が修正を迫られるだろう。
M.B.A.を取得するために1990年代はじめに2年間アメリカに滞在した私の実感からみても、本書の内容は誇張なしで120% 納得のいく内容である。単行本で初めて読んだとき、「こういう本が読みたかったのだ」、「こういう本を待っていたのだ」と強く思ったくらいである。それ以来、アメリカの真の姿を知りたいという人には、何よりもまずこの本を読むように薦めている。
「豊かな中流階級」が崩壊し、アメリカは極端な格差社会になってしまった、というのが、現在の多くの日本人一般の常識だろう。だからもうこれ以上、アメリカをモデルになんかするな、と。
しかし著者によれば、富が平準化した時代は、大恐慌後の1930年代から1970年代までの期間だけであり、アメリカ史においては、あくまでも例外なのである。植民地時代から250年間にわたって国土を戦争によって破壊されたことのないアメリカ東部には富が蓄積し、しかも南北戦争の勝利によって富の偏在はさらに加速した。
しかも自分のチカラで「カネ儲けすること」が尊敬される、これは国民的な合意事項である。ベースボールをはじめとするプロスポーツだけでなく、アートの世界でも、ベンチャービジネスでも、実力ある者には豊富な可能性が開かれた、風通しのいい社会としての魅力も失っていない。
日本人の目からみたこの矛楯は、どう説明したらいいのだろうか。そもそも日本とアメリカは根本的に違うのではないか?
著者による説明はぜひ本文を読んでほしいところだが、内容を説明するよりも、ここでは目次をみてもらうのがいいだろう。ここから著者が使うキーワードが何かを読み取ってほしい。
第1章 超・階層社会アメリカの現実
-「特権階級」「プロフェッショナル階級」「貧困層」「落ちこぼれ」
第2章 アメリカの富の偏在はなぜ起きたのか?
-ウォール街を代理人とする特権階級が政権をコントロールする国
第3章 レーガン、クリントン、ブッシュ・ジュニア政権下の富の移動
第4章 アメリカン・ドリームと金権体質の歴史
-自由の国アメリカはいかにして階級社会国家となったのか?
第5章 アメリカの教育が抱える問題
-なぜアメリカの基礎教育は先進国で最低水準となったのか?
第6章 アメリカの政策目標作成のメカニズムとグローバリゼーションの関係
-シンクタンクのエリートたちがつくり、政治家たちが国民に説明するカラクリについて
第7章 それでもなぜアメリカ社会は「心地よい」のか?
-クリエイティビティが次々と事業化されてくる秘密
第8章 アメリカ社会の本質とその行方
-アメリカ型の市場資本主義が広がると、世界はどうなるのか?
第9章 アメリカ発世界経済危機はなぜ起こったのか?
-レーガン以降のアメリカ政権の経済政策を検証する
文庫版(2009年)の出版にあたって、第9章が付け加えられた。
1981年のレーガン大統領就任以降の約30年間、歴代の政権によって政党に関係なく、いかに金持ちに有利な政策誘導がなされたか、語り尽くして余すところはない。
行き過ぎた格差を是正すべく選ばれたオバマ大統領が政権についてから2年目になるが、彼一人ではこのアメリカの現実を変えることはできないのではないかという気持ちにもさせられる。せいぜい行き過ぎた面を修正する程度だろう。いや、もしかするとオバマ自身、徐々に軌道修正を始めているのかもしれない・・・
政治・経済にかんする分析が中心なので、読みにくい内容だと感じる人がいるかもしれないが、非常にロジカルな、英語のような硬質な文体の日本語で書かれた本であり、読んで得るものがきわめて多いはずだ。
何度も繰り返すが、アメリカの本質を知りたいという人には、私はこの一冊をイチオシとして推薦したい。読んで絶対に損はありませんよ!
(画像をクリック!)
<初出情報>
■bk1書評「アメリカの本質を知りたいという人には、私はこの一冊をイチオシとして推薦したい。」投稿掲載(2010年2月11日)
<書評への付記>
とくに付け加えることはないが、文庫版の帯の文句ーは「売らんかな」キャッチコピーであって、本文をじっくり読むと、著者のニュアンスとは少し違うような気がする。直接読むにしくはない。
本書に描かれたアメリカ社会の状況は、そのままかなりの程度まで、東南アジアのタイ王国にもあてはまるように思われる、というのが私の実感である。そもそも格差社会の下層におかれた人々は、金持ち階級は自分には関係ない人たちだと思っているので、比較の対象とはしておらず、したがって不幸せに思っている人は意外に多くないのだ。もちろん、タイの場合は上座仏教のカルマ概念が背景にあるようだが。
ただし、崩壊する中間層に属する人たちにとっては苦痛以外の何者でもないだろう。いま日本で進行しているのはまさにこの状況である。
日本については、書評『現代日本の転機-「自由」と「安定」のジレンマ-』(高原基彰、NHKブックス、2009)を参照。アメリカに比べて20~30年後に、「周回遅れ」で日本はこの事態に見舞われていると考えるべきなのだ。
アメリカの場合は、キリスト教には、「貧しき者こそ幸いなれ」というコトバが聖書にもあるとおり、最初から下層にいる人にはある種の慰めにはなるであろう。
しかし、ここ20~30年のあいだに中産階級から脱落しと人たちにとっては、生活レベルの低下以上に、精神的なダメージが大きいだろう。なんともいえない気持ちになる。私の場合は・・・
P.S. 読みやすくするために改行を増やし、太字ゴチックで重要なポイントを表示するようにした、なお、文章にはいっさい手入れてない(2013年4月14日 記す)
<関連サイト>
ピケティ『21世紀の資本論』はなぜ論争を呼んでいるのか (4/6) (齋藤精一郎、nikkei BPnet、 2014年5月20日)
・・「歴史的に見ると、戦後の一時期を除いて、資本収益率は経済成長率を上回っているというのがピケティの注目すべき指摘」 英訳されて話題になっているというフランスの経済学者が税務統計を使用して分析した「格差」の実態
世界で大論争、大著『21世紀の資本論』で考える良い不平等と悪い不平等-フランス人経済学者トマ・ピケティ氏が起こした波紋 (澁谷 浩、日経ビジネスオンライン、2014年6月3日)
・・ピケティが行った長期所得分析を詳細に解説した論文。読み応えあり
Technical appendix of the book « Capital in the 21st century » Thomas Piketty Harvard University Press - March 2014 Figures and tables presented in the book (Pdf.)
・・ピケティの『資本論』に登場する図表へのリンク一覧
Thomas Piketty: New thoughts on capital in the twenty-first century (TED, Filmed June 2014 at TEDSalon Berlin 2014)
・・ピケティ自身がTEDに出演して自説を解説。フランス語なまりの英語が聴き取りにくいが、英語字幕あり
Student Debt Threatens the Safety Net for Elderly Americans (Bloomberg BusinesWeek, August 12, 2014)
・・奨学金ローン返済問題は50歳代以上にも及び始めている
Student-Loan Delinquencies Rise in U.S. (Bloomberg BusinesWeek, Feburuary 18, 2015)
・・奨学金ローン返済問題がさらに悪化、自動車ローン返済不能を上回っている
(2014年5月21日 項目新設 2014年6月3日、8月13日、10月26日、2015年2月18日 情報追加)
<ブログ内関連記事>
喉元過ぎれば熱さを忘れる?-「リーマンショック」から10年(2018年9月15日)
・・本書の著者・小林由美氏の最新作は、その後の米国資本主義がさらに格差を拡大させている現状を詳説している
GMついに破綻-マイケル・ムーアの "Roger & Me" から20年
・・ムーア監督の1989年の作品『ロジャー&ミー』
CAPITALISM: A LOVE STORY
・・ムーア監督2009年の作品『キャピタリズム-マネーは踊る』
マイケル・ムーアの最新作 『キャピタリズム』をみて、資本主義に対するカトリック教会の態度について考える
『資本主義崩壊の首謀者たち』(広瀬 隆、集英社新書、2009)という本の活用法について ・・オバマのシカゴ人脈など有用な情報も含んでいる
月刊誌「クーリエ・ジャポン COURRiER Japon」 (講談社)2010年3月号の特集「オバマ大統領就任から1年 貧困大国の真実」(責任編集・堤 未果)を読む
映画 『ウォール・ストリート』(Wall Street : Money Never Sleeps) を見て、23年ぶりの続編に思うこと
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書評 『マネー資本主義-暴走から崩壊への真相-』(NHKスペシャル取材班、新潮文庫、2012 単行本初版 2009)-金融危機後に存在した「内省的な雰囲気」を伝える貴重なドキュメントの活字版
書評 『アメリカ精神の源-「神のもとにあるこの国」-』(ハロラン芙美子、中公新書、1998)-アメリカ人の精神の内部を探求したフィールドワークの記録
・・「第9章 天使の助け」で著者は、アメリカ人の精神を「三重構造」でみている。この見方はひじょうに興味深い。一番上の層は、誰でも見聞する世俗文化である・・(中略)・・ ところがその世俗文化のすぐ下に、その世俗の欲望を否定し、自己愛をいましめ、この世は「あの世」への過渡にすぎないと繰り返すキリスト教の世界が横たわっている」
内村鑑三の 『後世への最大遺物』(1894年)は、キリスト教の立場からする「実学」と「実践」の重要性を説いた名講演である
・・「私は金(かね)のためにはアメリカ人はたいへん弱い、アメリカ人は金(かね)のためにはだいぶ侵害されたる民(たみ)であるということも知っております。けれどもアメリカ人のなかには金持ちがありまして、彼らが清き目的をもって金(かね)を溜めそれを清きことのために用うるということは、アメリカの今日の盛大をいたした大原因であるということだけは私もわかって帰ってきました」(内村鑑三)
なぜいま2013年4月というこの時期に 『オズの魔法使い』 が話題になるのか?
・・英国の「サッチャー革命」は英国経済を救ったが、中流階級が崩壊するという大きな痛みを友lなうものであった
(2013年12月27日、2014年2月21日、4月2日、8月28日、2019年3月31日 情報追加)
■bk1書評「アメリカの本質を知りたいという人には、私はこの一冊をイチオシとして推薦したい。」投稿掲載(2010年2月11日)
<書評への付記>
とくに付け加えることはないが、文庫版の帯の文句ーは「売らんかな」キャッチコピーであって、本文をじっくり読むと、著者のニュアンスとは少し違うような気がする。直接読むにしくはない。
本書に描かれたアメリカ社会の状況は、そのままかなりの程度まで、東南アジアのタイ王国にもあてはまるように思われる、というのが私の実感である。そもそも格差社会の下層におかれた人々は、金持ち階級は自分には関係ない人たちだと思っているので、比較の対象とはしておらず、したがって不幸せに思っている人は意外に多くないのだ。もちろん、タイの場合は上座仏教のカルマ概念が背景にあるようだが。
ただし、崩壊する中間層に属する人たちにとっては苦痛以外の何者でもないだろう。いま日本で進行しているのはまさにこの状況である。
日本については、書評『現代日本の転機-「自由」と「安定」のジレンマ-』(高原基彰、NHKブックス、2009)を参照。アメリカに比べて20~30年後に、「周回遅れ」で日本はこの事態に見舞われていると考えるべきなのだ。
アメリカの場合は、キリスト教には、「貧しき者こそ幸いなれ」というコトバが聖書にもあるとおり、最初から下層にいる人にはある種の慰めにはなるであろう。
しかし、ここ20~30年のあいだに中産階級から脱落しと人たちにとっては、生活レベルの低下以上に、精神的なダメージが大きいだろう。なんともいえない気持ちになる。私の場合は・・・
P.S. 読みやすくするために改行を増やし、太字ゴチックで重要なポイントを表示するようにした、なお、文章にはいっさい手入れてない(2013年4月14日 記す)
<関連サイト>
ピケティ『21世紀の資本論』はなぜ論争を呼んでいるのか (4/6) (齋藤精一郎、nikkei BPnet、 2014年5月20日)
・・「歴史的に見ると、戦後の一時期を除いて、資本収益率は経済成長率を上回っているというのがピケティの注目すべき指摘」 英訳されて話題になっているというフランスの経済学者が税務統計を使用して分析した「格差」の実態
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書評 『世紀の空売り-世界経済の破綻に賭けた男たち-』(マイケル・ルイス、東江一紀訳、文芸春秋社)-アメリカ金融業界の周辺部からリーマンショックに迫る人間ドラマ
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(2023年11月25日発売の拙著です 画像をクリック!)
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end