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2010年3月13日土曜日

本年度アカデミー賞6部門受賞作 『ハート・ロッカー』をみてきた-「現場の下士官と兵の視線」からみたイラク戦争




◆製作:2008年米国、公開2009年
◆監督:キャスリン・ビグロー
◆製作:キャスリン・ビグロー他5人
◆主演:ジェレミー・レナー、アンソニー・マッキー他
日本版オフィシャル・サイト(音声に注意!)
米国版オフィシャル・サイト(音声に注意!)

第82回アカデミー賞では作品賞を含む9部門にノミネート、作品賞・監督賞・オリジナル脚本賞・編集賞・音響編集賞・音響調整賞の6部門で受賞。131分


 先週アカデミー賞受賞の発表のあった翌日、『ハート・ロッカー』を見てきた。2008年度製作の、イラク戦争を部隊にした戦争映画である。

 アカデミー賞は『アバター』と元夫婦で全面対決となったが、『ハート・ロッカー』のほうは、従来型の映画なので、普段からメガネをかけている私には、3Dゴーグルをさらにかける必要がないのが助かるね-。

 2003年3月に始まり、軍事的には電撃作戦で破竹の勢いで快進撃した「バクダッド攻略」であったが、問題はむしろイラク占領後何年にもわたって続くことになる軍政による「治安維持」であった。

 バグダッドを陥落させた米陸軍は、独裁者サッダーム・フセイン打倒後のイラクの治安維持に従事することになるが、占領地イラクの市街地で、テロリストによる爆弾テロから地域住民を守るというミッション(=任務)を遂行するのが、この映画の主人公たちが属する爆弾処理班である。

 米軍を中核にした「有志連合」(Coalition of the willing)が力づくで占領した被占領国イラクの住民にとって、米軍の存在はサッダーム・フセインからの「解放軍」ではけっしてなく、あくまでも「占領軍」でしかないという現実。

 ワシントンからバーチャルに戦争をみてリモートコントロールするシビリアンの政府首脳とは異なり、現場で爆弾処理に従事する「下士官と兵」たちがみる現実はまったく異なるものだ。
 それはいうまでもなく、地域住民の突き刺すような視線であり、いつ「ハート・ロッカー送り」になるかわからないという、生と死が隣り合わせの現実である。



 日本語だと紛らわしいが、「ハート・ロッカー」の「ハート」は Heart じゃなくて、Hurt だ。英語だと全然発音が違うのに、カタカナ表記は罪作りなものだな。

 では hurt locker とは何か。ネット上の英英辞典をみても意味はでていないが、Wikipedia の The Hurt Locker には、以下のような記述がある(2010年3月14日現在) 

The title is slang for being injured in an explosion, as in "they sent him to the hurt locker", or for "a place of ultimate pain." It dates back to the Vietnam War, where it was one of several phrases meaning "in trouble or at a disadvantage; in bad shape”.
(私訳:この映画のタイトルは、爆発で負傷することを意味したスラングで、「あいつはhurt locker 送りになった」といった表現として使われ、また「究極の苦痛の場」といった意味でも使われる。このスラングはベトナム戦争時代までさかのぼることができるが、「トラブっている」、「不利な状況にある」、「調子が悪い」といった意味のフレーズの一つであった)

 
 この映画は、監督の一方的な押しつけいっさいなく、バーチャルとはいえ自分で戦場を体験して、自分で考えろ、という突き放した姿勢で一貫している。戦場という現場においては、生きるか死ぬかが現実のすべてであり、善悪はきわめて不明瞭となる。そのなかでいかに行動するか。

 登場するのは地域住民とそのなかに紛れているテロリスト、米軍相手の商売人、子どもたち、そして米陸軍の将兵である。イラク民衆はいったい全体、敵なのか味方なのか、この状況はベトナムでもすでに経験済みだとはいえ、イラクでは舞台が人のいないジャングルから、市民が密集して暮らす、迷宮のような市街地に変化することによって、さらに複雑さは増している。

 これまでの戦争映画と違って何よりも目新しいのは、中近東の市街地における爆弾処理と戦闘、砂漠における戦闘である。市街地における戦闘と、遮蔽物のきわめて少ない砂漠のただ中での長い戦闘は性格がまったく異なるが、ともに臨場感たっぷりに、しかも淡々と描き尽くしている。
 ロケ地は、イラクの隣国であるヨルダン王国だ。

 ドキュメント・タッチで描かれる下士官と兵の世界。政治がどうであろうと、プロの兵士はもくもくと戦場でミッション(=任務)を遂行し、任務終了までの残り日数を指折り数えるだけだ。それが、自分の意思による戦争参加であろうとなかろうと。

 爆弾処理という特殊なミッション(=任務)ではあるが、戦場感覚を十二分に味わうことができる。占領地における爆弾処理もきわめて重要な任務である。しかも、爆弾処理の対象は、敵あるは見方が投下した不発弾ではなく、テロリストが地域住民を巻き込んだ爆弾テロを意図して仕掛けた、無線によるリモートコントロールによる爆弾である。

 米国に爆撃された日本では、まだまだ終わらない不発弾処理。中国では日本軍による不発弾の処理がまだまだ終わらない。イラクもまた性格は異なるが同様の状況であることがわかる。

 爆弾を爆発させることなく、信管を抜いて処理することに職人的な美学を見いだしている主人公。爆弾処理累計873発というのは、上官ならずとも驚嘆すべき数字である。そして、主人公は処理した信管をコレクションとして収集している。まるでそれが彼の「生の証し」でもあるかのように。

 日本だけでなく、米国の陸軍の世界でも「現場の下士官と兵」は強く、将校とは別のロジックで動いている。「下士官と兵」は、ややカリカチュア的に描かれる、インテリの陸軍軍医大佐とは対照的な存在である。

 そして黒人のチームリーダー(・・字幕では班長と訳されているが、ここでは英語のままチームリーダーと表記する)と職人的な白人主人公のとのコjンフリクト、そして肉体と肉体をぶつけあいながら孤独を癒し、培った男どうしの友情。

 この映画に女性がでてくるのはきわめて少ないのは、舞台設定が中近東のイラクであるだけでなく、女性兵士のいない部隊であることも関係している。

 主人公が、離婚して国に遺してきた妻子との日常生活・・・この女(おんな)子どもの世界である「生活世界」には耐えきれないものを感じる主人公は、自らを駆り立てるように戦場に赴き、そしてまた爆弾処理記録を更新していく。

 戦争を肯定しているわけでも否定しているわけでもない。兵士の日常を描いて、限りなくリアリズムを追求しようとした映画である。

 ベルトルッチ監督の『シェルタリング・スカイ』を想起させる、異国としての中近東世界。うだるような熱さ、ひりひりと焼けつくような乾燥した空気が、画面全体から伝わってくる。

 かつて1980年代、オリバー・ストーンの『プラトーン』を皮切りに、スタンリー・キューブリックの『フルメタルジャケット』など名作が次々と世に出たが、イラク戦争についても、この『ハート・ロッカー』を皮切りにいくつも作製されることになるだろう。

 『アバター』のほうが普遍的なテーマを扱っているので、観客動員数も桁違いに多いだろうが、この映画は必ずしも一般大衆向けとはいえない高度な映画である。
 アカデミー賞の暗黙の受賞基準というものがあるとすれば、こういうシリアスな映画が好みなのだろう。

 21世紀の戦争映画として必見である。


<参考サイト>

『ハート・ロッカー』米国版トレーラー
『シェルタリング・スカイ』米国版トレーラー
『プラトーン』米国版トレーラー
『フルメタル・ジャケット』米国版トレーラー


 なお、『アバター』については、映画 『アバター』(AVATAR)は、技術面のアカデミー賞3部門受賞だけでいいのだろうか? という文章をブログに書いているので、ご興味があれば参照されたい。





<ブログ内関連記事>

映画 『ゼロ・ダーク・サーティ』をみてきた-アカデミー賞は残念ながら逃したが、実話に基づいたオリジナルなストーリーがすばらしい
・・映画 『ハート・ロッカー』の監督の第二作

書評 『地雷処理という仕事-カンボジアの村の復興記-』(高山良二、ちくまプリマー新書、2010)-「現場」に徹底的にこだわった、地に足の着いた現地支援のあり方とは?


書評 『イラク建国-「不可能な国家」の原点-』(阿部重夫、中公新書、2004)-「人工国家」イラクもまた大英帝国の「負の遺産」

映画 『ローン・サバイバー』(2013年、アメリカ)を初日にみてきた(2014年3月21日)-戦争映画の歴史に、またあらたな名作が加わった

映画 『加藤隼戦闘隊』(1944年)にみる現場リーダーとチームワーク、そして糸川英夫博士
・・「過ぎし幾多の 空中戦/銃弾うなる その中で/必ず勝つの 信念と/死なば共にと 団結の/心で握る 操縦桿」(主題歌より)

(2014年8月27日、2017年2月6日 情報追加)


 
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