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2012年4月29日日曜日

書評『傭兵の二千年史』(菊池良生、講談社現代新書、2002)ー 近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ③


傭兵の歴史から21世紀の現状を考える

『傭兵の二千年史』(菊池良生、講談社現代新書、2002)は、ヨーロッパ史を中心に、コンパクトにまとめられた、読んでなるほどと納得させられる傭兵の歴史である。

この本を読むと、古代ギリシアや古代ローマ以来、「武装市民 ⇒ 傭兵 ⇒ 国民皆兵 ⇒ 再び傭兵への部分依存」という歴史の流れを知ることができる。

近代国民国家の成立は、国民が徴兵あるいは志願によって、人的な意味での軍の供給源になるということが前提になることが、傭兵の歴史を見ることによって逆照射されるわけだ。

この本が面白いのは、つねに同時代の日本が対比されていることだ。著者自身はあまり関心を払っていないようだが、じつはユーラシア大陸の両端で、ほぼ同時代的にに同様の現象が生じていることについては、わたしはなんどもこのブログに書いてきた。

ヨーロッパにおいては、安定していた中世社会が崩壊して近世に社会に入る。まさに時代の転換期で激動の時代に、騎士が没落し、傭兵が存分に活躍する状況が生まれたのであった。これは日本でも戦国時代と同じである。

その中心となったのが、ランツクネヒト(Landsknecht)という南ドイツに起源をもつ傭兵集団である。傭兵が忠誠の対象とするのはヒトではなくカネ。雇用主のカネ払い悪いと、傭兵集団は略奪集団に変貌する。かの「ローマ強奪」(サッコ・ディ・ローマ)はこうして行われたのであった。

本書の読みどころはここにある。

その傭兵も、雇用主にとっては諸刃の剣であり、いつ自分に刃向かってくるかわからない存在であることから、暴力装置を自分のもとに集中管理したいという欲望は君主は抱くようになるのは当然の流れだ。

1648年のドイツ三十年戦争の終結によって、絶対君主制のもと正規軍として再編されていくさまが本書にはよく書かれている。いちはやく戦国時代を終わらせて徳川時代に入っていた日本よりは遅れたが、同じ17世紀の出来事であった。

三十年戦争終結に至るまでに、ヨーロッパでは、ハプスブルク家支配からの独立戦争を戦っていたオランダでの軍政改革、グスタフ=アドルフによるスウェーデンの軍政改革が行われ、財政の裏づけのもとに常備軍が整備され、傭兵は大幅に後退していく。

ルイ14世のフランスの絶対王朝を経て、フランス革命による国民軍の成立により、はじめて「祖国にために死ぬ」というナショナリズムが軍事的な意味で成立することとなった。フリードリヒ大王によるプロイセン陸軍整備もまた、なぜプロイセン王国がドイツ統一の中心になったかを理解するためのカギである。

傭兵集団といえば、フランス外人部隊が名高いが、「傭兵の二千年史」と題しながら、英国陸軍のグルカ兵について触れられていないのは残念だ。第10章では、アイルランドの若者たちの悲史である「ワイルドギース」についても触れられている。また、第11章では、領主によってアメリカに売られたドイツのヘッセンの傭兵についても触れられている。ヨーロッパの人身売買についての知られざる歴史である。

PMC(Private Military Company)は、21世紀になってから急成長したビジネスであり、2002年に出版されたこの本にはその現状は南アフリカのエグゼクティブ・アウトカム社が言及される程度である。

つまり、2002年以降の歴史は、ふたたび近代国家における国民皆兵の原理が崩れ、経済原則によって傭兵化の道がレールとして敷かれつつあると考えるべきかもしれない。いまはまだ正規軍の補助的な位置づけのPMCだが、経済原則が優先されるにつれて、正規軍の領域が現在以上に浸食されていくような気がするのである。

近世史・近代史を軍事の観点からみた興味深い一般歴史書である『傭兵の二千年史』とあわせ読むことで、PMCについての理解を深めたいものである。



<初出情報>

ブログへの書き下ろしです。





目 次
はじめに
第1章 クセノフォンの遁走劇
第2章 パックス・ロマーナの終焉
第3章 騎士の時代
第4章 イタリア・ルネッサンスの華、傭兵隊長
第5章 血の輸出
第6章 ランツクネヒトの登場
第7章 果てしなく続く邪悪な戦争
第8章 ランツクネヒト崩壊の足音
第9章 国家権力の走狗となる傭兵
第10章 太陽王の傭兵たち
第11章 傭兵哀史
第12章 生き残る傭兵
あとがき
参考文献


著者プロフィール


菊池良生(きくち・よしお)

1948年、茨城県に生まれる。早稲田大学大学院博士課程に学ぶ。現在、明治大学教授。専攻はオーストリア文学。ハプスブルク関係の一般向け歴史書多数。




<近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える>

P.S. 長すぎる文章となってしまったので、もともとのブログ投稿文章を三分割することとし、本編もタイトルを変更した。それぞれ以下のとおりである。

書評 『民間軍事会社の内幕』(菅原 出、 ちくま文庫、2010)-近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ① 

映画 『ルート・アイリッシュ』(2011年製作)を見てきたた-近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ②

書評 『傭兵の二千年史』(菊池良生、講談社現代新書、2002)-近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ③・・・本編




<関連記事>

「民間軍事会社のリアルな実態を描く『ルート・アイリッシュ』」(菅原 出、日経ビジネスオンライン 2012年4月9日)

『ルート・アイリッシュ』公式サイト

Route Irish Trailer (映画 『ルート・アイリッシュ』トレーラー)

ヤバい仕事は俺たちに任せろ!-英軍の3倍を誇る民間軍事会社の実態 (GQ JAPAN、2014年12月8日)
・・「デンマークの警備会社から出発した民間軍事会社G4Sは、刑務所の運営代行から空港の警備、グルカ族の武装警備隊の編成に至るまで、世界中にサービスを拡大している。その勢いは、”日の沈まない帝国”にたとえることすらできそうだ・・(中略)・・民間軍事会社とは要するに、施設警備や現金輸送といった警備会社の延長線上の業務を武装が必要な危険地帯で行いつつも、傭兵のような本格的な戦闘員とは一線を画す後方要員の集合体と呼んでよさそうだ。」

(2015年6月10日 情報追加)



<ブログ内関連記事>

書評 『ウィキリークスの衝撃-世界を揺るがす機密漏洩の正体-』(菅原 出、日経BP社、2011)

本年度アカデミー賞6部門受賞作 『ハート・ロッカー』をみてきた-「現場の下士官と兵の視線」からみたイラク戦争・・2010年度アカデミー賞作品

書評 『封建制の文明史観-近代化をもたらした歴史の遺産-』(今谷明、PHP新書、2008)-「封建制」があったからこそ日本は近代化した!

本の紹介 『阿呆物語 上中下』(グリンメルスハウゼン、望月市恵訳、岩波文庫、1953)
・・三十年戦争のなか、荒廃したドイツをたくましく生きぬく主人公

修道院から始まった「近代化」-ココ・シャネルの「ファッション革命」の原点はシトー会修道院にあった
・「規律による自律」の集団生活。修道院の生活は超早寝早起き。

書評 『国家と音楽-伊澤修二がめざした日本近代-』(奥中康人、春秋社、2008)-近代国家の「国民」をつくるため西洋音楽が全面的に導入されたという事実
・・日本人を近代産業に適した近代的身体に改造することが明治時代初期の課題であった。幕末の鉄砲隊はリズムに合わせて発砲するためのドラマー(=鼓手)を必要とした

(2014年9月21日 情報追加)



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