社会人としての将来の進路を決めるにあたって、かならず読んでおきたいという本がある。
そのために読んでおきたいのが、マックス・ウェーバーの『職業としての政治』と『職業としての学問』という二つの講演録である。
人生の選択肢は、もちろん「政治家」と「学者」だけではないが、これは「実践」コースか「研究」コースかと読み替えてもいいだろう。
いまから30年前の高校三年のときに読んだ。受験前に読んだ記憶がある。
その当時は、とくにマックス・ウェーバーのなんたるかを知っていたわけではない。推薦書として紹介されていたのいをどこかで読んで手に取ったのだと思う。ともに岩波文庫で150円くらいだから安くて薄かったから。
わたし自身、この二冊を読んで強く思ったのは、自分は学者には向いていない、むしろ実践的な職業が向いている、ということだった。
もともと学者になってみたいなどという、たんなる憧れに過ぎないが夢みたいなものは持っていた。でも、読後感としては『政治』のほうが圧倒的にインパクトがあった。
私が高校三年のときに読んだのは、岩波文庫版だった。岩波文庫の訳は日本語としてはなんか古風なかんじで、とくに『職業としての学問』のほうは改訳されたばかりなのに、えらく古くさい印象を受けた。だから、訳文の印象もあったのかもしれない。
カントなどドイツ哲学の新訳を精力的に出している、哲学者の中山元氏による合冊版の新訳が出版されている。こちらの訳文はひじょうに読みやすい。
『職業としての政治 職業としての学問(日経BPクラシックス)』(マックス・ウェーバー、中山 元訳、日経BP社、2009)である。
『職業としての政治』は、政治家の仕事について書かれているが、ビジネスマンは実践性において、学者よりは政治家に近い。ともに結果責任というアカウンタビリティ(accountability)が指標となるからだ。
『政治』は、結果責任が問われる「指導者」としての起業家や経営者になりたいと思う学生は必読だろう。
『政治』も『学問』も、ともに講演記録であるが、時代背景は第一次大戦に敗北し、価値観が大混乱に陥っていたドイツである。
この価値観大混乱状況のなかで、大戦から復員したオーストリア出身のドイツ軍伍長がいたのだった。その名は、アドルフ・ヒトラー。映画 『ヒトラーの画帳』(原題:Max 2006年)に描かれた、ミュンヒェンにおける若き日のヒトラーである。
「日々のザッヘ(Sache:仕事)に還れ」、と説いたウェーバーの声は、残念ながらその時代の若者たちの多くからは無視されたのであった。ヒトラーが台頭するドイツを見ることなく亡くなったウェーバーは幸せだったのかどうか。ウェーバーは本人の資質とは異なり、政治家志望の熱は最後までなくなることはなかったようだ。
価値観が混乱する2010年代の日本。さて、この古典的名講演がいまの若い日本人にはどのように受け取られるのだろうか。じつに興味深い。
社会科学を学ぶ者にとって必読書であるウェーバー。本書は、ウェーバ入門としての最適の本である。
著者プロフィール
マックス・ウェーバー(Max Weber)
1864年~1920年。ドイツを代表する社会科学者。論文『プロデスタンティズムの倫理と資本主義の精神』では、ヨーロッパにおける資本主義発展の原動力は世俗内禁欲を生活倫理とするプロテスタンティズムが担ったと分析。下部構造が上部構造を規定するという唯物史観に真っ向から異を唱えた。宗教社会学、法社会学、経済史など広範な分野で膨大な業績を残した。政治学の丸山真男、経済史の大塚久雄など日本を代表する学者に大きな影響を与えた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
中山元(なかやま・げん)
思想家・翻訳家。1949年生まれ。東京大学教養学部中退。インターネットの哲学サイト「ポリロゴス」を主宰(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
<関連サイト>
Max - Trailer - John Cusack (映画 『ヒトラーの画帳』トレーラー)
・・建築家志望でウィーンの画学生だったアドルフ・ヒトラーは、第一次大戦で負傷して復員したミュンヘンでデマゴーグとしての天性を発見されてゆく
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■2012年度新学期特集
① 総論
福澤諭吉の『学問のすゝめ』は、いまから140年前に出版された「自己啓発書」の大ベストセラーだ!
②古文(国語)
書評 『平安朝の生活と文学』(池田亀鑑、ちくま学芸文庫、2012)-「王朝文化」を知るために
③数学とコンピューター
書評 『コンピュータが仕事を奪う』(新井紀子、日本経済新聞出版社、2010)-現代社会になぜ数学が不可欠かを説明してくれる本
④地学と理科
「理科のリテラシー」はサバイバルツール-まずは高校の「地学」からはじめよう!
⑤社会科学
本編
(2020年12月18日発売の拙著です)
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