小倉千加子氏の 『松田聖子論』 は、1987年に出版された単行本初版を読みましたが、じつに面白い本なので、いまでもとってあります(下の写真)。
松田聖子のデビューは、わたしが高校三年生だった1980年。つまり、大学時代を過ごした190年代前半はアイドルとしての松田聖子の全盛期だったわけで、熱烈なファンであった友人の影響もあって、彼女のデビュー以来30年以上のあいだ同世代としては気になってきた存在なわけなのです。
この本は、松田聖子登場以前、熱狂的ファンをもっていた山口百恵(・・現在は三浦百恵)との比較で、1980年に登場した松田聖子の意味をあきらかにした先駆的な名著だといっていいでしょう。二人のデビューの背景、衣装、歌詞、結婚観などが分析されています。
小倉千加子氏は、もともと性差の心理学で本も出している心理学者で、フェミニズムの論客ですが、大阪出身で芸能ネタ好き、テレビ好きという小倉千加子氏の論がさえています。
その増補版の文庫が新刊書として2012年に出ています。「増補」された章を立ち読みしてみましたが、なぜ50歳を過ぎて歯科医と再々婚したのかについての推測も書かれてます。
また、祖母・母・娘という三代にわたる東アジアの女系家族で読み解く視点も面白い。儒教が社会原理として浸透していない日本だけでなく、東シナ海周辺地域は基層的な文化は母系制なわけです。
松田聖子が30年以上にわたって走り続けることができる理由には、才能や努力だけでなく、さまざまなものがあるのですね。
「あとがき」にはこんなことが書かれています。
実は、この本はフェミニズムの本なのである。しかし、わかっている人ならもうわかっているように、この本はフェミニズムのパロディ本である。
性はもともと胡散臭いものだ。その性から出発したはずのフェミニズムが、胡散臭さを嗅ぎとる嗅覚を捨ててしまったら、フェミニズムはピューリタンたちの殿堂と化してしまうだろう。
まさにそのとおりですね。フェミニズムを敬遠したくなる人が少なくない理由が、ビシっと要約されてますね。フェミニズムにかぎらず、雑なるものこそ面白いという感性こそ大事ですね。同感です。
そんなことはさておき、松田聖子論としては言うまでもなく、1980年代の意味を考えるためにも読んで損のない一冊だと思いますよ。
目 次
まえがき
第1章 二人のわがままな主婦
不気味なエッセイ-『青色のタペストリー』
対立する二人の聖子
ブリッ子聖子の芝居っけ
化粧に対する感情
「魔」を眠らせた百恵
大きな賭けのできる男性
対照的な出産
第2章 青い果実の熟成-山口百恵の軌跡
ズドンとそこに立っていた
アイドルが認知された年
スター誕生
『青い果実』になる幸福
『ひと夏の経験』-百恵の対抗同一性
「愛する人」というブラックホール
<せつなさ>か<不条理>か-『横須賀ストーリー』
性欲を自覚した女-『イミテイション・ゴールド』
女と男のバランス・オブ・パワー-『プレイバックPart2』
悪女の帰郷-『秋桜』
『いい日旅立ち』-終わっていく百恵
第3章 翼の生えたブーツ-松田聖子の正体
「はい、何でも歌えます」
たったひとつの空き部屋
少女趣味の復活
「風」と「街」の詩人・松本隆
風は日本的情緒を遠ざける
フォークとロックの狭間で
「ぼくときみ」のラブ・ソング
耳で聴く少女漫画の世界
聖子は和製ロックの落とし子である
百恵は農村、聖子は都市
どこにもない場所
気の弱い彼
欲望するストイックな少女
少年愛のメッセージ
強引な男の劣等感
近代家族の退屈
「ママのようなつまらない生き方」
システムとしての松田聖子
第4章 あなたに逢いたくて-33年目の松田聖子
娘に依存する母親
日本を背負った聖子
AKB48と異なる点
国民的歌手になる日
あとがき
文庫版あとがき
著者プロフィール
小倉千加子(おぐら・ちかこ)
1952年大阪府生まれ。評論家、心理学者。早稲田大学大学院文学研究科心理学専攻博士課程修了。主要著書は『アイドル時代の神話』、『結婚の条件』、『女の人生すごろく』など多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものに加筆)。
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