日本最古の神社といわれる奈良の大神神社。大神と書いて「おおみわ」と読ませます。
独特なつくりの鳥居をもつ大神神社には本殿がなく、三輪山そのものがご神体とされています。そしてまた、蛇もまた信仰の対象になっていることは比較的よく知られているのではないでしょうか。
ことし2013年は巳年、すなわち蛇の年なのですが、どうも積極的に話題にされることがないような気がするのはわたしだけでしょうか。蛇は現代人からはあまり好かれていないような印象を受けます。
しかし、蛇は日本人にとって神であったのです。古代日本人は蛇の神秘性に感じ入って、蛇を自分たちの祖先神と考えていたのです。このことは、このブログで 蛇は古代日本人にとって神であった!-独創的な民俗学者であった吉野裕子の名著 『蛇』 を読んでみよう に書いておきました。
『大神神社(改訂新版)』(中山和敬、学生社、1999 初版 1971)によれば、「大神神社の主たる御祭神は大物主大神(おおものぬしのかみ)である・・(中略)・・大物主大神が鎮まられたのは、『古事記』、『日本書紀』にでているように、遠い神代のことであり、日本国中で一番古いお社とされている」、とあります。大物主大神は国作りにつくされた神です。
大神神社と蛇がなぜ関係あるのでしょうか?
おそらく、大神神社のご神体である三輪山が、神奈備(かんなび)信仰の対象そのものであったことが大きいのでしょう。
神奈備とは、神霊(神や御霊)が宿る御霊代(みたましろ)や依り代(よりしろ)を擁した領域のことですが、民俗学者の吉野裕子氏が説かれたように、三輪山のような形態の低山が、とぐろを巻いた蛇と見立てられたものだと考えられます。
大神神社の宮司をながく務められた中山和敬氏のような人は、そういうことは述べていませんが、三輪信仰と蛇との関係については、『大神神社(改訂新版)』の11章「蛇と杉」で触れておられます。
拝殿前、斎庭の右側に、玉垣でかこまれた二股の老杉を、巳(み)の神杉とよんでいる。燈籠が一対、お賽銭箱までが設けられていて、その上には、いつもお供えの卵がのっているのが目につく。・・(中略)・・この「雨降りの杉」の大木の根方にポッコり穴があいており、いつの頃からか棲みついた蛇が、御祭神の化身とまで畏敬されるようになったものである。・・(中略)・・長さ2㍍を越える青大将4、5匹だが、とにかくきれいな体である。太陽の光線によって時には全身黄金に輝き、ときには真っ青にも変わる。
この蛇たちが神の化身の「巳(み)さん」として、信仰の対象になっているようですね。
巳(み)さんの信仰者にはとくに芸能人・飲食業の人が多い。願いの向きは心願成就ときいている。さらにくわしく説明をきくと、これとねらえばそれに向かって直進する。尻尾をつかんで引っぱっても後へは退らないこととか、何でも呑みこんでしまう姿が縁起が良いとか、穴から出たときの形で吉凶をうらなう人、つまり真っ直ぐにじっとこっちを見つめているのが吉であるとか、人それぞれの見方、考えようがある(*太字ゴチックは引用者=わたし)。
なるほど! 蛇のように、狙った獲物はぜったいに逃がさないという姿勢に共感を感じているわけですね。わたしも蛇にはあやかりたいものです。
ところで、この巳(み)さんは絶対に写真を撮ってはいけないそうです。家庭不和、家族に病人や死人が出るそうですので、心しておいたほうがいいでしょう。
これはけっして迷信とは片づけられないようで、中山和敬氏によれば、賽銭箱には白紙に包まれた巳(み)さんの写真やフィルムが還納さえてきることも多く、その理由には上記のような家庭不和などがあったためらしいのです。
スマホで撮影してツイッターやフェイスブックに投稿、なんてことは考えないほうがよさそうですね。そうでなくても蛇ですから、しつこく、ねちこい。なんといっても神様であるわけですから。
わたし自身は大神神社には一度だけいったことがありますが、巳(み)さんはまだ拝んだことがないのは残念です。拝む機会に恵まれた際には写真撮影はしないよう心したいと思います。
それだけ蛇のもつパワーはすごいということなのでもありますね。
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(2014年8月26日、2016年6月21日 情報追加)
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