(公開時のポスター 残念ながらアカデミー賞にはまったくノミネートされなかった・・・)
映画『デトロイト』(2017年、米国)をTOHOシネマズで見てきた。いまから50年前の1967年に発生した「デトロイト暴動」(1967 Detroit riot)を描いた映画だ。
1964年に「公民権法」が成立して差別撤廃が実現したはずの米国だが、白人の黒人に対する人種差別感情が消え去ることはなく、1967年7月23日、白人警官による暴行から暴動に発展、自動車産業の中心地デトロイトのダウンタウンが27日まで5日間にわたって焼き討ちと略奪が続く事態となった。
警察だけではコントロール不能状態のため州兵も出動、非常事態宣言が出されて厳戒態勢が敷かれているなか、白人中心の警察と黒人との緊張関係がエスカレート、そんな一触即発の状態のなか、ついに非武装で無抵抗で無実の黒人3人が白人警官によって暴行を受け射殺される事件が発生する。むき出しの暴力が支配する世界。
重厚で深いテーマの143分。黒人の側に身を置いて見ていると、息苦しさと恐怖、そして悔しさも感じてくる。そしてこう思わざるを得ないのだ。この世に「正義」(ジャスティス)というものは存在しないのか、と。
■1992年には「ロサンゼルス暴動」が発生
米国に留学していたとき、わたしはキャンパスで黒人たちから「ハーイ、ブロー!」と挨拶されていた。「ブロー」とは「ブラザー」(兄弟)のことだ。
米国社会において、マイノリティのアジア人は黒人とは同じ状態にある。だから「兄弟」なのだ。上下関係ではない水平関係。「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」なはずなのだ。
1992年に帰国する直前、「ロサンゼルス暴動」(1992 Los Angeles riots)が発生した。韓国人のショップオーナーが黒人を射殺した事件がきっかけとなって、焼き討ちと略奪の事態となったのである。アジア人と黒人とあいだの連帯は夢想に過ぎなかったのかもしれない。
大暴動のあとロサンゼルスに立ち寄ってダウンタウンを歩いてみた。現地でわかったのは、焼き討ちの対象にあったのは韓国系のショップだけで、日系のショップやレストランは焼けていなかった。怒りの矛先は韓国系にのみ向けられていたのである。なんだか、正直すこしほっとしたような気持ちを覚えたことを覚えている。
米国の人種問題は、その後もいっこうに終息する気配もない。相互不信の根は深く、白人警官による黒人射殺事件はあとを絶たず、分断は深まるばかりだ。この問題がなくならない限り、無条件に親米派と名乗る気持ちにはなれない。
■社会派のキャスリン・ビゲロー監督の新作は期待以上
『デトロイト』は社会派のキャスリン・ビゲロー監督の作品。『ハート・ロッカー』(2010年)で米軍によるイラク戦争を描き、『ゼロ・ダーク・サーティー』(2013年)でCIAによるウサーマ・ビンラディン暗殺作戦を描いたのち、今度はベトナム戦争当時の国内人種暴動を描いた。
正直いって見て楽しい映画ではないが、見るべき映画だと言っておきたい。分断が深まる2010年代のいま、この時期にあえてこういう映画を製作するという監督の姿勢を大いに評価したい。
(米国版ポスター 公開は2017年8月17日)
<関連サイト>
映画『デトロイト』(2017年、米国) (公式サイト 日本版)
「デトロイト暴動」(1967 Detroit riot) (Wikipedia 英語版)
映画「デトロイト」がアカデミー賞から無視された理由(FOBESジャパン、2018年1月31日)
(2018年1月31日 情報追加)
<ブログ内関連記事>
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■暴力のアメリカ
『愛と暴力の戦後とその後』 (赤坂真理、講談社現代新書、2014)を読んで、歴史の「断絶」と「連続」について考えてみる
『日本がアメリカを赦す日』(岸田秀、文春文庫、2004)-「原爆についての謝罪」があれば、お互いに誤解に充ち満ちたねじれた日米関係のとげの多くは解消するか?
・・「アメリカ人の自己欺瞞とは、インディアン(=ネイティブ・アメリカン)虐殺がアメリカ史の原点にあることを隠蔽しようとする心的規制のことをさす。先住民の虐殺後も、南北戦争において連邦離脱をはかった南部諸州に対して非道な仕打ちを行っている。米国の眼中には殲滅戦しかない」
(2018年1月29日 情報追加)
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