『死の貝 ー 日本住血吸虫症との闘い』(小林照幸、新潮文庫、2024)を読了。このノンフィクションは面白い。読みであり!
X(旧 twitter)の新潮社による投稿でこの文庫の存在を知って、この5月に即購入、旅先で1/3まで読み進めながら、その後忙しさにまぎれてデイパックに入れたまま、存在すら忘れていた。本日、残りの2/3を一気読みした。
「日本住血吸虫症」という漢字語じたいが、おどろおどろしい。これは、長きにわたって原因がわからないまま、山梨県を中心に日本各地の特定の地域で水田耕作農家を苦しめてきた「地方病」のことだ。恐るべき感染症である。
この感染症の謎をつきとめ、寄生虫の存在と宿主となっていた巻き貝を特定し、治療法を考え出し、さらには感染源を断ち切るための100年におよぶ闘いが描かれている。
事実関係をたんたんと述べていく文体なのだが、事実のもつ迫力と、謎の解明と撲滅にむけて情熱を傾けてきた医者たちの取り組みが読ませるのである。
日本での闘いは、日本で完結して終わりというわけではない。「日本住血吸虫症」は「日本」とついているが日本に限られるわけではなく、フィリピンや中国の長江下流域、そして東南アジア、さらにはアフリカでも猛威を振るってきたらしい。
フロントランナーであった「近代日本」の苦闘の成果は、第2次大戦末期にフィリピンで対策にあたった米軍の経果もまじえて、世界全体に還元されることで大いに貢献もしているのである。
まことにもって「有用な知識」は人を救うのである。
■ネットによって実現した初版から25年目の「文庫化」
帯にもあるように「Wikipedia3大文学」の1つということは、読み応えのあるWikipediaの記事が、このノンフィクション作品をベースに執筆されているからだ。
とはいえ、Wikipedia の文章には終わらせず、オリジナルを読む価値は大いにある。
映画化されて有名になった新田次郎の『八甲田山死の彷徨』はずいぶん昔に読んでいるので、読んでないのは吉村昭の『羆嵐(くまあらし)』だけということになる。
初版が1999年、文庫化されたのはなんと25年後の2024年である。今回の文庫化は大いに意義あることだ。
わたし自身は、公衆衛生や感染症は専門ではないので、純粋に楽しみのための読書としてこのノンフィクションを読んだわけだが、読みながら思っていたのは、子ども時代にさんざん脅かされてきた「日本脳炎」についてである。
現在はワクチンがあって感染者は激減している「日本脳炎」だが、致死的な感染症に「日本」とつけられているのは、なんだかなあ、と。感染症撲滅の偉業は誇るべきではあるのだが・・・
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