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2010年11月27日土曜日

枯葉 Les feuilles mortes




 フランス語のシャンソンで「枯葉」といえば、知らぬ人のいない名曲である。
 イヴ・モンタン、ジュリエット・グレコなど数知れぬシャンソン歌手が歌ってきただけでなく、米国ではジャズのスタンダード・ナンバーとしてもよく知られた名曲だ。

 ところで、フランス語では枯葉のことを les feuilles mortes という。直訳すれば「死んだ葉っぱ」(複数形)、確かに生物学的にみれば死んだから枯葉となって落ちているから、そのとおりである。
 しかし、日本語で「死葉」といえば病虫害などで死んだ葉っぱのこと、「病葉」(わくらば)といえば詩語ではあるが、必ずしも秋とは連想が結びつかない。

 一方、このシャンソンは米国では Autumn Leaves と訳された。これは直訳すれば「秋葉」、フランス語を直訳して dead leaves よりかはましだろうが、日本語の「枯葉」のニュアンスはどうしてもでてこない。むしろ、fallen leaves のほうがよいのでは? 日本語だと「落ち葉」か。


 明治時代の上田敏の訳詩集 『海潮音』は、高校時代の愛読書だったのだが、有名なヴェルレーヌの「秋の歌」は、日本語の名作として有名だ。

 秋の日の ヰ゛オロンの
 ためいきの ひたぶるに
 身にしみて うら悲し。

 鐘のおとに 胸ふたぎ
 色かへて 涙ぐむ
 過ぎし日の おもひでや。

 げにわれは うらぶれて
 ここかしこ さだめなく
 とび散らふ 落葉かな。


 上田敏が訳した「落葉」は、フランス語では feuilles mortes、同じ3音節であるが、「枯葉」にするか「落葉」にするか、詩語の選択はきわめて難しい。


Et je m'en vais
Au vent mauvais
 Qui m'emporte
Deçà, delà,
Pareil à la
 Feuille morte.

 上田敏の訳詩の場合は、定型詩で訳したうえで、「うらぶれて」と「落葉かな」を意味のうえで対応させている。「うらぶれて」は意味的には「落ちぶれて」と同じなので、「落ちる」というイメージを強調するために「落葉」という訳語を選択したのであろう。

 ヴェルレーヌの原文では、Qui m'emporte と Feuille morte. で韻を踏んでいる。このほか、vais、la でも韻を踏んでいる。上田敏の訳詩が、きわめて巧みな処理を行ってうえで、すぐれた日本語の詩になっていることがわかる。

 シャンソンのタイトルが「落葉」ではなく、「枯葉」となったのは、「かれは」(ka-re-ha)と k音 の響きに乾いたものが感じられるからだろう。「おちば」(o-chi-ba)だと濁音で終わるので、何かしらじとっと湿った語感がある。「濡れ落葉」という連想もなくはない。

 秋の落葉樹の枯葉は、乾いていて風に舞うような軽さがある、そういう存在でなくてはならないのだ。


 「枯葉」と「落葉」といえば、最後に一首。

金色(こんじき)の ちひさき鳥の形して 
 いてふ散るなり 夕陽の丘に

 與謝野晶子の歌である。倒置法をつかっている。


 つれづれと秋の日に「枯葉」と「落葉」についてつづってみた。





<関連サイト>

枯葉 Les feuilles mortes(ジュリエット・グレコ)
Les Feuilles Mortes - Juliette Greco

枯葉 Les feuilles mortes(イヴ・モンタン)
Les Feuilles Mortes_Yves Montand à l´Olympia