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2013年6月2日日曜日

書評『イギリスの大学・ニッポンの大学-カレッジ、チュートリアル、エリート教育-(グローバル化時代の大学論 ②)』(苅谷剛彦、中公新書ラクレ、2012)-東大の "ベストティーチャー" がオックスフォード大学で体験し、思考した大学改革のゆくえ


教育社会学者による英国の名門オックスフォード大学での4年間のリポートと考察である。

著者の専門は教育社会学教育問題を社会学というディシプリンで分析し可決策を考える社会科学系の学問である。しかも、東大では "ベストティーチャー" という評判をとっていた人だ。研究者としても教師としても一流の人である。

そんな著者が50歳を過ぎてから選択したのが、日本の一流大学ではなく、世界の一流大学でのチャレンジというものであった。英語圏のワールドクラスの大学での研究と教育体験、しかも専門が教育社会学であるだけに、たんなる印象論や体験談とは異なる深みがある。それは「参与観察」という表現を著者がつかっていることにもあらわれている。参与観察とは、直接コミットしながら同時に観察も行うという人類学や社会学の方法論のことである。

まずは、社会における大学の役割と位置づけが日本とは異なることが解説される。これは社会学的なものの見方である。市民社会におけるエリート教育の意味がわからないと、なぜオックスブリッジのような存在が21世紀のいまでもあり得るのかがわからないだろう。日本のような大衆社会との違いでもある。

オックスブリッジ(=オックスフォードとケンブリッジの総称)におけるカレッジとユニバーシティの違いという二重構造についての説明も、簡にして要を得たものである。この二重構造やチュトリアルといった教育システムについては、すでにオックスフォード出身ででケンブリッジ教鞭をとっていた川上あかね氏のものが日本語の書籍として出版されているので、それ自体がとくに目新しいものではない。

だが、本書の特色は、日本の大学を卒業し、アメリカの大学で博士号を取得し、その後アメリカで教え、日本の大学で18年にわたって教鞭をとり、その後に英国の名門オックスフォードで教えているという経歴から導き出される比較論である。

この比較論のうえに立って、日本の大学改革への処方箋まで提示しているのが本書の最大の特色だといっていい。「第3部 日本の大学改革のゆくえ」に書かれているが、そのためにも第1部と第2部も読んでおくことが前提になる。

大学大衆化にかんしては日本のほうがヨーロッパよりもはるかに早いのである。日本はアメリカ型の大学大衆化社会なのである。だが、ヨーロッパでもサービス経済化と知識社会化によって大学教育の重要性は増している。

日本の場合、意外に聞こえるが、大学教育においては「小さな政府」をいちはやく実践してきたことにある。つまり私立大学が8割を占める現状においては、教育費の国家財政における負担は小さいということだ。だが、学生納付金への高い依存度は、市場原理に左右されやすい。就職のよい大学という評判を維持することが大学にとってはきわめて重要である。

しかも、日本においては大学教育は厳密な意味での「受益者負担」ではない。学生ではなくその親が費用負担を行っているからだ。これは、財産贈与による所得移転ということもできる。日本の大学生が真剣に勉強しない理由の一つといえる。この状況を理解していないと、なぜ英国の学生による学費値上げデモが直接行動となったのかが理解できない。

「大学とは学問するところだ」という、当たり前のことが当たり前となっていないのが日本の大学であるという著者の指摘はきわめて厳しいが、きわめて正しい。

「大学は学問するところだ」という原点は、オックスフォード大学ではチュトリアル(tutorial)という教育システムによって担保されている。

チュトリアルとは一対一での教育法で、日本の大学で採用されているゼミナール制度にも似ているが、オックスフォードの場合、人文社会科学系の学部教育はすべてがチュトリアルによって行われるということが大きな違いだ。

この手のかかるがきわめて教育効果の高いシステムをつうじて、「知の再生産」(学習・理解)と「知の生産」(議論の発展)が実践されるのである。言い換えれば、インプットだけでなくアウトプットも重視されているということだ。いや、アウトプットこそが大事なのである。

だから、原点を見つめ直すことしか改革は不可能だという著者の姿勢にはまったく賛同だ。

大学院教育が世界の潮流となっているなか、日本の大学はその面では大幅に遅れている。この悪循環ともいえる状況をどう打破してくかについての提言が興味深い。

日本語という参入障壁に守られた日本社会における日本の大学は、そのすべてが世界レベルの競争に巻き込まれる必要はないだろう。

だが、トップクラスの大学から改革を目に見える形で実行していかなければ、日本に未来はないという著者の危機感、これだけは大学関係者だけでなく、卒業生の受け入れ先である企業にも共有していただきたいものだと思う。

同じ著者による姉妹編である『アメリカの大学・ニッポンの大学-TA、シラバス、授業評価-(グローバル化時代の大学論 ①)』(中公新書ラクレ、2012 初版は玉川大学出版局より1992年に刊行)とあわせて読んでおきたい本である。




目 次
はじめに-オックスフォードにあって東大にないもの
第1部 大学異文化体験録
 ハイ・テーブルとガウン
 カレッジとチュートリアル
 授業・試験・成績評価
 エリートを育てるということ
第2部 現代イギリス大学改革の潮流
 財政難と大衆化-イギリス大学改革の背景(2010年2月執筆)
 学生たちが暴動を起こした理由-大学教育は誰のものか(2011年2月執筆)
 大衆化時代のオックスブリッジ(2011年9月執筆)
第3部 日本の大学改革のゆくえ
 「閉じた競争」-グローバル競争から隔絶された日本
 ニッポンの大学に何ができるのか


著者プロフィール

苅谷剛彦(かりや・たけひこ)

オックスフォード大学社会学科および現代日本研究所教授、セント・アントニーズ・カレッジ・フェロー。1955年、東京都生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了、ノースウェスタン大学大学院博士課程修了、Ph.D.(社会学)。放送教育開発センター助教授、東京大学大学院教育学研究科教授を経て2008年から現職。著書に『大衆教育社会のゆくえ』、『知的複眼思考法』など多数
(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<関連サイト>

「教養? 大学で教えるわけないよ」 英国名門大、教養教育の秘密【前】 (池上 彰他、日経ビジネスオンライン、2014年6月24日)
・・東工大における「教養教育」の実践者ったいが英国流の「教養」について語り合う

「伊藤: 専門外の人に自分の専門をアピールするためには、単に分かりやすく伝えるだけではなくて、自分の専門が私たちの生きる社会とどのように結びついているか、その部分について相手に実感してもらう必要があります。なぜ、そういった会話が自然にできるのか。それは、イギリスの大学では、社会との関係を常にイメージしながら専門教育を進めているからです。そしてまさにこの部分をイメージする力が教養なのです。イギリスでは、教養は「専門外の知識」ではありません。「専門を活かすための知識」が教養なのです。
池上: なるほど。
伊藤:こうしたイギリスの教養観をひとことで表すのが「transferable skill」という言葉です。

理系、恋愛音痴、コミュ障を「教養豊か」に変えるには英国名門大、教養教育の秘密【後】 (池上 彰他、日経ビジネスオンライン、2014年7月1日)

(2014年6月30日 項目新設)


<ブログ内関連記事>

日本語の本で知る英国の名門大学 "オックス・ブリッジ" (Ox-bridge)

書評 『知的複眼思考法-誰でも持っている創造力のスイッチ-』(苅谷剛彦、講談社+α文庫、2002 単行本初版 1996)

書評 『ことばを鍛えるイギリスの学校-国語教育で何ができるか-』(山本麻子、岩波書店、2003)-アウトプット重視の英国の教育観とは?

書評 『教養の力-東大駒場で学ぶこと-』(斎藤兆史、集英社新書、2013)-新時代に必要な「教養」を情報リテラシーにおける「センス・オブ・プローポーション」(バランス感覚)に見る

ビジネスパーソンに「教養」は絶対に不可欠!-歴史・哲学・宗教の素養は自分でものを考えるための基礎の基礎

書評 『「イギリス社会」入門 -日本人に伝えたい本当の英国-』(コリン・ジョイス、森田浩之訳、NHK出版新書、2011)

書評 『なぜ日本の大学生は世界でいちばん勉強しないのか?』(辻 太一朗、東洋経済新報社、2013)-「負のスパイラル」を断ち切るには?

書評 『大学とは何か』(吉見俊哉、岩波新書、2011)-特権的地位を失い「二度目の死」を迎えた「知の媒介者としての大学」は「再生」可能か?

(2015年4月15日 情報追加)



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