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2013年10月14日月曜日

『王道楽土の戦争』(吉田司、NHKブックス、2005)二部作で、「戦前・戦中」と「戦後」を連続したものと捉える



『王道楽土の戦争』(吉田司、NHKブックス、2005)は、「戦前・戦中篇」と「戦後60年篇」の二部作として連続して読むのが面白い。「戦前」と「戦後」を連続性のあるものと捉える視点が重要だからだ。「王道楽土」とは、日本人がその夢を大陸に託した満洲国の建国理念のことである。

吉田司という山形出身のノンフィクション作家は、「偽悪派の仮面」をかぶった事実探求者である。これまでに東北の宮澤賢治や沖縄のひめゆりなどにまつわる「神話」を破壊してきた実績の持ち主である。

基本的な姿勢がリベラル左寄りの「神話破壊者」で、しかもふざけた文体(笑)ゆえに毛嫌いする人も少なくないようだが、かなり重要で難しいテーマを正面から取り組んできた人なので吉田司の作品はほとんど読んできた。

この二部作は、近代日本が「満洲国」で実現できたこと、できなかったことを探求したものだ。そしてその根底にある日本人の不安と夢と欲望という情念と島国日本のメンタリティ。これらが投影されたものが「満洲国」であった。

近代日本は貧しく、飢餓に苦しみ、腹いっぱい食うことが一般庶民にとっては最優先事項であったのだ。そして弱肉強食の西洋列強に追い詰められて、生き延びるために歯を食いしばって頑張ったのはエリートから庶民まで共通していた。遅れてきた近代国家日本。その反動が大陸侵攻となって暴発したのであった。

近代日本を推進した明治維新体制とはいったい何であったのか、そしてその行きついた先は? さらには敗戦後に60年間つづいた現代とは?

「戦前・戦中」と「戦後」のコンセプトを、本書の内容に即して要約すれば以下のようになるだろう。

戦前・戦中: 「神の国」そして「聖戦」
●戦後:(「戦前・戦中」を密教化した)「密教体制」

たしかに「神の国と聖戦」思想により無謀な戦争に突入し、敗戦という見るも無残な結果に終わった大東亜戦争であるが、敗戦によってすべてが変わってしまったわけではない。これは「戦後篇」を読むとおおいに実感される。「戦後体制」を見えないところで動かしてきた「密教体制」という捉え方だ。

この見方は、当事者である日本人とは異なり、距離をとってものをみることのできる諸外国のほうが正確な認識を持っていたであろうことは、「日本は軍事では挫折したが、経済で侵略を再開した」というような言説が1980年代にはかなり存在していたことからも裏付けられるだろう。

経済人はさんざんこんな事を聞かされてもまったく黙殺していたのだが、しかし案の定、バブルは崩壊して「第二の敗戦」となったのであった。因果はあざなえる縄のごとし。



コラージュ・ノンフィクションという手法

本書は内容もさることながら、コラージュ・ノンフィクションという手法が面白い。

かなりの情報がデジタルテキストとしてインターネットのなかに存在するようになった現在、リアルとバーチャルの区別がかなりあいまいになっているだけでなく、歴史的事実にかんしても、10年前だろうが100年前だろうが現在からみたた等距離の過去となっている。現時点で検索すれば時間差はあまり意識さえなくなってしまったからだ。

本書は、こういう状態の時代に、いかに「見えない歴史」を浮かび上がらせるかという課題に挑戦した作品であるといっていい。歴史学という固有の枠組みにとらわれた歴史学者には制約があってできない仕事である、なによりも引用された発言や文章がじつに興味深いのだ。

薩長主導の政治体制において「賊軍」とされた東北が、日本近代のナショナリズムにおいていかなる意味をもっていたかについてに書かれた箇所が興味深い。

戊辰戦争で敗れた「奥羽列藩同盟」に参加した東北諸藩は、大東亜戦争で敗れた日本を先取りしていたようにも、わたしには思えてくる。歴史は繰り返さないが、似たようなパターンは繰り返し出現する。

この事情を象徴するのが石原莞爾という存在であろう。

山形は庄内出身の石原莞爾は、その特異な日蓮主義による「世界最終戦論」を唱えた軍人思想家であったが、東北が生み出した政治家や軍人たちの怨念と情念の系譜のなかに位置づけることも可能だ。この視点は山形出身の著者ならではの説得力をもつ。


(帯に引用された文章 上は「戦前・戦中篇」、下は「戦後篇」)


本書が出版されたのは2005年だが、2013年のいまを予測していたのだろうか?

本書には、安倍晋三と石破茂という二人の自民党政治家のインタビュー記録が収録されている。

●『戦前・戦中篇』の「5章 島に咲く華」の[補遺①] 現代の肖像 安倍晋三 (インタビュー実施 2002年)
●『戦後篇』の「4章 列島改造」の[補遺①] 現代の肖像 石破茂(インタビュー実施 2004年)

自民党がふたたび復活した2013年の時点で読むと、なにやら不思議な感じがしなくもない。

1954年生まれの安倍晋三、1957年生まれの石破茂という「ポスト団塊世代」の二世政治家二人。奇しくも復活した第二次安倍内閣で総理大臣と自民党幹事長という要職についている二人である。

安倍晋三は満洲国で統制経済を主導した「革新官僚」岸信介の孫である。石破茂は大陸や半島に海を挟んで最前線のある島根出身の政治家である。

著者は、団塊世代と団塊ジュニアにはさまれた「ポスト団塊世代」に、「戦前・戦中」と「戦後」をつなぐものがあるとみているのだろうか?

「戦前・戦中」と「戦後」はいっけん断絶したようにみえて、じつは根底のところでつながっているのである。

日本人の「飢餓との戦い」と、その先に夢見たユートピアの二度にわたる破綻が本書には描かれているわけだが、一般庶民の不安と夢と欲望は、「戦後」にはあるものは解消され、しかしあるものは依然として残存している。

断絶とみえながらじつは連続しているのが歴史の本質。そういう歴史のダイナミズムを本書で味わっていただきたいものである。安倍晋三なるもの、石破茂なるものをどう評価するかは、読者自身が考えるべき課題である。

著者の文体と思想は嫌いだとしても、読む価値は大いにある。


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目 次


『戦前・戦中篇』
はじめに
1章 夢の中へ
2章 島に散る華 
3章 アラモ系の人びと
4章 ヒルコ系の人びと
5章 島に咲く華
 1. 蒙古の嵐、再び・・・
 2. 日本一の大天狗
[補遺①] 現代の肖像 安倍晋三
6章 魂立国
 1. 狐の里・靖国の都
 2. 石原莞爾の「世界最終戦争論」
引用参考文献
『戦後篇』
1章 ピカドン・プレゼント
2章 鉄道立国-満州からのプレゼント
3章 王様の家来たちの物語
 1. 戦後経済体制の下半身
 2. 自動車と戦争
 3. 戦後の<植民地>文学
4章 列島改造-八百万の神々の<征伐>戦争
[補遺①] 現代の肖像 石破茂
5章 バブルの中の「三つの王国」
6章 万物は流転する
引用参考文献

著者プロフィール

吉田 司(よしだ・つかさ)
1945年、山形県生まれ。早稲田大学在学中に映画監督小川紳介とともに小川プロを結成。『三里塚の夏』などを製作。1970年から水俣に住み、胎児性の水俣病患者らと「若衆宿」を組織する。水俣での体験をまとめた『下下戦記』(白水社、文春文庫)で、1988年、大宅壮一ノンフィクション賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。

PS この投稿で1221本目となった。左右対称のシンメトリーのぞろ目である。まだまだ書きますよ!


<ブログ内関連記事>

書評 『日本近代史の総括-日本人とユダヤ人、民族の地政学と精神分析-』(湯浅赳男、新評論、2000)-日本と日本人は近代世界をどう生きてきたか、生きていくべきか?

書評 『黒船の世紀 上下-あの頃、アメリカは仮想敵国だった-』 (猪瀬直樹、中公文庫、2011 単行本初版 1993)-日露戦争を制した日本を待っていたのはバラ色の未来ではなかった・・・

「神やぶれたまふ」-日米戦争の本質は「宗教戦争」でもあったとする敗戦後の折口信夫の深い反省を考えてみる

書評 『新大東亜戦争肯定論』(富岡幸一郎、飛鳥新社、2006)-「太平洋戦争」ではない!「大東亜戦争」である! すべては、名を正すことから出発しなくてはならない

書評 『アメリカに問う大東亜戦争の責任』(長谷川 煕、朝日新書、2007)-「勝者」すら「歴史の裁き」から逃れることはできない

書評 『原爆を投下するまで日本を降伏させるな-トルーマンとバーンズの陰謀-』(鳥居民、草思社、2005 文庫版 2011)

書評 『命のビザを繋いだ男-小辻節三とユダヤ難民-』(山田純大、NHK出版、2013)-忘れられた日本人がいまここに蘇える
・・小辻節三は満鉄調査部に招聘され、満鉄総裁・松岡洋右の右腕としてユダヤ問題対策にあたっていた

書評 『ノモンハン戦争-モンゴルと満洲国-』(田中克彦、岩波新書、2009)-もうひとつの「ノモンハン」-ソ連崩壊後明らかになってきたモンゴル現代史の真相
・・『虹色のトロツキ-』というマンガもぜひ読むことを薦めたい

書評 『マンガ 最終戦争論-石原莞爾と宮沢賢治-』 (江川達也、PHPコミックス、2012)-元数学教師のマンガ家が描く二人の日蓮主義者の東北人を主人公にした日本近代史

庄内平野と出羽三山への旅 (2) 酒田と鶴岡という二つの地方都市の個性
・・吹浦(ふくら)に石原莞爾の墓所をたずねた記録。庄内藩は西郷隆盛との関係がきわめて太い。そういった近代日本の側面にも触れておいた

「敗者」としての会津と日本-『流星雨』(津村節子、文春文庫、1993)を読んで会津の歴史を追体験する
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「雨ニモ負ケズ、風ニモ負ケズ」 と 「And the skies are not cloudy all day」

いまこそ読まれるべき 『「敗者」の精神史』(山口昌男、岩波書店、1995)-文化人類学者・山口昌男氏の死を悼む

書評 『「くにたち大学町」の誕生-後藤新平・佐野善作・堤康次郎との関わりから-』(長内敏之、けやき出版、2013)-一橋大学が中核にある「大学町」誕生の秘密をさぐる
・・ここにも満洲の痕跡がある


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