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2014年11月3日月曜日

書評『政治家やめます。 ー ある国会議員の十年間』(小林照幸、角川文庫、2010)ー 向いてないのに跡を継いだ「二世議員」と激動の1990年代の日本政治


「サルは木から落ちてもサルだが、政治家は選挙に落ちたらただの人」、という格言がある。自民党の大物政治家によるこの格言は、政治家にとって「選挙」がいかに大きな意味をもっているか語って余すところがない。

『政治家やめます。 ー ある国会議員の十年間』(小林照幸、角川文庫、2010)は、1990年代という「戦後日本」が冷戦構造崩壊とともに終わり、いわゆる「五十五年体制」という自民党一党支配体制が揺らいでいた時代に、「二世議員」として父親の地盤を「世襲」し、自民党の竹下派(・・のち小渕派)の国会議員として過ごした一人の日本人男性の十年間の軌跡を描いたノンフィクションだ。

文庫本で550ページを超える大冊だが、ほぼ最初から最後まで一貫してテーマは「選挙」というものだといっても過言ではない。世襲の二世議員であっても、つまるところ最大の懸案事項は選挙。そして政治家としての活動を維持するためのカネである。それほど選挙とカネは、日本の政治家とは、切っても切り離せない関係なのである。いや、民主主義国家における政治の宿命というべきか。

わたしがこの本を購入したのは、『政治家やめます』というタイトルに尽きる。主人公は、久野統一郎という元国会議員だが、わたしはこの本を読むまでまったくその存在すら知らなかった。久野氏の選挙区がわたしとは関係のない愛知県の知多半島であったこともあるが、マスコミに登場する国会議員は、かなりの論客か、現役の大臣、あるいはなにか事件を起こして辞職した人くらいだからだろう。

一般大衆とマスコミというものはじつに移り気なもので、大臣や国会議員が事件やスキャンダルが発覚した際には徹底的に叩くが、あっという間に事件そのものも風化してしまう。もちろん辞職を余儀なくされた議員の名前もあっという間に消える。

だが思うに、こういう形で辞職を余儀なくされることは、じつは辞め方としては簡単なのかもしれない。政治家は、政治家本人の意志だけでは身動きできないのである。いわゆる「引退」して後進に道を譲るというケースはさておき、現職バリバリの議員が、自発的に議員辞職を決断した久野氏のケースにおいても、じっさいに辞職するのは並大抵の苦労ではなかったようだ。

二世議員が後継者も指名せずに辞職するということ、しかもその理由が「向いてないのでやめます」という理由は、国政史上、前代未聞の異常事態であったらしい。サラリーマンが「会社やめます。」と一言で済ますのとはわけが違うのだ。

本書の主人公である久野統一郎氏は、たたき上げ政治家の長男として生まれたが、50歳を過ぎるまで道路公団で建設畑のサラリーマンとして過ごしてきた人。だが、父親の意向で政治家としてを継承することを余儀なくされる。つまるところ「世襲」であり、「二世議員」なのである。竹下派、小渕派という当時のメインストリームにいたエリートである。

二世議員は、いわゆる「地盤・看板・鞄」をそのまま引き継ぐので選挙はラクだという固定観念をわれわれはもっているのだが、このドキュメント型のノンフィクションを読んでいると、二世議員にとってさえ、選挙ほど重要なものはないことをいやというほど知らされる。

選挙とは、選挙民とのリレーションづくりであり、支援者たちと思いを受け止めるための「仕組み」なのである。そして選挙そのものもさることながら、事務所維持こそカネをもっとも食う存在である。応援してくれる人たち、選挙で投票してくれる人たちがいてこそ成り立つ存在だということ。そしてまた所属政党と所属派閥の意向にもしばられる。

田中角栄の秘書から政治評論家に転じた早坂茂三氏に自民党政治の裏面史を描いた『駕籠に乗る人担ぐ人』という作品があるが、「駕籠に乗る人」である政治家も、「駕籠を担ぐ人」たちの存在がなければ成り立たないのである。哲学者ヘーゲルの「主人と奴隷の弁証法」を想起させる話ではある。

本書はひたすら事実関係を淡々と記述していくスタイルなのだが、けっして無味乾燥な内容ではない。久野統一郎氏の政治家生活のディテールを記述していくことをつうじて、1990年代という、日本の経済のみならず日本の政治構造が激変した十年間を、そっくりそのまま描くことに成功しているからだ。

その意味では、最初は『政治家やめます』に関心を引かれて読み始めると、いつしか『ある国会議員の十年間』を通じて、バブル経済崩壊から「55年体制」崩壊、阪神大震災をはじめとする数々の自然災害など、1990年代という時代をそのなかで過ごした人にとっては、振り返りの体験をすることになる。

本書が単行本として出版されたのは2001年のようだが、激動の1990年代をそのままパッケージしたような内容を読んでいると、「ああそういえば、そんなこともあったなあ」、と。

それにしても、政治家は政治家本人だけでなく、その政治家を選んだ選挙民もまた問われるべきなのだ。日本という国の体質が、さほど変化していないこともあらためて思い知らされるのである。

帯には、「もう私のような人を選ばないでください」という主人公の発言が引用されている。二世議員が多数を占める日本の現状だが、政治家の素質がある人、その意欲を持続できる人だけに政治を担ってほしいものである。二世議員であるということそのものが悪いわけではない。

わたし自身は政治家とはまったく縁のない人であるが、絶対に政治には関与したくないと思い続けてきた。この本を読みながら、あらためてその思いをつよくしている。





目 次

序章 混乱する自民党
第1章 初出馬-神輿に乗る、神輿を担ぐ
第2章 永田町-バッジ、赤絨毯、グリーン車
第3章 五五年体制の崩壊-自民党、野党へ
第4章 阪神・淡路大震災-政治家としての自覚
第5章 選挙区と永田町のはざまで-義理と人情の鎖
第6章 公共事業の獲得-万博、空港、港湾
第7章 「今期限りで引退します」-意志を貫く
第8章 さらば永田町-我、郷里に帰る
終章 親父の選挙 息子の選挙
あとがき
文庫版あとがき-その後の久野統一郎、自民党、そして政治家
解説 有馬晴海
参考文献
久野統一郎 衆議院・政党役職


著者プロフィール
小林照幸(こばやし・てるゆき)
1968(昭和43)年、長野市生まれ。ノンフィクション作家。明治薬科大学在学中の1992年、『毒蛇』(TBSブリタニカ・文春文庫)で第1回開高健賞奨励賞を受賞。1999年、『朱鷺の遺言』(中央公論新社・中公文庫)で、第30回大宅壮一ノンフィクション賞を、当時同賞史上最年少で受賞。信州大学経済学部編入学・卒業。明治薬科大学非常勤講師(生薬学担当)。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



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