新春特集第二弾!!
「タイガー・カー」(Tiger Car:老虎車)参上!!
タイガー・バーム・ガーデンといえばかつて香港の観光名所だったのだが、残念なことに閉鎖されて久しい。香港の不動産王であるリー・カーシンがコンドミニアム開発のために土地を買収して閉園してしまったのだ。
その結果、現在でも開園しているのは、シンガポールのタイガー・バーム・ガーデン、正式にはハウパー・ヴィラ(Haw Par Villa:虎豹別墅)しかなくなってしまった・・・
■大英帝国の植民地ネットワークとタイガーバーム
タイガー・バーム(Tiger Balm)とは、いうまでもなく軟膏薬タイガーバーム (虎標萬金油) のことである。
万能塗り薬の商標名だが、このタイガー・バームを発明し、全世界に普及させて巨万の富を築いたのが、英国統治下のビルマの首都ラングーン(現在はミャンマーの首都ヤンゴン)に生まれた、客家系華僑(華人)・胡文虎(Aw Boon Haw:1882-1954)と胡文豹(Aw Boon Par:1884-1944)の兄弟であった。
当時は、ビルマもシンガポールも香港も英国の植民地であり、胡兄弟は、英国の植民地統治システムをフルに活用して財をなしている。
これは、イラクのバクダッドが起源の、セファルディム系のユダヤ系財閥サッスーン家(Sassoon)も同様である。サッスーンの主家は、バグダッド(イラク)⇒ボンベイ(インド)⇒上海(中国)と移動している。さらにさかのぼれば1492年以前のスペインにたどりつく。ただし、ヘアドレッサーでビジネスマンのヴィダル・サッスーン(Vidal Sassoon)は別系統の家族である。
シンガポールの「ハウパー・ヴィラ」(Haw Par Villa:虎豹別墅)は、兄弟の名前である虎豹(Haw Par)からとったものである。もともとは胡文虎が弟の胡文豹に作ってあげた別荘であった。
道教や儒教、神仙思想に基づいた、日本人からみれば奇怪としかいいようのないキッチュな像が所狭しと並んだ一大テーマパークで、普通はシンガポールの観光名所にはでてこないが、何度でも訪ねたい、何時間でもなかにいたいと思わせる不思議空間である。
(ハウパーヴィラにあるキッチュな仏像はビルマ仏?)
このキッチュさは、私の推論では、おそらく胡兄弟がビルマ(ミャンマー)に生まれて、少年時代を過ごしたことに大きな関係があるとみている。このハウパー・ヴィラにも仏像があるのだが、中国的というよりも限りなくビルマ的(!)なのである。
事の真偽は、直接シンガポールにいって直接確かめていただきたい。まだ入場無料のハズである。
■「ハウパー・ヴィラ」に胡文虎の「タイガー・カー」
そしてこの「ハウパー・ヴィラ」には、胡文虎の「タイガー・カー」がガレージごと復元されている。
展示の説明書きによれば、展示してあるのは2台目で1932年製造、ドイツ車の Humber の改造車で、プレートにある 8989 はラッキーナンバーとのこと(・・八は福をあらわす)。
胡文虎はこの「タイガー・カー」で、弟の別荘まで毎日飛ばしていたそうだ。現在のシンガポールではまず交通法違反だろうが、当時は問題なかったのだろう。そもそもクルマが少なかったし、クルマは金持ちのものだったからだ。
タイガー・バームをマーケティングするためとはいえ、度肝を抜いているといわざるをえない。このど派手さは大阪的ではないか。
(ハウパーヴィラ内の売店)
タイガー・バームは、日本では龍角散が販売しているが、シンガポール土産の定番となっている。私も昔からタイガーバームを大量に買ってきては、会社で配ってきた。長年愛用している。
臭いがきついが、さすが万能塗り薬のロングセラー、なんにでも効くというのがすばらしい。1870年に発明されてからすでに140年である。
(賞味期限はないのでなくなるまで使えばよい)
マレー語の Balsem Harimau(バルサム・ハリマオ)という響きも実によい。怪傑ハリマオのハリマオとはマレー語で虎のことである。インドネシアでももちろん同じ名前で販売されている。スマトラにはスマトラ虎が生存する。
今年は寅年、虎のように慎重かつ大胆に行動していきたいものだ。
<関連サイト>
【シンガポール】国代表するブランドで販拡:ハウパー、軟こう派生品を投入(NNA 2011年11月18日)
・・アジアを代表するブランドであるタイガーバーム。ブランド力にてこ入れするための数々の施策について
(2011年11月11日 追加情報)
<特別付録>
1989年に筆者がシンガポールにはじめて行った際にお土産として購入したタイガーバームに入っていた「効能書き」のオモテ。
胡文虎(Aw Boon Haw)と胡文豹(Aw Boon Par)兄弟のポートレート(・・ふたりあわせてハウパー Haw Par Bros)、中文繁体字で「虎標金油」、マレー語で「Balsam Harimau」(バルサム・ハリマオ!)、日本語で「タイガーバーム」、英語で「Tiger Balm」とある。
ウラにはアラビア語とペルシア語、ヒンディー語(?)が書かれている。
この当時の「タイガーバーム」の流通圏あるいは商圏がうかがわれる。
(2014年6月8日 記す)
(1989年に筆者がシンガポールで購入したタイガーバームの効能書)
<ブログ内関連記事>
「タイガー・ビア」で乾杯!!
書評 『トラオ-徳田虎雄 不随の病院王-』 (青木 理、小学館文庫、2013)-毀誉褒貶相半ばする「清濁併せのむ "怪物"」 を描いたノンフィクション
・・1938年(寅年)生まれの徳田虎雄
書評 『HELL <地獄の歩き方> タイランド編』 (都築響一、洋泉社、2010)-極彩色によるタイの「地獄庭園」めぐり写真集
・・シンガポールのハウパーヴィラの「地獄めぐり」から写真を掲載しておいた
■客家(ハッカ)という存在
書評 『バンコク燃ゆ-タックシンと「タイ式」民主主義-』(柴田直治、めこん、2010)-「タイ式」民主主義の機能不全と今後の行方
・・タイの元首相のタクシンも前首相のアピシットも客家系華人
■英領ビルマ(現在のミャンマー)
「ミャンマー再遊記」(2009年6月) 総目次
「三度目のミャンマー、三度目の正直」 総目次 および ミャンマー関連の参考文献案内
映画 『The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛』(2011年、フランス・英国)をみてきた
■大英帝国ネットワーク
書評 『大英帝国衰亡史』(中西輝政、PHP文庫、2004 初版単行本 1997)-「下り坂の衰退過程」にある日本をどうマネジメントしていくか「考えるヒント」を与えてくれる本
・・ミャンマー(旧英国領ビルマ)で大英帝国衰亡史」を読む
書評 『大英帝国という経験 (興亡の世界史 ⑯)』(井野瀬久美惠、講談社、2007)-知的刺激に満ちた、読ませる「大英帝国史」である
東南アジアでも普及している「ラウンドアバウト交差点」は、ぜひ日本にも導入すべきだ!
・・いまのシンガポールでは「タイガー・カー」は走れないだろう
書評 『抵抗と協力のはざま-近代ビルマ史のなかのイギリスと日本-(シリーズ 戦争の経験を問う)』(根本敬、岩波書店、2010)-大英帝国と大日本帝国のはざまで展開した「ビルマ独立」前後の歴史
会田雄次の『アーロン収容所』は、英国人とビルマ人(=ミャンマー人)とインド人を知るために絶対に読んでおきたい現代の古典である!
エンマ・ラーキンの『ジョージ・オーウェルをビルマに探して』(Finding George Orwell in Burma)を読む-若き日のオーウェルが1920年代、大英帝国の植民地ビルマに5年間いたことを知ってますか?
(2014年2月17日 項目新設 2014年5月17日、6月8日 情報追加)
(2012年7月3日発売の拙著です)
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