先週土曜日(2010年4月17日)、ひさびさに横浜にいって、山下公園に係留されている氷川丸(ひかわまる)を観覧してきた。日本郵船に勤務する友人に誘われたからで、氷川丸を観覧したのは実は初めての経験だ。
午前中は41年ぶりの積雪となった南関東だが、午後は天気も晴れて実に気持ちがよかった。何よりも、海の空気をたっぷり胸のなかに吸い込むと、生き返るような心持ちになる。とくに太平洋にむかって開かれた横浜港は、世界とじかにつながっているのだという思いが、人間を開放的にしてくれる。
氷川丸は、1930年に建造され就航した日本郵船 (NYK:Nippon Yusen Kaisha)の貨客船である。今年2010年4月25日で、ちょうど建造から満80歳を迎えることになる。まさに、いま時の人ならぬ、時の船である。
戦前はまだ航空機の時代ではなく、客船の時代であった。客船の時代にはまさに花形であった豪華客船も、第二次大戦中には徴用されて病院船として、また敗戦後は引き揚げ船として使用された。
しかし、戦争中も米海軍の魚雷攻撃にも遭遇せず、その結果まったく沈没することもなく、現在は引退してから久しいが、誕生から80歳を祝うことができるのである。
もちろん現在では、氷川丸からはエンジンもプロペラもとりはずされいるので自ら動くことはできないが、渓流されている船内を200円で内部を観覧することができるのは、たいへんうれしいものである。
かつて、1930年代の「豪華客船の黄金時代」に活躍していた氷川丸の内部には、ほとんどホテルのスイートルームのような一等船室、またラウンジや図書室やカクテルバーなど、在りし日の後か客船の旅を偲ばせる姿が、そのままの形で保存されている。
日本郵船は、世界一周航路を展開する豪華客船「飛鳥」を就航しているが、現在は基本的にはコンテナによる貨物輸送が事業の中心である。戦前は旅客輸送が中心であったことを想起するためにも、氷川丸の保存とと公開は意義ある事業だといっていいだろう。
友人の話では、氷川丸は日本郵船の数ある貨客船のなかでは、魚雷攻撃にあわずに生き残った唯一の船であるという。絶対に沈まなかった船、「幸運の船」としての氷川丸。
しかも、ブリッジの操舵室の神棚には氷川神社が祭られていることを知った。
氷川丸に氷川神社、たんなる偶然か、それとも見えざる手が働いたのか。なにやら非常に霊験あらたか、ではないか。
友人は、氷川丸で氷川神社のお札やお守り売ったら絶対に売れるのに、というのだが、これにはまったくもって賛成だ。売り出されたら、何よりもまず、私がまず買いたいくらいだ。小舟で荒海にこぎ出した私の課題は、とにかく沈まないこと、それに尽きるから。
ちなみに、氷川丸以外の貨客船はどうだったのだろうか、と友人にきてみたところ、とくにそうしたことはしていないようだ。浅間丸が浅間神社、秩父丸が秩父神社だったかどかうかはわからない。
いっそのこと、氷川丸自体をご神体にして神社にしてしまえばいいではないか。宗教法人としての資格を満たすかどかはわからないが。
「絶対に沈まなかった氷川丸詣で」が、新規開業者など起業家のあいだで熱烈な信仰を生み出せば、お札やお守りなどのグッズの販売や、成功した企業家による寄付金などで、船体の維持修繕費くらいは稼げるのではないだろうか。なんて考えてみるのも面白い。事業計画でもつくってみるかな。
いずれにせよ、強運の持ち主であった氷川丸には、私はあやかりたいと強く思ったのであった。
「運も実力のうち」とは、よくいうではないか。
なお、日本郵船は、今年のNHK大河ドラマ「龍馬伝」のもう一人の主人公・岩崎弥太郎が創りあげた会社であることを、付け加えておこう。三菱商事とともに三菱財閥の源流となった海運事業である。
日本は海洋国家である、このことをいま一度かみしめたいものだ。
<付記>
■特別展「船をとりまくアール・デコ」
なお、氷川丸80歳を祝って、山下公園から徒歩で約20分のところにある「日本郵船歴史博物館」では、特別展「船をとりまくアール・デコ」が開催されている(2010年2月27日~6月6日)。
アール・デコ(art deco)は、まさに氷川丸誕生の前、1920年代に一世風靡したアート様式である。日本のアール・デコが、欧州航路を就航する、当時最先端の豪華客船の内装や、宣伝用ポスターとして残っているという事実。世界のアートの同時代的現象として面白い。
この特別展示も、あわせてぜひ見ておきたいものである。
<関連サイト>
◆日本郵船歴史博物館 氷川丸 http://www.nyk.com/rekishi/index.htm
◆NHK大河ドラマ「龍馬伝」 http://www9.nhk.or.jp/ryomaden/
<ブログ内関連記事>
書評『海洋国家日本の構想』(高坂正堯、中公クラシックス、2008)
書評『平成海防論-国難は海からやってくる-』(富坂 聰、新潮社、2009)
書評『江戸時代のロビンソン-七つの漂流譚-』(岩尾龍太郎、新潮文庫、2009)
船橋漁港の「水神祭」に行ってきた(2010年4月3日)
鎮魂!戦艦大和- 65年前のきょう4月7日。前野孝則の 『戦艦大和の遺産』 と 『戦艦大和誕生』 を読む
<アール・デコ関連の展覧会情報>
「美しき挑発 レンピツカ展」にいってきた
PS. 海運は開運に通ず
いまふと気づいたが、海運は開運に通じる。横浜の氷川丸は開運の船。太平洋戦争中も沈没を免れてこのたび80歳を迎えた「幸福の船」とされているが、「開運の船」というべきなのだ。(2010年5月3日)
(2022年12月23日発売の拙著です)
(2022年6月24日発売の拙著です)
(2021年11月19日発売の拙著です)
(2021年10月22日発売の拙著です)
(2020年12月18日発売の拙著です)
(2020年5月28日発売の拙著です)
(2019年4月27日発売の拙著です)
(2017年5月18日発売の拙著です)
(2020年5月28日発売の拙著です)
(2019年4月27日発売の拙著です)
(2017年5月18日発売の拙著です)
(2012年7月3日発売の拙著です)
ツイート
ケン・マネジメントのウェブサイトは
ご意見・ご感想・ご質問は ken@kensatoken.com にどうぞ。
禁無断転載!
ツイート
ケン・マネジメントのウェブサイトは
ご意見・ご感想・ご質問は ken@kensatoken.com にどうぞ。
お手数ですが、クリック&ペーストでお願いします。
禁無断転載!
end