先週金曜日(2011年5月13日)のメルマガ KON362【「津波プレイン」で復興へ~スイスのように国民の自立を促す政策が必要だ】~大前研一ニュースの視点で、大前研一さんが「小国スイスに学べ」という趣旨のことを書いていました。
ちょっと長くなりますが、メルマガの後半部分のスイスにかんする文章を引用させていただきます。
▼ 日本復興にあたって、スイスは研究する価値がある
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これから日本の復興を考えていく際、スイスという国は研究に値すると私は思っています。
日本に負けず劣らず資源が少ない国なのに、世界のトップ企業が数多く存在している国です。海外の成功事例として、日本にとっては参考にしたいところです。
スイスは、国が小さい上に周囲を大きな国で囲まれているという特徴があります。国土の点から見るとオーストリアなど今は比較的小さい国ですが、かつてはオーストリア=ハンガリー帝国という巨大国家として君臨していました。
そのような環境の中で、スイスはいつでも自分たちが征服されるかもしれないという恐怖を抱え、そして緊張感を持ち続けたのだと思います。国民皆兵制度にも、こうした歴史的な背景が影響しているのでしょう。
国民性を見ると、まず非常に「国際的」です。スイスの中では、それぞれの地域で主要言語として、フランス語、ドイツ語、イタリア語に加え英語も話されています。
多国籍企業も多く、海外に勤務している国民も多数います。この点、英語も話せずにドメスティックに過ぎる日本人とは正反対だと言えるかも知れません。
また直接民主主義ということもあって、驚くほどに「議論」をする国民性を持っています。私は学生の頃ルームメイトにスイス人がいましたが、彼らの議論に向かってくる姿勢は全く日本人と違っていて驚きました。
そのスイス人の友人とは未だに交友関係がありますが、今でも会えば議論になります。一緒に散歩に出掛けても、散歩の間に議論をけしかけてくるほどです。昔を懐かしむ話をする余裕などまるでありません。
これがスイス人としての標準で、街の中でも平気で議論しますし、政治経済の事柄に限らず様々なテーマを扱います。
日本人の国民性とは相当に違いますので、一朝一夕にスイス人のようなメンタリティを身に付けることは難しいかもしれません。そして、もちろんスイスの全てが成功事例という訳でもありません。
しかしそれでも、研究する価値は十分にあると私は思っています。日本がこれから復興の道を歩んでいくにあたって、スイスという小国 がどのように発展してきたのか、それを学びとしてもらいたいと思います。
(出典)KON362【「津波プレイン」で復興へ~スイスのように国民の自立を促す政策が必要だ】~大前研一ニュースの視点 (2011年5月13日)
大前さんが書かれているとおり、「直接民主制」のスイスは、大国に周囲を囲まれた小国のためでしょう、「国民皆兵」であるだけでなく、議論するチカラによっても「武装」しているというわけですね。
ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語と、公用語が 4つあるスイスでは、現在は英語が普及した結果、自分の母語以外に公用語を覚えようとしないという問題点も出てきているようですが、それでも平均的な日本人よりは、はるかに「国際的」であることは、一度でもスイスを訪問したり、スイス人とかかわったことがあればわかることだと思います。
もちろん、日常使用しているコトバの影響は思っている以上に大きいものがあり、ドイツ語を母語とするスイス国民と、フランス語を母語とするスイス国民とでは、文化面でも、気質の面でも違いがあるようですが、それでも「盟約によって成立したスイス」という国においては、スイス国民は団結するときは団結するのです。
フランス語世界の啓蒙思想家ジャン・ジャック・ルソーのいう「社会契約論」そのものですね。「直接民主制」の背景にはこの思想があります。ちなみに、ルソーはフランス人ではなく、フランス語圏のジュネーヴ出身で時計職人(!)の子として生まれたスイス人です。
「盟約という社会契約によって成立したスイス」は、「在りて在る日本」のような自然発生的な国家とは異なりますが、それでも周囲を米国や中国やロシアといった「大国」にかこまれた「小国」という点においては、共通するものがあるといっても間違いはありません。スイスも欧州の「陸の孤島」と形容されることもある、欧州の交通の要衝(ようしょう)でありながら、アプローチがかならずしも容易ではない「山岳国家」です。
スイスについては、わたしもブログに「書評」という形式をつかって、何本か記事を書いていますので、この場を借りて整理して紹介いたします。
書評 『ブランド王国スイスの秘密』(磯山友幸、日経BP社、2006)
・・ビジネスパーソンにとっては「ブランド王国スイス」という捉え方が面白い
書評 『マネーの公理-スイスの銀行家に学ぶ儲けのルール-』(マックス・ギュンター、マックス・ギュンター、林 康史=監訳、石川由美子訳、日経BP社、2005)
・・「マネーの防衛」というのがスイス流の投機。セキュリティの観点から投資と投機を考える
書評 『民間防衛-あらゆる危険から身をまもる-』(スイス政府編、原書房編集部訳、原書房、1970、新装版1995、新装版2003)
・・スイスといえば、いまでは「国民皆兵」は日本人の常識になったことと思う。スイス人の家庭には、一家に一冊備え付けなのが、この本と銃器一式!
書評 『スイス探訪-したたかなスイス人のしなやかな生き方-』(國松孝次、角川文庫、2006 単行本初版 2003)
・・とはいえ、スイスも曲がり角にきていることが、スイス大使として赴任した國松元警視庁長官のやわらかな筆致で描かれている
1980年代に出版された、日本女性の手になる二冊の「スイス本」・・・犬養道子の『私のスイス』 と 八木あき子の 『二十世紀の迷信 理想国家スイス』・・・を振り返っておこう
・・現在から30年前はまだスイスは観光先としてしか認識されていなかったようだ。そういう現状認識への異議申し立ての内容でもある
「急がば回れ」-スイスをよりよく知るためには、地理的条件を踏まえたうえで歴史を知ることが何よりも重要だ
・・欧州の「陸の孤島」とも形容されるスイス、まずは地形を知り、歴史を知るのが「急がば回れ」となる
「小国」日本の将来を考えるあたって、わたしは、いい意味も悪い意味もふくめて、さらには「反面教師」としての意味においても、英国、スイス、イスラエル、ポルトガルを徹底研究することが重要だと考えています。
このうちスイスについては、上記の記事を参考にしていただけると、執筆者としては幸いこれに過ぎるものはありません。
PS その後に書いたブログ記事を追加しておきます。(2014年6月2日 記す)
書評 『ゲームのルールを変えろ-ネスレ日本トップが明かす新・日本的経営-』(高岡浩三、ダイヤモンド社、2013)-スイスを代表するグローバル企業ネスレを日本法人という「窓」から見た骨太の経営書
・・スイスを代表するグローバル企業(多国籍企業)ネスレは、米国流とは異なる経営
映画 『アルプス-天空の交響曲-』(2013、ドイツ)を見てきた(2015年5月28日)-360度のパノラマでみる「アルプス地理学」
ペスタロッチは52歳で「教育」という天命に目覚めた
・・「預言者故郷に容れられず」という格言があるが、理想主義者のペスタロッチの試みは、すくなくとも生前においては故国のスイスでは受け入れられなかった。」
「チューリヒ美術館展-印象派からシュルレアリスムまで-」(国立新美術館)にいってきた(2014年11月26日)-チューリヒ美術館は、もっている!
「フェルディナント・ホドラー展」(国立西洋美術館)にいってきた(2014年11月11日)-知られざる「スイスの国民画家」と「近代舞踊」の関係について知る
(2016年3月7日 情報追加)
<関連サイト>
Swissinfo.ch (スイス放送協会が発信するネットのスイス情報 日本語)
・・「スイスのニュースやビジネス情報、文化、スポーツ、天気予報を提供するプラットフォームです。スイスをあらゆるアングルから捉えた最新情報を日本語で、全世界の読者の皆様にお送りします」(ウェブサイトより)
企業の楽園としてのイメージを失うスイス-国民投票で移民規制を承認、企業や富に対する態度に変化か? (JBPress 2014年2月17日 Financial Times 翻訳記事)
・・「スイス企業に深刻な打撃を与える可能性があるとの警告にもかかわらず、スイスはぎりぎりの過半数で欧州連合(EU)からの移民に割り当てを課すことを決定したのだ・・(中略)・・総合すると、様々な投票は、企業や富に対するスイス国民の態度に根本的な変化があったのではないかという疑問を提起している。」
金融覇権も失い、そのうえ人材面でも大きな問題を抱えつつあるスイス。直接民主制の弊害も「指摘されている
移民急増を拒絶したスイス国民投票の衝撃-5月の欧州議会選挙で右派勢力に追い風か (熊谷 徹、日経ビジネスオンライン、2014年2月20日)
・・つまりこの国民投票は、グローバル化によって利益を得る大都市の住民と、グローバル化に対して不安を抱く地方在住の市民の対決でもあったのだ」。
大量移民制限案可決の影響-二つの経済課題に直面するスイス連邦政府-(JETRO、 2014年11月 Pdfファイル)
・・「2014 年2月9日に実施された国民投票で、外国からの大量移民の受け入れ人数を制限す るイニシアティブ(国民発議)がスイス国民の 50.3%の賛成を得て可決された。・・(中略)・・ 改正内容は、スイスで滞在あるいは働く外国人の総数と毎年の受け入れに対し、 数量枠を設けることを規定するものだ。その最大の特徴は、これまで、数量枠の対象とは なっていなかった EU 及び EFTA の加盟国(欧州経済領域)の国籍者に対しても、受け入 れ数に上限を定めることになるという点だ。スイスと EU 間で締結した協定にある「人の 移動の自由」に反する内容である。」
ベーシック・インカム導入案、反対大多数で否決(Swissinfo.ch、2016年6月5日)
・・「働いているか、いないかに関わらず、国民全員に生活に必要最低限のお金を支給するベーシック・インカム(最低生活保障、最低所得保障)導入案は、反対約8割で否決。公共サービスの改善を求めたイニシアチブ(国民発議)と道路財源を巡るイニシアチブも否決。難民法改正案および着床前診断に関する法案は可決された。
(2014年2月18日 項目新設)
(2014年11月21日、2015年9月24日、2016年6月28日 情報追加)
(2012年7月3日発売の拙著です)
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