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2013年5月17日金曜日

「意図せざる結果」という認識をつねに考慮に入れておくことが必要だ


最近のものですが面白い内容の記事があります。「中国とツナミで気力を取り戻した日本」。英国の金融経済誌「フィナンシャル・タイムズ」(Financial Times)の翻訳記事です(2013年5月9日付)。執筆者は David Pilling 氏。David Pillng 氏はこんな記事を書いている人です。

毎日のように中国政府が揺さぶりをかけてくるので、マスコミで中国ネタが尽きる日がないわけですが、いつものことながら中国がやることなすこと、ほぼすべてが意図に反したリアクションを生み出しています。

津波は不可抗力ですが、中国政府の行動は意図的なものです。不可抗力とは英語でも最近ではもっぱら force majeure(フォルス・マジュール)というフランス語起源のコトバをつかいますが、一般的には Act of God (神の行為)といいます。

「神の行為」(=不可抗力)ではない意図的な行為とは、神ではない人間がある特定の意図をもって行う行為のこと。「人間の行為」ですね。

「神の行為」には人間の立場からみて功罪両面があります。先の記事でいえば、東日本大震災における津波の被害は死者をふくめてきわめて大きなものでありましたが、その結果、生き残った日本人全体が「きずな」や「つながり」の意識を取り戻したことがあげられます。

「人間の行為」にも功罪両面があることに注意しておきたいものです。

先の記事でいえば、中国がGDPの規模で日本を追い抜いたことは日本人にとっては残念なことですが、尖閣諸島をめぐってのトラブルが日本人にいい意味でのナショナリズムという求心力を生み出しています。

たとえ想定する結果をもたらすことを意図した「人間の行為」であっても、「意図せざる結果」がもたらされることを考慮に入れておかねばならないのです。「想定内」にしておくべきだとおてもいいでしょう。

それは、偶発的な事象の発生によって異なる結果がもたらされることもありますが、偶発的な事象が発生しなくても、そもそも意図に反した結果がもたらされることが多いのです。それは、意図する側が完全に相手をコントロールできないからだけでなく、状況そのものをコントロールはできないからです。

たとえば、古い話ですが、大学入試に偏差値が導入されたのは、もともとは一流大学に集中しがちな受験戦争を緩和するのが当初の意図でありました。ところがじっさいには、偏差値という数字ですべてが表現されたことにより、東大を頂点とする受験体制はよりいっそう強化されることになってしまったのです。

これは「意図せざる結果」ですね。

ビジネスや経済の世界でいえば、消費税をあげれば税収が増えると財務省が意図しているのに対し、消費税があがるまえに駆け込み需要が発生するものの、消費財増税後はかえって消費が冷え切ってしまい、結果として税収があがらないといったことも発生します。

これもまた「意図せざる結果」です。

中国がらみの話でいえば、2004年の台湾総統選の際、台湾独立の意思を鮮明にした李登輝に対して、中国は台湾沖にミサイルを打ちこむなど軍事的な恫喝を行ったことがあります。ところが、このためにかえって台湾の投票者の多くが中国に反発して地滑り的な勝利を収める結果となったことも記憶されている方も少なくないでしょう。

これもまた「意図せざる結果」ですね。

現在、中国が日本に対して行っている尖閣諸島での艦船派遣が、かえって日本人のあいだに反中国という感情をベースにしたナショナリズムをかきたてる結果をつくりだしているのです。

最近はさらに沖縄は中国の属国であったとすら言い始めています。尖閣問題からさらにエスカレートし始めているわけですが、沖縄県民のあいだにも反中国感情を生み出している結果となっており、まさに逆効果としかいいようがありません。

逆説的な意味では、中国にはふかく感謝しなくてはならないというわけですね(笑) 

「日本復活」かどうかはわかりませんが、中国政府はどうやら同胞であるはずの台湾人だけでなく、隣国である日本と日本人をまったく理解していないようです。逆効果を生み出すことまで「想定内」にしているのであれば、中国政府もたいしたものだと言うべきでしょうが、じっさいはそうとは考えにくい。

とはいえ、中国側の過剰なまでのデモンストレーションに対しては、日本としては挑発に乗らずに、事実関係をベースにした対応をとることが肝心ではありますね。

いずれにせよ、なにかアクションを起こす際は、かならず「意図せざる結果」の認識を考慮に入れなくてはならないとはこういうことなのです。

それはマインドセットの問題だけでなく、イマジネーションの訓練が必要だということでもあります。



PS 冒頭で引用した記事の筆者デビッド・ピリング(David Pilling)氏の著書が日本語訳されている。『日本-喪失と再起の物語-黒船、敗戦、そして3・11-上下』(早川書房、2014)。日本通の英国人によるノンフィクションである。 ’(2016年6月18日 記す)



<ブログ内関連記事>

書評 『知的複眼思考法-誰でも持っている創造力のスイッチ-』(苅谷剛彦、講談社+α文庫、2002 単行本初版 1996)
・・第4章で「意図せざる結果」についての重要な指摘が書かれています。この本は必読書。



このほか、ビジネスでもそれ以外でも、なにかアクションを起こす立場の人は、この本を読んで勉強してほしいものです。 

『悪循環の現象学-「行為の意図せざる結果」をめぐって』 (長谷直人、ハーベスト社、1991)



「ストライサンド効果」 (きょうのコトバ)
・・「インターネット上に公開された情報を、個人や企業が封じ込めようとすればするほど、かえってその情報が拡散してしまうという、「行為の意図せざる結果」がもたらされてしまう現象のこと」


書評 『松井石根と南京事件の真実』(早坂 隆、文春新書、2011)
・・本人の意図に反して致命的な結果を引き起こしたケースとして松井将軍のことを想起すべきでしょう


「神の見えざる手」ではない!-アダム・スミスの「見えざる手」は「意図せざる結果」をみちびく

(2014年8月30日、10月25日 情報追加)



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