4月末から5月にかけてのこの時期になると、いっせいに花を咲かせるのがヒナゲシ。別名コクリコ、虞美人草(ぐびじんそう)。
美しい花だが、人がタネをまいたわけではない。人の手を借りずにタネが拡散して自生しているのだ。とにかく生命力がつよい。写真のように、どんなところでも落地生根する生命力の強さは、タンポポ並といっていい。
歌人・与謝野晶子の歌にこういうものがある。
ああ皐月(さつき) 仏蘭西(ふらんす)の野は火の色す
君も雛罌粟(コクリコ) われも雛罌粟(コクリコ)
これはフランスに外遊させていた夫の与謝野鉄幹とパリで合流した34歳の晶子が詠んだ歌だ。いまから103年前の1912年の5月、「ベルエポック」まっさかりののフランスも、ヒナゲシの花咲く季節なのである。作家・渡辺淳一による与謝野夫妻を描いた伝記文学のタイトルにも採用されている。
だが、これだけ日本に自生していると、これが西洋からの伝来だとは、もはや誰も思わなくなっているのかもしれない。
爆発的に広がったタンポポも、じつは西洋タンポポであることを知っている人は、意外と少ないような気がする。
なぜか外来種のほうが生命力がつよいという印象があるが、ヒナゲシもまた生き残りにかけての執念はすさまじい。花が咲いている時期以外にはヒナゲシの存在そのものも忘れ去られている。
「美しい花には毒がある」とはよく言われるが、それは生き残りのための戦略でもあるのだ。
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(2012年7月3日発売の拙著です)
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