『岸惠子自伝 卵を割らなければオムレツは食べられない』(岸惠子、岩波書店、2021)を一気に読んだ。一昨日のことだ。
現在88歳の女優の著者が語る自伝エッセイ集。フランス人と結婚し、パリに移り住んだ日本人女性の走りともいうべき存在か。 帯には、社会学者・上野千鶴子氏による評が掲載されている。
「自伝でありながら、上質なエッセイを読んだような読後感に満たされる」
まさにその通りであり、それ以外のコメントはしようがないというのが、正直なところだ。このコメント力もまたすごい。
岸惠子氏のように、ここまで明晰に自分を表現できる知性には、めったにいないだろう。心の底から驚嘆し、賞賛を惜しまない。
単身ヨーロッパに渡って生き抜いてきた日本女性は、ほんとうに精神が強靱に鍛え上げられている。戦前に生まれ、戦争をくぐりぬけ、戦後の日本を駆け抜けて、さっさとフランスにいってしまった直情径行ともいうべき人。現在は、拠点を日本に移している。
もちろん、88歳まで明晰な頭脳を維持するためには、旺盛な好奇心だけでなく、体力も気力も不可欠であるが、岸惠子氏のように華奢な女性に、そんな強靱な生命力があるとは!
アフリカへの思いということで想起するのは、ドイツ人女優で映画監督だったレーニ・リーフェンシュタールである。この人は100歳まで現役を貫いた。岸惠子氏も、まだまだやりたいことがあるのだという。 それが生きる原動力になっているのであろう。
自分のように50歳台後半の男は、「まだまだやることあるでしょ、できるでしょ」と叱咤されているような気になってくる。まだまだ、ですね。
「卵を割らなければ、オムレツは食べられない」とは、フランスの格言だそうだ。フランス人の元夫からくどかれたときに初めて耳にしたらしい。
まさにそのとおりの人生だな、と。いくつになっても、必要な人生の心構えではないか!
目 次第Ⅰ部 横浜育ち第Ⅱ部 映画女優として第Ⅲ部 イヴ・シァンピとともに第Ⅳ部 離婚、そして国際ジャーナリストとして第Ⅴ部 孤独を生きるエピローグおわりに岸惠子略年譜
著者プロフィール岸惠子(きし・けいこ)1932年横浜生まれ。1951年女優デビュー。1957年医師・映画監督であるイヴ・シァンピとの結婚のため渡仏。1963年デルフィーヌ誕生。1976年離婚。1987年NHK衛星放送『ウィークエンド・パリ』のキャスターに就任。女優として映画・TV作品に出演し、主演女優賞のほか数多くの賞を受賞。作家、国際ジャーナリストとしても活躍を続ける(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
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