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2022年8月8日月曜日

書評『壁の向こうの住人たち ー アメリカの右派を覆う怒りと嘆き』(A.R. ホックシールド、布施由紀子訳、岩波書店、2018)ー リベラル派の社会学者がフィールドワークで描き出した南部の右派の感情と対話の可能性

 
先日のことだが、アメリカ南部に生まれ育ったバーダマン氏による南部ものの著作数冊つづけて読んだ。この著者の語る南部はじつに魅力的で、すでに南部を離れて日本在住数十年になる著者のノスタルジー的感情に充ち満ちた内容であった。

だが、そんな南部もルイジアナ州のニューオーリンズは、2005年にハリケーン・カトリーナの大規模な被害を受けてしまった。その後、どうなっているか気になるものがあった。

そんななか、これは別口だが、『壁の向こうの住人たち ー アメリカの右派を覆う怒りと嘆き』(A.R. ホックシールド、布施由紀子訳、岩波書店、2018)という本があることを知って読み始めた。

UCバークレーの教授でリベラル派の社会学者が、南部の右派の人たちの感情と対話の可能性を探った本だ。基本的に社会学の専門書であるが、一般人が読んでも十分に面白いのは、「参与観察」の手法で現地の社会でフィールドワークを行い、南部に生きる人たちのナマの声を拾い上げているからだろう。

原題は、Strangers in Their Own Land: Anger and Mourning on the American Right, 2016 日本語に直訳すれば、『自分たちの土地の住む異邦人』となる。リベラル派からみたら、「異邦人」以外の何者でもないのが、ディープサウスの住民たちだ。



(参考)
Strangers in Their Own Land: Anger and Mourning on the American Right is a 2016 book by sociologist Arlie Russell Hochschild. The book sets out to explain the worldview of supporters of the Tea Party Movement in Louisiana.


■コアな共和党支持層であるディープサウスに生きる人びと

ホックシールド氏がフィールドワークの対象に選んだ地域は、メキシコ湾に面したルイジアナ州である。

この本を読んでいると、2005年以前に書かれたバーダマン氏の著作が、いい意味でも悪い意味でもノスタルジーの産物であることを、いやというほど思い知らされることになる。アウトサイダーでかつインサイダーという社会学者(あるいは人類学者)のホックシールド氏の視点が存分に発揮されているからだ。


ディープサウス(=深南部)は、もともと社会においてキリスト教の信仰が大きな意味をもつ地帯だが、フランス系住民が多数を占めるルイジアナ州もまた例外ではない。フランス系であっても、カトリックだけではない。福音派のプロテスタントも多いのである。

本書を読んでいると、トランプ現象はあくまでも「結果」であって「原因」ではないことがよくわかる。支持者たちの「感情」をすくい上げたからこそ、熱狂的なトランプ旋風が吹き荒れたのだ。著者は、社会学者デュルケムの古典的著作『宗教生活の基本形態』を援用して、そのありさまを描いている。


■「アイデンティティ・ポリティクス」化するアメリカ南部の「白人中高年層」

アメリカ南部の「白人中高年層」が、草の根保守の運動である「ティーパーティー運動」の担い手になったのはなぜか、その問いが出発点にある。

アメリカ南部の「白人中高年層」は、ある意味では「アイデンティティ・ポリティクス」化しているのである。「白人」でかつ「中高年層」というアイデンティティ。

まじめに地道に生きてきたのに、なぜ自分たちの親の世代を超える「アメリカン・ドリーム」とは無縁になってしまったのか。

1860年代の「南北戦争」で敗者となり、しかも1960年代の公民権運動や対抗文化運動(カウンターカルチャー)のなか、黒人や女性、LGBTのように自分たちの権利を声高に主張することが、はばかられるようになってしまった「白人中高年層」自分たちは、割を食っていると思っているという声に出せない感情。

そんな「感情」が生まれるのは、いったなぜなのか?

著者のホックシールド氏は、人間のもつ「感情」に着目する。「感情の社会学」ともいうべき分野を開拓した現代アメリカを代表する社会学者の一人である。


■ルイジアナ州の「いま」-高度成長期の日本の地方都市と似ている

南部ルイジアナ州は、バーダマン氏の著作では「古き良き南部」が現在に生き続ける土地として、ノスタルジーの対象として描かれている。サザン・ホスピタリティ、美しい自然環境の恵みである海産物をふんだんにつかったケイジャン料理。

だが、現在のルイジアナ州は、所得水準では下から2番目の低さである。そんな環境だからこそというべきか、メキシコ湾の原油掘削基地であることから始まって、石油化学産業の一代集積地帯にもなった。この産業化の流れは、第2次世界大戦後に急速に進展した。

ノスタルジーの世界は、いまや過去の世界のことなのだ。英語版のカバーにうっすら描かれているのが、石油化学産業のコンビナート群である。現実世界に生きる人は、観光産業とは違う。ノスタルジーの世界に浸って生きているわけではない。

石油産業と石油化学産業の集積には、功罪の両面がある。

現地で雇用を創出してきたが、一方では深刻な環境汚染を引き起こしている。ミシシッピ川河口の沼地には有毒化学物質を含んだ汚染水が垂れ流しとなり、自然環境が破壊されて漁業に大きなダメージがもたらされただけでなく、地盤の陥没が発生、住環境にも大きな問題が生まれている。

読んでいると、まるで高度成長期の日本とそっくりではないかと思ってしまう。水俣病もそうだし、イタイイタイ病など、日本の各地で発生した公害病だ。福島第一原発の事故で汚染された状況も、そのなかに加えるべきだろう。

しかしながら、住民たちは環境汚染問題には目をつぶる。現実社会での問題解決に向かわずに、キリスト教への深い信仰に救いを求め、ラプチャー(携挙)を希求する福音派の信者たち。

連邦政府による対策は、過剰な介入であるとして拒否する。環境問題に関心がないわけではないのだが、環境よりも経済を最優先する。自分たちが豊かでなくても、自由主義経済を指示し、小さな政府を志向する。

こういうマインドは、東西両岸のリベラル派から見たら理解不能のようだ。「見えない壁」がつくられ、「分断」が解消不能なものとされ、対話が不能となっている。マスコミの主流であるリベラル派からみたら、おなじ国に住みながら「異邦人」となっているのである。
 
ある意味では、アタマでっかちのリベラル派に対して、自分たちの感情と価値観を重視する人たちなのであろう。この点は、じつは日本もまたおなじである。もしかすると、世界中どこでも似たような状況があるのかもしれない。


■「Cool Head, But Warm Heart」で対話を続けることが大事

本書は、リベラル派の社会学者がフィールドワークで描き出した南部の右派の「感情」と、対話の可能性を探った内容の本だ。
  
社会学者としての視点と、人間としての共感、この2つがあわさって対話が可能であることが示されている。言い換えれば、分析的知性と感情である。

19世紀英国の経済学者アルフレッド・マーシャルの有名なことがある。「Cool Head, But Warm Heart」というものだ。経済学者は、冷静な分析的知性と、暖かい共感の心を持ち合わせなくてはいけないと説いたものだ。

このフレーズは、経済学者以外にもあてはまることを著者は示している。もちろん、学者や研究者などの専門家だけではない、誰もがこのマインドセットを持ち合わせたら、対話は十分の可能なのである。

たとえ、自分とは意見を異にしても、対話の扉を閉ざしてはいけない。


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目 次 
まえがき
第1部 大きなパラドックス
 第1章 心に向かう旅
 第2章 「いいことがひとつ」
 第3章 忘れない人々
 第4章 候補者たち
 第5章 「抵抗する可能性が最も低い住民特性」
第2部 社会的地勢
 第6章 産業ー「米国エネルギーベルトのバックル」
 第7章 州ー地下1200メートルの市場を支配する
 第8章 説教壇とメディアー「その話題は出てこない」
第3部 ディープストーリーを生きる
 第9章 ディープストーリー
 第10章 チームプレイヤ- ー忠誠第一
 第11章 信奉者-黙ってあきらめる
 第12章 カウボーイー平然と受けとめる
 第13章 反乱ー主張しはじめたチームプレイヤー
第4部 ありのままに
 第14章 歴史の試練ー1860年代と1960年代
 第15章 もはや異邦人ではないー約束の力
 第16章 「美しい木があるという」
謝辞
付記A 調査方法について
付記B 政治と環境汚染ーTOXMAPからわかったこと
付記C 右派の共通認識を検証する
訳者あとがき
参考文献/原注


著者プロフィール
A.R. ホックシールド(Hochschild, Arlie Russell)
1940年、米国ボストン生まれの社会学者。カリフォルニア大学バークレー校名誉教授。フェミニスト社会学の第一人者として、過去30年にわたり、ジェンダー、家庭生活、ケア労働をめぐる諸問題にさまざまな角度から光をあてて、多くの研究者に影響を与えてきた。早くから感情の社会性に着目し、1983年には本国で著書『管理する心』(世界思想社)を発表、感情社会学という新しい研究分野を切り開いた。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものに加筆修正)

Hochschild seeks to make visible the underlying role of emotion and the work of managing emotion, the paid form of which she calls "emotional labor." For her, "the expression and management of emotion are social processes. What people feel and express depend on societal norms, one's social category and position, and cultural factors." https://en.wikipedia.org/wiki/Arlie_Russell_Hochschild


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(2024年3月21日 情報追加)


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