「アメリカ南部」関連の本をまとめて読んだ。あらためて南部テネシー州出身のエルヴィス・プレスリーについて、幅広いコンテクストで考えてみたいと思ったからだ。
ジェームズ・M・バーダマンという人がいる。早稲田大学で教鞭をとられていたようだが、南部のなかでも「深南部」とよばれる「ディープサウス」のテネシー州に生まれ育った人だ。
名字のつづりは Vadaman だから、ほんとうはヴァーダマンとすべきなのだろう。だが、本人がバーダマンで通しているので、この表記に従うことにする。
その人の本を5冊まとめて読んだ。 読んだ順番では以下のようになる。
●『ふたつのアメリカ史ー南部から見た真実のアメリカ 改訂版』(ジェームズ・M・バーダマン、東京書籍、2003)
●『アメリカ南部ー大国の内なる異境』(ジェームズ・M・バーダマン、森本豊富訳、講談社現代新書、1995)
●『ロックを生んだアメリカ南部ールーツ・ミュージックの文化的背景』(ジェームズ・M・バーダマン/村田薫、NHKブックス、2006)
●『ミシシッピ=アメリカを生んだ大河』(ジェームズ・M・バーダマン、井出野浩貴訳、講談社選書メチエ、2005)
●『わが心のディープサウス』(ジェームズ・M・バーダマン=文、スティーブ・ガードナー=写真、森本豊富訳、河出書房新社、2004)
出版された際に購入したものの読んでなかった本や、あらたに取り寄せて読んだ本もある。どうやら、現在ではいずれも品切れのようだ。 すばらしい内容の本ばかりなので(・・ただし、似たテーマなのでそれぞれ重複はある)、残念なことだ。
■南部の視点に立ったオルタナティブ・ヒストリー
このななかから、これはとくにすばらしいという本を2冊ピックアップしておこう。
日本人は、ヤンキー(yankee)とは、北部人のことであることを、しっかりとアタマに刻み込んでおかねばならない。
アメリカで「負け組」となったのは、先住民だけでなく南部もまたそうだったのである。その南部において、さらに苦難の道を強いられたのが黒人であることは言うまでもない。
長きにわたって発展から取り残されてきた南部だが、1929年の「大恐慌」後の「ニューディール政策」がキッカケになって、発展の道を進んでいくことになる。現在では、南部への人口移動も起こっており、ずいぶん状況は変化しつつある。
大東亜戦争によって「敗者」となった日本と、なんだか似ているような気がしないでもない。そんな「敗者」の視点から南部を見る必要もあると思う。
目 次序1 <植民地アメリカ>への道2 ふたつの国家3 南北戦争4 新しい南部5 アメリカの「平等」6 現在の南部・北部7 南部人と北部人註 参考文献 あとがき
■アメリカ音楽の大半は南部から生まれた
もう1冊は、『ロックを生んだアメリカ南部ールーツ・ミュージックの文化的背景』(ジェームズ・M・バーダマン/村田薫、NHKブックス、2006)。この本は共著である。アメリカ音楽文化史といっていい内容の本だ。
R&Bとゴスペルに起源をもつのがロックンロールだ。エルヴィス・プレスリーは、まさに豊穣な黒人音楽の土壌との接点から生まれてきたのである。
シカゴを舞台にしたコメディ映画で音楽映画でもある『ブルーズ・ブラザーズ』(1980年)は、まさにそのコンピレーションといってもいい。シカゴが黒人音楽の一つの中心であることの意味も、わかってくる。
シカゴは、ミシシッピ川の上流域に近い大都市だ。この点にかんしては『ミシシッピ=アメリカを生んだ大河』を読むとよくわかる。20世紀前半の黒人の南部から北部への大移動(=グレート・マイグレーション)は、ミシシッピ川を北上するのルートであった。
このように、アメリカ音楽のルーツが、ほぼディープサウスやアパラチア山脈に集中していることが説得力をもって記述されている。
目 次プロローグ すべてはふたりのキングから生まれた第1章 黒人音楽はエルヴィスの中に焦点を結んだ第2章 ブルースマンの悲痛な叫び ー ミシシッピー・デルタの混淆から第3章 都市をゆりかごに生まれたジャズ ー ニューオリンズの坩堝から第4章 ゴスペル 魂の高揚 ー 信仰と教会、そしてアフリカの匂い第5章 カントリーの故郷はどこか ー オールドアメリカへの郷愁エピローグ 都市という荒野で歌うディラン参考文献一覧 参考CD、DVD選あとがき
わたし自身は、西海岸のカリフォルニア州北部と東海岸のニューヨーク州で暮らしたことはあるが、南部とくにディープサウスは、ニューオーリンズやアトランタなど、旅行や出張などの機会に訪れたに過ぎない。
ちなみに映画『JFK』は、舞台がニューオーリンズであることは先日はじめて知った。 ニューオーリンズは、ハリケーン・カトリーナ(2005年)で壊滅的打撃を受けたことは記憶にあたらしい。どこまで復興したのだろうか・・・。
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PS 2022年のミシシッピ川は、洪水どころか干上がってしまっているらしい。水位が大幅に下がって、沈没船が姿を見せたりしていると報道されている。世界中で水不足が懸念されている事態だが、こんなことは想像もされなかったことだ。(2022年11月13日 記す)
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