本日(2024年3月20日)が発売予定になっている『テクノ・リバタリアン ー 世界を変える唯一の思想』(橘玲、文春新書、2024)を即日読了。面白い内容なので一気読みしてしまった。
米国のシリコンバレーに集まってきた一握りの異人たち、つまり数学やコンピュータの天才たちの思考実験と実践がもたらしてきたもの、そして今後もたらしてくるものについて考察し、解説したものだ。
橘玲氏の書き物はみな「身もふたもないハードファクト」について語っているが、「進化心理学」の知見などをベースに思考を行っているからだろう。
副題にある「世界を変える唯一の思想」とは、「テクノロジーが主導するリバタリアニズム」(technolibertarianism)のことだ。
英語による英米哲学の枠組みのなかにあるこの「リバタリアニズム」という思想は、腐るほど取り上げられている西洋哲学やフランス現代思想と違って、不思議なことに日本ではほとんど黙殺されている。日本人の感性には合わないためだろう。
内容をここで繰り返すつもりはないが、イーロン・マスクとピーター・ティールを「第1世代」とすれば、生成AI の Chat-GPT のサム・アルトマンやイーサリアムのヴィタリック・ブテリンなど「第2世代」との違いが興味深い。
一見して衝撃的で、おどろおどろしい未来像を描いているような印象を与えるタイトルと内容紹介である。だが、テクノロジーがもたらした「(プラットフォームを握った)中央集権的支配と個人の共生」というモデルというか現実は、現在の日本でもすでに日常的に観察される、ほとんど常識的なものだとわたしには思われた。この世界では中間的存在はありえないのだ。
つまり、おのずからなるようになっているのである。もちろん、わたしはその後者の「個人」であるが、それはそれでいいではないか。
合理的にものを考えるわたしは、とくに「テクノリバタリアン」たちをうらやましいとも思わない。かれら成功者には、生存不安による強迫神経症がつきまとっているからだ。光あるところに影がある。
「テクノリバタリアン」たちが描く未来像には、当然のことながらポジとネガがある。幸か不幸か、実践の結果もたらされたものは、かならずしもかれらの夢想どおりにはなっていない。それを良いと思うか残念に思うかは、読者自身に判断がゆだねられる。
結論としては、わたし的にはそれほど違和感のない現実であり、未来像であった。いたずらに恐れるような未来ではない、のではないかな、と。日本人は過剰に恐れていると、著者は思い込んでいるようだ。とはいえ、日本人すべてそうだということもあるまい。
出典となる文献も逐一明記されているので、テクノロジーが導くリバタリアン思想の入門書として、読書案内として、よくできた本だと思う。
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目 次はじめに 世界を数学的に把握する者たちPART0 4つの政治思想を30分で理解するPART1 マスクとティールPART2 クリプト・アナキズムPART3 総督府功利主義PART4 ネクストジェネレーションPARTX 世界の根本法則と人類の未来あとがき 「自由」を恐れ、「合理性」を憎む日本人
著者プロフィール橘 玲(たちばな あきら)1959年生まれ。日本の男性作家。本名は非公開。 早稲田大学第一文学部卒業。元・宝島社の編集者で雑誌『宝島30』2代目編集長。日本経済新聞で連載を持っていた。海外投資を楽しむ会創設メンバーの一人。2006年『永遠の旅行者』が第19回山本周五郎賞候補となる。デビュー作は経済小説の『マネーロンダリング』。投資や経済に関するフィクション・ノンフィクションの両方を手がける。2010年以降は社会批評や人生論の著作も執筆している。(Wikipedia情報による)
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