ことし2025年は「昭和100年」になるという。そして同時に「三島由紀夫生誕100年」でもある。
前回の「大阪万博」こと「EXPO' 70」は、1970年(昭和45年)に開催された。万博終了後の11月に自決した作家の三島由紀夫は、「昭和時代前半」そのものといっていいだろう。
小学2年生のときに親に連れられて「EXPO' 70」を訪れている。新聞一面に載っていた三島由紀夫の自決後の生首のモノクロ写真も見ている。当然のことながら三島由紀夫のなんたるかも知らなかったが、かろうじて同時代に三島体験をしたことになるといっていいかもしれない。
「三島事件」の衝撃の大きさは、およそ文学などとは縁のないわが家にも、最晩年の『春の雪』や『暁の寺』といった、黒塗りの箱入りのハードカバーの単行本があったことからもわかる。おそらく事件後に便乗商法的に増刷され、飛ぶように売れたのだろう。はたして読まれたものかどうか、いまとなってはまったくわからない。
さて、そんな「三島由紀夫生誕100年」でもあることし2025年には、三島由紀夫関連の書籍の出版や再刊があいついでいる。
なかでも、『三島由紀夫対談集 尚武のこころ』が、1970年9月に日本教文社から出版されたオリジナル版に手を入れることなく『三島由紀夫対談集 尚武のこころ 復刻版』(イーストプレス、2025)として出版されたのはありがたい。
この対談集に収録されている村上一郎との対談「尚武の心と憤怒の叙情 文化・ネーション・革命」を読みたかったからだ。
■「石原慎太郎との対談が非常に重要」という三島由紀夫
対談者は、収録順に石原慎太郎、寺山修司、小汀利得(おばま・としえ)、中山正敏、鶴田浩二、高橋和巳、林房雄、堤清二、野坂昭如、村上一郎である。
作家、演劇人、ジャーナリスト、評論家、空手家、俳優、経済人と多士済々である。 三島由紀夫は、全体を俯瞰してこう書いている。
対談の相手方の思想傾向は千差万別であるが、右顧左眄(うこさべん)して物を言ふやうな人が、対談者の中に一人もゐなかつたといふことは、私の倖せでもあり、名誉でもあつたと思ふ。敬意を抱くことのできない人と対談したところで仕方がない。(・・・中略・・・) 今回読み返してみて、非常に重要な対談だと思はれたのは、石原慎太郎氏との対談であつた。旧知の仲といふことにもよるが、相手の懐に飛び込みながら、匕首(あひくち)をひらめかせて、とことんまでお互ひの本質を露呈したこのやうな対談は、私の体験上もきはめて稀である。
その石原慎太郎との対談は、「守るべきものの価値 われわれは何を選択するか」と題されている。
この対談は、『三島由紀夫 石原慎太郎 全対話』(中公文庫、2020)や、ことし復刊された『三島由紀夫の日蝕 完全版』(石原慎太郎、実業之日本社)などにも再録されているが、「天皇」なる存在をめぐって石原慎太郎は三島由紀夫の痛いところを衝いている。
まさに三島由紀夫の述懐どおりである。
同世代の俳優の鶴田浩二との対談では、「「この過ちは繰り返しません」の原爆碑、あれは爆破すべきだよ」など、過激な発言を繰り出した三島に対して、学徒出陣の体験者である鶴田浩二が共感を示している。発言の趣旨には、わたしも心情的には共感する。
その真意については、本文を参照していただきたい。
■一橋大学出身者との対談で始まり東京商大出身者との対談で終わる
石原慎太郎との対談に始まり、村上一郎との対談で締めくくったこの対談集。知的な意味で三島の好敵手であった作家で政治家の石原慎太郎と、心情的な意味での三島の共感者であった歌人で評論家の村上一郎は、奇しくもともに一橋大学の同窓生である。
石原慎太郎は芥川賞受賞の翌年の1956年(昭和31年)卒、村上一郎は東京商科大学時代の1943年(昭和18年)卒で海軍体験がある。村上一郎は、三島由紀夫の自決から7年後に日本刀で頸動脈を斬って自死している。
大東亜戦争をはさんだ戦後派と戦中派の世代差は大きく、文学の志向性もまったく異なるが、卒業生のほとんどがビジネス界に進む社会科学系の大学から生まれた、この右派的で特異な経歴をもつ文学者たちには、ある種の共通性があるように感じるのだ。
それがなんであるか、すぐには言語化できないのはわたしの不勉強のためだが、両者のはるか後輩にあたるわたしには、そう感じてならないものがある。
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