DVDで『オール・ザ・キングズメン』(1949年、米国)という映画をはじめて視聴した。ポピュリスト政治家の誕生とその末路を描いた社会派のヒューマンドラマである。109分。
「オール・ザ・キングズメン」(All The King's Men)とは、「マザーグース」に由来する英語の慣用表現。日本語でいえば「(王様の)取り巻き連中」といったニュアンスでつかわれている。
米国の農村地帯の架空の町が舞台。一握りの政治屋たちによって牛耳られ、政治腐敗が横行する状況に憤った男が、民衆のためにと政治家を志し、なんどか落選の憂き目にあいながらも、民衆の圧倒的支持を得て最終的に州知事に当選するまでが前半。
知事になってからは、公共工事や病院無償化などの公約をつぎつぎと実行、一般民衆の圧倒的支持をベスにした「ポピュリスト政治家」としての本領を発揮する。
だが、州知事選の選挙資金づくりの段階から、すでにカネにまつわる黒い噂が流れていただけでなく、知事になってからは贅沢な暮らしで愛人もつくり、反対派を暴力的に抹殺したり、親衛隊めいたものをつくったりして世論誘導を行っていたのだ。
ところが、そんな真相が見えていない民衆は、公約を実行する知事を圧倒的に支持するのである。
とどまることのない男の政治的野望は、最終的に大統領を目指すのだが・・・
デモクラシーの暗部を描き、ポピュリズム政治の功罪について正面から取り上げた内容である。
■「アメリカン・デモクラシー」を日本に植え付けたかったGHQは日本公開を阻止 ?
見ていて思ったのは、ヒトラーが政権をとった1930年代のドイツの状況とよく似ているなということだ。
そしてまた、デモクラシーである以上、しょせんアメリカも日本とたいして変わらないではないか。そんな感想も抱いた。 ポピュリズムの功罪とデモクラシーの暗部を描いているからだ。
「マッカーシー旋風」という「赤狩り」が米国で本格化する前の1949年に製作され公開されたハリウッド映画だが、日本では公開されなかったらしい。第22回アカデミー賞で、作品賞・主演男優賞・助演女優賞の3部門しているにもかかわらず。
1949年(昭和24年)当時は、いまだ占領下にあり、「アメリカン・デモクラシー」を日本に植え付けたかったGHQの意向が働いたのであろう。 検閲したうえで公開を許可しなかったと考えられている。検閲の対象となたのは日本映画だけではないのだ。
日本で初公開されたのは、1976年になってからだったらしい。ちょうどロッキード疑惑で汚職事件が話題になっていた頃である。 しょせんアメリカも日本とたいして変わらないではないかという感想をもった観客も少なくなかったようだ。
■ポピュリズムとポピュリスト政治家の功罪両面をよく理解することが大事
わたし自身は、ポピュリズムじたいは悪しきものだとは考えていない。
有権者の声に耳を傾け、民意を吸い上げてそれを政策として実行することこそ、政治家の本来的な役目だと考えているからだ。したがって、いわゆる「有識者」がいうように、ポピュリズムはけっして大衆迎合ではない。
とはいえ、ポピュリズム政治の裏側にまで目を光らせないといけないのである。
「絶対権力は絶対に腐敗する」という名言があるではないか。政治家の野望が、悪しき方向に向かわないように制御するのは、有権者の役目である。
(2006年にはショーン・ペン主演でリメイク版が製作)
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