美術展「密やかな美 小村雪岱のすべて」(千葉市美術館)に行ってきた(2026年5月19日)。
文学書の装幀や新聞連載小説の挿絵などを中心に活躍し日本画家の業績を集大成した企画展である。
じつはこの美術展の存在を知るまで、小村雪岱(こむろ・せったい)のことはまったく知らなかった。
試みに wikipedia で調べてみると、以下のように要約されている。
小村 雪岱(こむら せったい、明治20年(1887年)3月22日 - 昭和15年(1940年)10月17日[1])は、大正から昭和初期の日本画家、版画家、挿絵画家、装幀家。
「大正から昭和初期の日本画家、版画家、挿絵画家、装幀家。」である、と。Wikipediaには英語版はなく、フランス語版とドイツ語版だけがあり、そのいずれでも作品が画像として紹介されている。フランスやドイツでは、その繊細な美が評価されているのだろうか。
東京美術学校では下村観山教室で学んだという。もともと日本画家を志していた人であったのだ。
だが、かれを有名にしたのは、泉鏡花の『日本橋』の装幀を担当してからである。
岩波文庫版の鏡花の『日本橋』は、改版にあたってカバーに初版の際の小村雪岱による装画が掲載されている。
日本橋川に面して倉庫が並んだ日本橋の風景は、この地に少年時代に移り住んだ小村雪岱ならではの作品といえるだろう。
『日本橋』の装幀がたいへん気に入ってもらい、泉鏡花のその後の作品の装幀も手がけることになったという。そんな泉鏡花の単行本が展示されている。泉鏡花との関係はその後も長く続いたらしい。
この美術展の会場を歩いて見てまわると、「密やかな日本美」というタイトルが、いかに的確であることか実感する。
書籍の装幀や、雑誌の表紙画でも活躍し、資生堂でも初期の企業文化誌「花椿」のデザインも担当していたとのことだ。
誠実で丁寧な仕事ぶりが評価され、名だたる作家たちから信頼されて依頼が殺到、大衆作家たちの新聞連載小説の挿絵も担当、歌舞伎の舞台装置と、デザイン関連の仕事が中心になっていく。
厳しい制約条件のもとでの仕事が性に合っていたのかもしれないが、そのために日本画を描く時間がなかったのは、本人にとっては残念なことだったかもしれない。
雪岱の出身校である東京美術学校は岡倉天心がつくった学校だが、おなじく天心が創設にかかわった日本の古美術雑誌『國華』に掲載する画像の下絵の制作に、雪岱はかかわっている。このことに見られるように、雪岱は本格的な日本画の技能の持ち主だったのである。
(「鳥辺山」 紙本着色 1931年 *撮影可能)
新聞の連載小説の挿絵は、連載が終了し単行本化されたときには使われないことが多い。このため挿絵を担当した画業が忘却の彼方に消えてしまうことも少なくない。
今回の展示では、連載小説に掲載されるまえの原画だけでなく、挿絵として掲載されたオリジナルの新聞紙面そのものも展示されている。
連載小説が掲載されている黄ばんだ紙面がそのままガラスケース越しに展示されているが、小村雪岱の小さくて洗練された挿絵を探すのに苦労してしまう。
というのも、紙面に登場する奇妙キテレツ(!)な広告の数々が、妙に強烈な印象をもたらすので、どうしても目がそっちに行ってしまうからだ。
ウェブメディアの無料記事に氾濫するポップアップ広告のように、雑然としていて落ち着いて記事を読む環境にはない。そんな紙面の状況を考えると、連載小説がよほど面白くなければ、そして挿絵が味わい深いものでなければ、ならなかったのだろう。制約条件は媒体としての性格も加わって重層化する。
先にも触れたように、連載小説の挿絵やデザイン関係の仕事を多く抱えていたため、本来の日本画家としての作品は少ない。
大東亜戦争の突入する前の1940年(昭和15年)、54歳で亡くなった小村雪岱の作品が散逸してしまうのを恐れて、画家や作家の友人たちが版画として世に出すことにしたのだという。展示スペースの最後には、死後の作品も展示されている。誠実な人柄がにじみでているではないか。
(没後に版画として世に出た「おせん」 *撮影可能)
少年時代に絵の修行のために日本橋に移り住んだ小村雪岱だが、生まれは埼玉県の川越市だという。そのためだろう、今回の美術展は埼玉県立近代美術館の所蔵品が多い。
千葉市美術館での美術展だが、先に大阪でも開催された巡回展である。どちらかといって関東テイストの作品のような気がするが、関西ではどんな評価を受けたのだろうか?
(画像をクリック!)
◆美術展「密やかな美 小村雪岱のすべて」(4/11~6/7)
会期:2026年4月11日〜6月7日(前期:4月11日〜5月6日、後期:5月8日〜6月7日)
会場:千葉市美術館
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