スティーブ・ジョブズが熱心なコレクターとして日本の版画を収集しているということを知ったのは、NHKで制作され2023年に放送された「日本に憧れ 日本に学ぶ~スティーブ・ジョブズ ものづくりの原点」という番組だった。
ジョブズといえば、ソニー創業者の盛田さんを尊敬し、禅仏教に傾倒していたことなど日本びいきであったことが知られているが、それ以外にも日本がらみの趣味があったのだ。
それが「新版画」であり、日本の焼き物(陶器)である。そもそ「新版画」というカテゴリーじたい、この番組を見るまでまったく知らなかったのだ。橋口五葉のファンはジョブズだけでなく、わたし自身がそうであったにもかかわらず・・・
番組の概要をNHKのサイトから引用しておこう。
アップルの創業者スティーブ・ジョブズ。社運をかけて開発したマッキントッシュコンピューターの発表会で使ったのは「新版画」という日本の木版画だった。彼は信楽焼など日本の陶器の熱心な愛好家でもあり、ソニーに心酔していた。日本の新版画や陶器、そしてソニーの経営哲学はアップルの製品づくりにどう影響していったのか。盟友だった元CEOのジョン・スカリー氏らのインタビューから明らかにしていく。
この番組は、NHKの取材記者による定年までの8年間にわたる執念のたまものである。
取材のきっかけや番組として結晶するまでの経緯と、映像作品としての番組に結晶した知られざるジョブズと日本との密接なかかわりと手探りの取材の経緯が記者本人によって書籍化されていたことを最近知った。
日本橋のデパートで開催された川瀬巴水の企画展を見に行った著者が、水戸支局に勤務して際に川瀬巴水が茨城と大きくかかわっていたこと。NHKの「日曜美術館」のアンコール放送で言及されたジョブズと川瀬巴水のかかわりを知り、1984年に行われたアップルコンピュータのマッキントッシュデモに使用されたモニターに映っていた橋口五葉の「髪梳ける女」(かみすけるおんな)から始まった疑問と違和感・・
そんな小さなキッカケから始まった取材が、アップル追放前の「ジョブズ1.0」の伝記にもなっている。「ジョブズ1.0」とは、アップルにおけるジョブズの原点のことである。
そのときの「盟友」がジョン・スカリー氏であった。ジョブズとスカリーは犬猿の仲になったと思い込んでいたのだが、スカリー氏はそうは思っていなかったというのも驚きである。
番組を視聴してからすでに3年、この本を読み、あらためて知ることになったのが、ジョブズが禅仏教に出会う前から日本文化に深く傾倒し、きわめて大きな影響を受けていただけでなく、その原点が中学生時代の親友宅で見ていた川瀬巴水の「新版画」にあったことを確認した。
美術品としての評価だけでなく、「新版画」におけるイノベーションの意味についても。
そしてその「新版画」は、親友の母親がその父、つまり親友の祖父から受け継いだものであり、祖父は1930年代にシカゴで入手しコレクションしたものだったという。
1905年の日露戦争前後がそのブームの頂点であった「アメリカのジャポニズム」が終焉したあとも、1930年代には「新版画」が米国でブームになっていたという事実。その背景には、新版画は積極的に海外市場を意識して打って出たという側面があったようだ。
日本人にとっては当たり前すぎて、ふだんは深く考えることもない「日本的美意識」であるが、その意味を認識の対象として再確認させてくれた恩人として「新版画」と「日本の焼き物」の熱心なコレクターであったアメリカ人スティーブ・ジョブズの名前は深く記憶されるべきであろう。
目 次はじめにまえがき第1章 「新版画」とジョブズ第2章 銀座の画廊との20年第3章 フェルナンデス親子との縁第4章 ジョブズ in 京都第5章 アルバカーキまで、必ず連れて行くからな!第6章 ジョブズの壺第7章 「角を丸くしてくれないか」第8章 スティーブ・ジョブズ1.0第9章 取材の天王山第10章 旅のフィナーレへ第11章 「NHK取材ノート」のことなど第12章 取材は続くあとがきスティーブ・ジョブズと日本スティーブ・ジョブズが購入した新版画48点スティーブ・ジョブズの京都での主な訪問先「スティーブ・ジョブズ1.0の真実」取材記録番組・制作スタッフウェブ記事主な参考文献
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