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2009年10月3日土曜日

書評 『731-石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く-』(青木冨貴子、新潮文庫、2008 単行本初版 2005)-米ソ両大国も絡まった "知られざる激しい情報戦" を解読するノンフィクション




細菌戦研究という、当時の最先端軍事機密の争奪をめぐる、米ソ両大国も絡まった"知られざる激しい情報戦"の解読

 大日本帝国陸軍 ・関東軍防疫給水部本部、通称731部隊、いわゆる"石井部隊"を率いた石井四郎陸軍軍医中将による、植民地満洲における細菌戦研究という、その当時は最先端であった軍事機密をめぐる、米ソという超大国も絡まった激しい情報戦の記録を解読したノンフィクションである。

 オリジナルの単行本にはなかった文庫版の副題が、「石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く」として追加されているが、この副題はあくまでもキャッチ目的であり、本書の主目的からは焦点が外れていることに注意しておきたい。本書を手に取った読者がガッカリしないように、あらかじめ記しておく。
 
 石井四郎という人物の人間形成と細菌戦研究にいたる道筋、それに細菌兵器の量産が行われた満洲での実態、これが第一部の内容だが、貴重な証言者にめぐりあった著者の幸運についてはさておき、この面にかんする叙述にかんしては類書が多く出ているので、そちらをあたるべきだろう。

 とくに常石敬一教授の一連の著作、たとえば『七三一部隊-生物兵器犯罪の真実-』(講談社現代新書、1995)などを参照するのが、細菌戦研究の全容を知るためには近道である。

 むしろ第二部、第三部で描かれる、日本占領の中核となった、マッカーサー元帥率いる米国陸軍の、軍隊組織としての本能から、最先端の細菌戦情報を独占し、隠匿しきったという、この事実を明るみに出したことこそが、本書の真骨頂であるというべきである。

 本書によればマッカーサーは日本に到着するなり、「ジェネラル・イシイを探せ」という指令を出したという。そして、ウィロビー大佐率いる米国陸軍参謀第二部(G2)の働きによって、石井四郎は細菌戦情報と引き換えに「東京裁判」という占領軍による戦犯裁判からは免責となり、いわば司法取引の形で、戦後もしばらく生き延びることとなった。まさに驚くべき執念でもって、マッカーサーは細菌戦情報を独占することに成功したのである。

 むきだしの国益を追求するためには、手段を選ばぬという米国という国家の本質がここにあらわになっている。そしてまた同時に、「東京裁判」がいかに恣意的なものであったかという事実を、裏面から垣間見ることにもなる。
 
 米国の情報公開法によって、請求すれば日本占領当時のドキュメントを入手することができるのだが、真相は後世の人間が多数の証言やドキュメントを再構成しない限り明らかになることはない。

 米国ニューヨーク在住の著者による、日米にわたる足で稼いだ情報収集と新発見の石井四郎が記したノートの解読の結果、当時の最先端の軍事機密であった細菌戦情報をめぐっての、米国陸軍とソ連陸軍とのあいだの激しい争奪戦、ワシントンの米国政府をあざむいてまでの米国陸軍の執念、国務省と陸軍のあいだに展開された激しい攻防、こういった情報戦(インテリジェンス・ウォー)の事実が明るみになってきた。

 第二部、第三部と読んでいくと、第一部の内容が霞んで行ってしまうのは仕方あるまい。マッカーサーと同様に、現役時代は自己顕示欲のかたまりのようであった石井四郎の晩年が、戦犯裁判から免れて生きのびたとはいえ、しがない小市民として終わったこともその印象を強めているのかもしれない。あざとくも戦後日本を生き切った石井部隊関係者はほかに多数もいるが、これはまた別のテーマとなる。

 1948年(昭和23年)東京生まれの著者の問題意識は、自分が生まれ育った占領時代の6年8ヶ月の間に、「・・・われわれ日本人の知らないところで、占領軍は何を計画し、どう活動して、何を成し遂げたのか、闇のように閉ざされたあの時代に起こった事実を知りたいと思ってきた・・・」(単行本あとがき)ことにある。そこで出会った格好のテーマこそが、石井四郎と米国陸軍との闇取引、いわゆる「9ヵ条の密約」だったのである。

 「・・・細菌戦という「禁断の兵器」に取り憑かれた野心ばかり大きい軍医は、満洲に足がかりを掴んだ関東軍の破竹の勢いとともに時流に乗った。肥大化した野心、満洲という占領地、そして戦争へ突き進んでいく時代の異常さという要素がなかったなら、「禁断の兵器」がこれほど旧帝国陸軍を動かすこともなかった」(第11章より引用)という著者のコトバには十分に納得させられる。

 そしてまた私が思うのは、細菌戦の最先端情報を入手した米国陸軍は、ドイツ占領後、ドイツの科学者たちを連れて行き原爆開発に当たらせたソ連と同様の存在であったといわねばなるまい、ということだ。これらは軍隊組織にビルトインされた行動原理といえるかもしれない。

 しかし、関東軍参謀長も歴任した東條英機陸軍大将は細菌戦には反対だった、という事実は付記しておくべきだろう。けっして、当時の日本が国家ぐるみで倫理を逸脱し、細菌戦研究に邁進したわけでない

 とはいえ、石井四郎のような「空気」を作り出す者によって、組織内にいったん流れができあがってしまうと、どこまでも暴走して流されてしまうという恐ろしい力学が、陸軍という組織においても働いていたことは否定できないのだ。

 本書は、そういったいろんな観点から、事例研究として読むに値する本である。


■bk1書評「細菌戦研究という、当時の最先端軍事機密の争奪をめぐる、米ソ両大国も絡まった"知られざる激しい情報戦"の解読」投稿掲載(2009年9月30日)






<書評への付記>

 推理小説作家の森村誠一による『悪魔の飽食』がセンセーショナルな話題を呼んだのは、すでに30年以上も前の事であるが、いわゆる731部隊の真相はまだまだ闇に包まれたままだといっても過言ではない。『悪魔の飽食』自体、すさまじいまでの毀誉褒貶(きよほうへん)にさらされている、いわくつきの本である。

 本書をあえて取り上げた理由は、8月のブログで『アメリカに問う大東亜戦争の責任』の書評でも触れているが、米国による日本占領中の闇については、松本清張ならずとも非常に気にかかっていることが多いためである。731部隊がらみのミドリ十字による血液製剤事件も、その起源は米国による日本占領にあることは、当然のことながら本書でも触れられている。

 本来なら、中国大陸における細菌戦(いわゆる生物兵器、BW:Biological Warfare の一つ)の非人道性について記述するべきなのであろうが、私が読む限りでは著者自身の関心と、私自身の関心がシンクロしたのが、主に米国による「日本改造計画」のほうが大きかったので、上記に掲載した内容の書評となったわけである。この点においては、青木氏は大きな仕事をしていただいたものと考えている。

 本書の初版が出た頃は、米国では9-11テロののち、炭疽菌騒ぎがエスカレートした頃であった。米国自体が、細菌戦という、見えざる敵のの見えざる兵器に翻弄されたのは、因果は巡るというべきなのであろうか。

 本書のテーマを延長していくと、故サッダーム・フセイン大統領によるイラク北部クルド人居住地器への化学兵器による攻撃だけでなく、イラク攻撃に踏み切った米国政府内のネオコンがイラク占領後に意図していた、日本改造と同じロジックと同様の内容による「イラク改造」計画のもくろみとその失敗、について考えが及ぶのも自然なことだろう。

 なぜ日本では成功した国家改造はイラクでは失敗したのか、そしてまたアフガニスタンでさらに失敗しようとしているのか。主体性を持って死にもの狂いで米国と戦った日本と米国侵攻当時のイラクとの違い、さらには民族性(・・イラクは英国が作った寄せ集め国家である)の違いだけでなく、情報化の急速な進展と米国自体の国力低下、ソフトパワーの低下による米国イメージの大きな凋落も要因の一つであろう。

 米国政府は、いまだに戦争当時の昭和天皇や東條英機首相を独裁者であったと思い込んでいるのかもしれない。大幅な制限付きであったとはいえ、立憲君主制度下の議会制民主主義だったのが、当時の日本の実態なのだが。感覚的には現在のタイとミャンマーの中間くらいだろう。

 実は文庫版ではなく、単行本を読んで書いた書評なので、文庫版で修正がされている箇所があるとしても、それには触れていない可能性もある。

 廃棄処分にする前にせっかく買った単行本だから読んでから売却するかと思って読み出したら、思いのほか内容のある本だったので、書評まで書いてしまった、というのが本当のところである。引越荷物整理のセカンド・スタージが始まる前だったので、時間があったのもその理由の一つだが。
 書評を書くのは、実はかなりエネルギーを要する、またホネの折れる作業なのだ。けっして読んだ本すべてに書評を書いているわけではない。小学生の読書感想文とは違うのだ。

 ところで結局、本書は売却しないことにした。読み進めているうちに、手元に置いておく価値のある本だと思い始めたからだ。

 なお、写真として掲載したのは帯付きの単行本である。文庫版の副題をキャッチ目的だというのは、私の憶測による発言だが、たしかにただ単に「731」だけではわからない人も多かったに違いない。出版社側の都合によるのではないかと思うが、やや読者をミスリードしているのではないか。

 もちろん本も商品である以上、売れてナンボではあるが、著者の思いと出版社側の意向がジャストミートするケースは、そうそう多いわけではなかろう。

 うまいタイトルというのは、本人であれ他人であれ、つけるのは実はなかなか難しい。


               
PS 読みやすくするために改行を増やし、重要な個所は太字ゴチックとしました。また掲載写真を増やしました。ただし、内容にはいっさい改変は加えておりません (2013年8月18日)。



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(2012年7月3日発売の拙著です)









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