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2010年10月19日火曜日

書評 『空港 25時間』(鎌田 慧、講談社文庫、2010 単行本初版 1996)




業務マニュアルではなく、「現場」で働くナマの人間の声で語られた「仕事」=「人生」

 「空港」にかかわるさまざまな仕事を、社会派ルポライターの鎌田慧が聞き書きでまとめた一冊。

 機長2人、パーサー2人、カウンター、貨物の搭載、機内クリーニング、整備士、運航管理者、航空管制官、税関の合計11人からの聞き書きが、本人の語りをうまく活かして収録されている。
 最初から通して読み進めてゆくうちに、この人たちがいるからこそ、飛行機が安全に飛ぶという「当たり前のことが当たり前に」なっていることに、あらためて気がつかされるのである。テレビドラマには出てこない仕事にも十分に目配りしている。

 面白いのは、「空港」にかかわる仕事は航空会社の従業員だけでなく、国家公務員も含まれていることだ。財務省関税局の下部機関に属する税関職員、そして国土交通省に属する航空管制官。この人たちを欠いては、「空港」にかかわる仕事を描いたことにならないのである。

 初版の単行本が出版されたのは1996年、文庫版では現在の仕事内容に合わせて加筆訂正したらしい。取材対象となった航空会社は、どうやら日本航空(JAL)のようだ。仕事内容は14年前も現在も、基本的に変わっていないだろうが、14年前の時点でベテランとなっていた人たちの聞き書きであり、仕事への取り組み姿勢や人生観なども現在とはやや少し距離があるのかもしれないな、という感じももった。

 しかしそうはいっても、それぞれの「現場」で長年仕事をしてきた人たちの話である。「現場」の仕事のディテール、「現場」ならではの独自の視点からでてきたキラリと光る発言、航空自衛隊や米軍もかかわる日本の空をめぐる現状についての何気ない発言など、読んでいて非常に興味深いものがある。 

 私はこの本を、海外渡航のお供として持参し、機内で読みふけったが、もちろん地上で読んでも内容は十分に面白いはずだ。読みながら、いろいろ想像力を働かせてみるのは楽しいシミュレーション体験になるだろう。

 どんな仕事であれ、それぞれの「現場」がある。仕事内容はそれぞれ詳細なマニュアルがあるのだろうが、業務マニュアルではなく、「現場」で働くナマの人間の声で語られた本書は、「仕事」とは何かについて語った「人生」についての本でもある。

 本書は仕事人の苦労と誇り、こういったさまざま側面が語られた味わい深い本である。


<初出情報>

■bk1書評「業務マニュアルではなく、「現場」で働くナマの人間の声で語られた「仕事」=「人生」」投稿掲載(2010年03月22日)





目 次

機長A-9時間の退屈、1秒の恐怖
パーサーA-お客様をハッピーにさせる空飛ぶ職人です
カウンター-「できません」でなく「やってみます」の精神で
貨物の搭載-積み方ひとつにもコツがあります
機内クリーニング-1機当たり20分の勝負
整備士-指先と五感がものをいう
運航管理者-地上からの支援、うまくいって当たり前
機長B-パイロットに求められる体力と柔らかい頭
パーサーB-キャビン・アテンダントにもっとも大切なスマイルと気配り
航空管制官-2分に1機の過密ダイヤをさばく
税関-この仕事、非情一本槍ではダメなのです


著者プロフィール

鎌田 慧(かまた・さとし)

1938年青森県生まれ。早稲田大学文学部卒業。新聞、雑誌記者を経て、フリーとなる。開発・公害・教育・労働など、社会問題を追及する社会派ルポライターの第一人者(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)