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2013年12月18日水曜日

内村鑑三の 『後世への最大遺物』(1894年)は、キリスト教の立場からする「実学」と「実践」の重要性を説いた名講演である


 『後世への最大遺物』は、無教会主義のキリスト者であった内村鑑三(1861~1930)が明治27年(1894年)、33歳のとき、箱根の芦ノ湖の湖畔で行ったキリスト教の夏期学校における講演の記録である。

この講演は説教ではまったくない。はじめからいきなりダジャレを飛ばして笑いを取っているだけでなく、「満場大笑」や「拍手喝采」などの聴衆の反応があちこちにでてくる。難しい漢語表現や英語もでてくるが、ベースは口語体での語り口をそのまま活かした、たいへん読みやすい講演録である。キリスト教の研修会での講演だからといって敬遠しないほうがいい。

講演のタイトルである「後世への最大遺物」とは、「自分の死後、この世に何を遺していくことができるか」を問うたものだ。「遺物」とは有形無形の「遺産」と言い換えてもいいかもしれない。

何か一つ事業を成し遂げて、できるならばわれわれの生まれたるときよりもこの日本を少しなりともよくして逝きたいではありませんか。(P.19) *(以下、引用は岩波文庫2011年新版に基づく)


カネ儲けそのものは悪くない。要はカネの使い方だ

最終的には「教育」が重要だと主張しているが、しかしながら何か一つ事業、そのなかでもカネ儲けが大事だとかましてくるのは、この本を読んだことのない人には意外に響くかもしれない。これはレトリックではない。内村鑑三は、まじめにそう主張しているのだ。

後世へわれわれの遺すもののなかにまず第一番に大切のものがある、何であるかというと金(かね)です。(P.20)

カネ儲けそのものはひとつの天才(genius)である、と。内村鑑三はこの講演のなかでは「金を溜める」という表現をつかっているが、文脈から考えるとこれは「カネ儲け」のことを指しているのは間違いない。「カネをつくって増やす」という意味である。

金(かね)を遺すものを賤(いやし)めるような人はやはり金(かね)のことに賤しい人であります。吝嗇(けち)な人であります。(P.19)
ドウゾ、キリスト信者のなかに金持が起ってもらいたいです、実業家が起ってもらいたいです。(P. 22)

内村鑑三というと、札幌農学校ではすでに去っていたが「少年よ大志を抱け!」のクラーク博士の影響を受けて洗礼を受けたということばかりが強調されているが、農学校という実学の大学で集中的に勉強したのは水産学であり、 『後世への最大遺物』の講演が行われた同じ1894年に日本初の地理学書とうたった『地人論』を出版している。これは日本最初の地理学書とうたっている。つまり実践を旨とする実学志向の人なのである。

(1901年 内村鑑三40歳 wikipedia より)

だから、講演のなかでは、専門技術をつかって実業の世界でカネ儲けすることを考えていたと語っている。ときは明治時代初期、多くの若者が上昇志向に燃えて、成功を夢見た時代であったわけだ。

私は実業教育を受けたものであったから、もちろん金(かね)を遺したかった、億万の富を日本に遺して、日本を救ってやりたいという考えをもっておりました。自分は明治27年になったら、夏期学校の講師に選ばれるという考えは、その時分にはチットもなかったのです(満場大笑) (P.20)

講演の翌年(1895年)、英文で出版した手記 『余は如何にして基督信徒となりし乎』(How I Became a Christian)では、若き日の体験としてカネの亡者が支配するアメリカ社会に幻滅したことが強い口調で語られているが、この講演のなかでは、アメリカ的な慈善(=フィランソロピー)のためにカネを設けるということを美徳として評価もしていることに注目すべきだろう。

私は金(かね)のためにはアメリカ人はたいへん弱い、アメリカ人は金(かね)のためにはだいぶ侵害されたる民(たみ)であるということも知っております。けれどもアメリカ人のなかには金持ちがありまして、彼らが清き目的をもって金(かね)を溜めそれを清きことのために用うるということは、アメリカの今日の盛大をいたした大原因であるということだけは私もわかって帰ってきました。(P. 26)

カネ儲けの話ばかりを抜き出して書いてきたので、それしか語っていないのかといえばそうではない。重要なことは、「カネをつくって溜めるチカラ」と、「カネをつかうチカラ」は区別しなければならないということだ。

金(かね)は後世への最大遺物の一つではござりますけれども、遺(のこ)しようが悪いとずいぶん害をなす。それゆえに金(かね)を溜める力を持った人ばかりではなく、金(かね)を使う力を持った人が出てこなければならない。・・(中略)・・ 金(かね)を遺物としようとする人には、金(かね)を溜める力とまた金(かね)を使う力とがなくてはならぬ。この二つの考えについて十分に決心しない人が金(かね)を溜めるということは、はなはだ危険なことだと思います。(P.29)    

このくだりを読んでいると、『論語と算盤(そろばん)』を説いていた日本資本主義の父と呼ばれた実業家の渋沢栄一を想起する。


(岩波文庫の2011年新版と1976年版。初版は1946年)

内村鑑三はカネ儲けと事業を区別している。前者が商売とすれば、後者はいわゆる実業、すなわち産業資本家のことを指しているようだ。広義の意味では公共事業もふくめた事業である。民間有志が行うものも事業である。

 私が金よりもよい遺物は何であるかと考えてみますと、事業です。事業とは、すなわち金を使うことです。・・(中略)・・ 金持ちと事業家は二つ別物のように見える。商売する人と金(かね)を溜める人とは人物が違うようにみえます。(P.30)

「金(かね)を持っていない者が人の金(かね)を使うて事業をする」(内村鑑三)のが「事業家」であるならば、同志社を建学した新島襄はまさに「事業家」であり、かつ「「教育家」であったという点で、見事に「後世に遺物」を遺したといえるだろう。

「後世への最大遺物」とは、もちろん教育によって人をつくることである。



実学を事業に活かして「後世への最大遺物」とする

併録されている『デンマルク国の話』も、趣旨は『後世への最大遺物』で「後世最大の遺物」とされている「事業」を具体例として詳細に語ったものだ。副題は「信仰と樹木をもって国を救いし話」。1911年(明治44年)の講演である。

ユグノー、すなわちフランスから追放されたプロテスタントの家系に生まれたフランス系デンマーク人ダルガスの事績を顕彰した内容だ。

1864年にドイツのプロイセン王国との戦争に敗れ、豊穣な土地であったシュレシュヴィヒ=ホルシュタン(・・乳牛で有名なホルシュタイン)を失ったデンマーク王国は困窮に陥るが、哲学者キルケゴールのいう「死に至る病」という絶望に陥ることなく、どん底から這い上がって豊かな国として再建された。

その中心となったのがエンリーコ・ムリウス・ダルガスというデンマークの軍人。工兵士官であった彼は専門の土木技術のほか地質学にも植物学にも詳しく、「ヒース協会」を設立してユトランドのヒース地帯の開墾を開墾し、樹木を植えて植林する運動にリーダーシップを発揮したのである。

くわしくは直接本文にあたってほしいが、ダルガスの事業については内村鑑三が紹介して以来、日本では有名だが、事実関係についてはやや疑問があるようだ。

だが、このデンマークの事例においても、内村鑑三はただキリスト教徒としてだけでなく、実学を事業に活かした人物であることを称賛しているように思える。農学校出身者として植林にも多大な関心があったようだ。

内村鑑三がなによりも重視したのは「実学」と「実践」。知識もつかわなければ意味はない。

この二つの講演録はキリスト教や日本思想をという枠組みをいったんはずして、虚心坦懐に読んでみるといいと思う。長く読み継がれてきただけのものがある古典である。



<関連サイト>

本学における学術研究の潮流(北海道大学大学院水産科学研究院)
・・「漁業も亦学問の一つ也」の卒業演説を行い、その後、アワビの発生研究、魚類目録の作成を行った内村鑑三(明治14年卒)など水産志向の人士(札幌農学校時代) 
 魚の養殖の研究をしたかったわたしには響く

後世への最大遺物(内村鑑三、、青空文庫)
「デンマルク国の話-信仰と樹木とをもって国を救いし話-」(内村鑑三、青空文庫)
・・ともにウェブ上で無料で読める。岩波文庫の2011年新版にはくわしい注がついているので、そちらも入手することをすすめる




<ブログ内関連記事>

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書評 『西洋が見えてきた頃(亀井俊介の仕事 3)』(亀井俊介、南雲堂、1988)-幕末の「西洋との出会い」をアメリカからはじめた日本
・・内村鑑三について突っ込んで論じられている

『自助論』(Self Help)の著者サミュエル・スマイルズ生誕200年!(2012年12月23日)-いまから140年前の明治4年(1872年)に『西国立志編』として出版された自己啓発書の大ベストセラー

「説教と笑い」について
キリスト教と笑い

書評 『聖書を読んだサムライたち-もうひとつの幕末維新史-』(守部喜雄、いのちのことば社、2010)-精神のよりどころを求めていた旧武士階級にとってキリスト教は「干天の慈雨」であった

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書評 『西郷隆盛と明治維新』(坂野潤治、講談社現代新書、2013)-「革命家」西郷隆盛の「実像」を求めて描いたオマージュ
・・西郷隆盛といえば「敬天愛人」。この「敬天愛人」の根拠は漢訳聖書にあるらしい。直接の典拠は儒者でキリスト教徒であった中村正直にあるようだ。

「幾たびか辛酸を歴て志始めて堅し」(西郷南洲)
・・「五 或る時「幾歴辛酸志始堅。丈夫玉碎恥甎全。一家遺事人知否。不爲兒孫買美田」との七絶を示されて、若し此の言に違ひなば、西郷は言行反したるとて見限られよと申されける」。
「児孫に美田を買わず」というフレーズもまた、内村鑑三に『代表的日本人』を書かしめた動機の一つであろう

セミナー開催のお知らせ】 「生きるチカラとしての教養」(2013年6月27日)
・・「実学」は極めれば極めるほど、逆説的にリベラルアーツ(教養)教育が必要になってくる


アメリカ資本主義

書評 『超・格差社会アメリカの真実』(小林由美、文春文庫、2009)-アメリカの本質を知りたいという人には、私はこの一冊をイチオシとして推薦したい ・・「富が平準化した時代は、大恐慌後の1930年代から1970年代までの期間だけであり、アメリカ史においては、あくまでも例外なのである。植民地時代から250年間にわたって国土を戦争によって破壊されたことのないアメリカ東部には富が蓄積し、しかも南北戦争の勝利によって富の偏在はさらに加速した。 しかも自分のチカラで「カネ儲けすること」が尊敬される、これは国民的な合意事項である。ベースボールをはじめとするプロスポーツだけでなく、アートの世界でも、ベンチャービジネスでも、実力ある者には豊富な可能性が開かれた、風通しのいい社会としての魅力も失っていない。 日本人の目からみたこの矛楯・・(後略・・」 内村鑑三も感じたことであろう

書評 『アメリカ精神の源-「神のもとにあるこの国」-』(ハロラン芙美子、中公新書、1998)-アメリカ人の精神の内部を探求したフィールドワークの記録
・・「第9章 天使の助け」で著者は、アメリカ人の精神を「三重構造」でみている。この見方はひじょうに興味深い。一番上の層は、誰でも見聞する世俗文化である・・(中略)・・ ところがその世俗文化のすぐ下に、その世俗の欲望を否定し、自己愛をいましめ、この世は「あの世」への過渡にすぎないと繰り返すキリスト教の世界が横たわっている」


キリスト教布教「事業」とビジネス

「信仰と商売の両立」の実践-”建築家” ヴォーリズ
・・日本でのキリスト教布教「事業」の資金つくりのためメンソレータム「事業」商売を成功させたヴォーリズは内村鑑三の主張ときわめて近いことをみずから実践した人であった

グンゼ株式会社の創業者・波多野鶴吉について-キリスト教の理念によって創業したソーシャル・ビジネスがその原点にあった!


デンマーク関連

新装刊の月刊誌「クーリエ・ジャポン COURRiER Japon」 (講談社)2010年7月号を読む-今月号の特集は「アップルが、世界を変える」
・・北欧のライフスタイルに関連してデンマークの話

映画 『偽りなき者』(2012、デンマーク)を 渋谷の Bunkamura ル・シネマ)で見てきた-映画にみるデンマークの「空気」と「世間」

(2014年2月21日、11月30日 情報追加)


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