ことしもまた玉川大学の「第九演奏会」にご招待いただいた。毎年恒例の玉川大学の「第九演奏会」(会場はサントリーホール)である。
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◆曲目: チャイコフスキー/荘厳序曲(1812年)作品 49ことしは、『荘厳序曲(1812年)』。タイトルの「1812年」とはナポレオンのロシア遠征が行われた年である。いまから200年も前のことだ。作曲されたのは1880年。戦いから68年後である。
L.v.ベートーヴェン/交響曲第九番ニ短調「合唱付」作品125
◆指揮:秋山和慶
◆独唱:大倉由紀枝(ソプラノ)、永井和子(メゾ・ソプラノ)、錦織健(テノール)、木村俊光(バリトン)
◆管弦楽:玉川大学管弦楽団
◆合唱:玉川大学芸術学部合唱団
◆日時:2013年12月2日(月)19時開演(開場18時30分)
◆会場:サントリーホール
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クライマックス付近では「ラマルセイエーズ」の調べに乗りながら大砲が使用となっているようだが、さすがにサントリーホールでは大砲を発射することはできない。パンフレットによれば、サンプリング音をパソコンからの出力で代用したとのことだ。日本国内で演奏に大砲を発射できるのは自衛隊の演習場だけだから。
1824年に初演された『第九』が啓蒙思想を反映したものであることは有名だが、フランス啓蒙思想を軍隊のチカラで欧州全域に拡散したのがナポレオンである。ナポレオンのロシア遠征はトルストイの『戦争と平和』に描かれているが、セリフのかなりの部分がフランス語であることが記憶にあるかもしれない。
ナポレオンのロシア遠征はドイツ占領を前提としたものだ。ドイツを通らなければ陸路ではロシアにはいけない。
当時まだ統一されておらず小国分立状態であったドイツにおいて、先進国フランスによる占領は大きなインパクトとなった。これはベートーヴェンでいえば『第九』ではなくむしろ『第三交響楽の英雄(エロイカ)』のテーマである。哲学者ヘーゲルにとってはナポレオンは「馬上の世界精神」とされ、啓蒙主義(Enlightenment)はまさに文字通り「光」(Light)のものであったわけだ。
ロシアにとってはナポレオン遠征軍は戦うべき外敵であった。60万人のフランス軍はロシアで敗走して5千人に減少したという。
ともに後進国であったドイツとロシアとでは、フランスとの距離の近さがその後の歴史を決定していく。ドイツはナポレオン戦争後、約60年でようやく国家統一。しかしその60年後ナチズムの暴威がふるう。ロシアはナポレオン戦争後、1917年には革命によって社会主義国となり、その後スターリンの暴威がふるう。「後進国」ゆえの問題であったといえよう。
クラシック音楽の分野に限定すれば、ドイツとロシアにおいてこそ、深く重い精神性のある音楽がつくられたのは、「後進国」ゆえの苦悩があったからだろう。
そのドイツ音楽、ロシア音楽好きな日本人は、さらにロシアより東方の極東の「後進国」であったが、明治時代以来、西洋音楽は完全に定着し、現在では当たり前のようにきわめて高度な演奏技術を駆使して聴衆を感動させている。
どういう意図で今回の選曲がなされたか知らないが、啓蒙思想と西洋音楽、そして日本というお題でものを考えてみるのも面白い。
(サントリーホール前のカラヤン広場 「光」のアーケード)
『第九』というと、ただちに年末が連想されるが、ことしも玉川大学の『第九』を聴いて、あっという間の一年だったような、早いものだなあという感慨を抱く。
ことしは例年以上に迫力ある「第九」だったのではないかと思った。指揮・演奏・コーラスの三拍子がじつによく融合してパワーをつくりだしていたからだ。指揮者の秋山和慶氏も年齢を感じさせない男性的で雄々しいし、ことしはとくにコーラスの迫力がすごかったように思う。
聴いていてふと思ったのだが、すでにCDで聴いた回数よりも玉川大学の演奏で聴いたほうが多くなっているのかもそれない。
ことし一年を無事に(?)過ごすことができたことを感謝し、そしてまた来年も無事に過ごすことができるよう祈願する次第だ。
それが日本人にとっての『第九』の意義なのであろう。今後も末永くこの慣習は続くことだろう。
<関連サイト>
2013(平成25年度) 玉川大学 第九演奏会(サントリーホール)のご案内 (玉川大学)
Tchaikovsky - 1812 Overture (Full with Cannons) (YouTube動画)
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