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2014年3月29日土曜日

書評 『陰謀史観』(秦 郁彦、新潮新書、2012)-日本近現代史にはびこる「陰謀史観」をプロの歴史家が徹底解剖


「世の陰謀の種はつきまじ・・・」、そうつぶやきたくなるのは私だけではないだろう。

これは、「石川や 浜の真砂は尽きるとも 世に盗人の種は尽きまじ」という狂句をもじったものだ。石川とは石川五右衛門のことである。といっても『ルパン三世』のことではないので念のため(笑)

『陰謀史観』(秦 郁彦、新潮新書、2012)は、明治維新から日露戦争をへて大東亜戦争に至る日本近現代史にはびこる「陰謀史観」をプロの歴史家が徹底的に解剖してみせた本だ。

タイトルをみたら「奇書」の類かという感想をもつかもしれないが、これはむしろ「トンデモ説」撲滅委員会代表が斬るとでもいった内容の本である。筆致はいたって冷静、具体的な「陰謀説」を俎上に乗せて捌いているが、腕前はじつに見事である。

本書は一般向けの新書本だが、方法論は厳密である。なんせ現代史の分野では、内外で「陰謀説」が発生し続けてきた歴史事件を多数扱ってきたプロの歴史家である。しかも大蔵省勤務の経歴をもつ法学部出身者でもある。この本では弁護士ではなく検事の役を務めている。1932年生まれの当年とって82歳であるだけに、さすがに日本現代史の生き証人としても説得力がある。

さて、本書で取り上げられる「陰謀説」は、「田中上奏文」(・・いわゆる田中メモランダム)、張作霖爆殺事件、第二次世界大戦、東京裁判、コミンテルン、CIA、ユダヤ、フリーメーソンといった日本近現代史の定番といった数々である。

とくに読みでがあるのが第3章と第4章。内容は「目次」の小見出しをこの記事のあとに掲載しておいたので、ご覧になっていただきたい。

第3章では、日米開戦の経緯と米国による占領政策がらみの「陰謀説」が検証されるが、日本は「騙された被害者」だという思い込みが、「陰謀説」がはびこる温床になっていることがよく理解できる。

歴史のどの時点に視点を置くかによって、見える景色はがらりと変わってくるのである。第2章で日米関係の歴史を例にとって著者は説明しているが、二国間関係というものは友好と対立をくり返すものであり、「友好」時代に出発点を置くか、「対立」時代に出発点に置くかで「陰謀説」が生まれるかどうかが決まってくるものだ。

「反米主義」というのが、アメリカには何を言っても許されるという「甘えの構造」以外の何物でもないこともよく理解できる。その証拠に、「陰謀説」を主張する評論家の面々は絶対に日本語以外での評論活動を行わない。もし英語で発表したら、徹底的に粉砕されるのは間違いない(笑) つまりは「閉ざされた言語」である日本語世界のなかでのマスターベーションに過ぎないというわけだ。

第4章は、「コミンテルン陰謀説と田母神史観」と題されているが、「田母神史観」とは現役の航空幕僚長時代に物議を醸す論文を発表して、シビリアンコントロールの観点から解任された田母神俊雄(たもがみ・としお)氏が主張する日本近現代史にかんする一連の歴史観のことである。ある種の「歴史修正主義者」(リビジョニスト)といっていいだろう。著者は「田母神史観」について以下記のような評価を行っている。

いずれも以前から流布され、専門家の間ではなじみの話題ではあるが、受け売りが多いとはいえ、諸説をかき集めて一堂に並べたのはユニークな着想といえよう。とかく陰謀論を唱える人士はある特定のテーマだけにのめり込む傾向があり、相互の交流は乏しく体系化ないし集大成を試みる人はいなかった。
はからずも田母神の手法は不十分ながらも体系化への流れを創ったことでインパクトを強め、共鳴者や応援団が一部のメディアを通じ昭和史の「書き換え」を迫る動きへ発展する。(P.150)

「体系化」とは、プロの歴史家らしい冷静な「評価」である。一定の評価を行ったうえで、「陰謀説」の内容検証を行っているので読み応えがある。「陰謀説」の検証をつうじて、シロウトが陥りやすい落とし穴を明らかにする手法は見事であるといえよう。

著者は、「第5章 陰謀史観の決算」で「陰謀説」の見分け方について説明してくれている。小見出しをそのまま引用すれば、陰謀説は以下のような特徴があるとしている。

「因果関係の単純明快すぎる説明」「飛躍するトリック」「結果から逆行して原因を引きだす」「挙証責任の転換」。一言でいってしまえば、「陰謀説」の主張者や応援団は、「無節操と無責任」ということに尽きる。別のい方をすれば、いっけん正しいようにみえるが、非科学的以外の何物でもないということだ。

わたしは、「表現の自由」という立場に立つが、自衛隊を退役しシビリアンとなった田母神氏本人はさておき、彼を手放しで礼賛する「応援団」の知識人たちの姿に、どうしても不思議な印象と違和感をもってしまう。そのほとんどが理系の素養を欠いた人文系の評論家で、一部を除けばプロの歴史家はそのなかにはほとんど含まれていない。検証なき仮説、予断にもとづく思い込みのオンパレード

信じたいという「気持」や「心情」は理解できなくはないが、歴史学の史料批判という方法論からはずれた床屋談義や居酒屋トークにしか思えないのである。酒を飲みながら「トンデモ」について語るのはじつに楽しいが、まともに信じているとしたら、それはもうビリーバー(believer)の領域に踏み込んでいるとしかいいようがないのである。信じたい人はどうぞ信じてください。「信じれば救われる」(新約聖書・使徒行伝)のであるから。

しかしそれにしても、冒頭にもつぶやいたように「叩けども叩けども・・・」ある。まさに「陰謀説」叩きは「もぐら叩き」状態。

わたし自身、大学学部の卒論で「中世フランスにおけるユダヤ人の経済生活」なるタイトルで、「陰謀説の一大地雷原」(笑)であるユダヤ関連をテーマにしたものだから、歴史的事実と妄想としての陰謀説のより分けにはきわめて敏感である。だからこそ、「それにしても・・・」となんどもつぶやきたくなるのだ。

著者が歴史学の厳密な方法論にもとづいて「陰謀説」を叩いても、それで陰謀説がこの世から消えることはない。なぜなら、ビリーバーの耳にはまったく響かないからだ。

思いこみが信仰レベルまで達しているのがビリーバーだが、まさに「釈迦に説法」「馬耳東風」。人間のコトバを聞く耳を持たない馬にたとえるのは馬に失礼だろうが、独自の「世界観」を脳内に構築しているビリーバーには、いったん信じ込んだら最後までといった趣がある。

とにかくこれは面白くてためになる本だ。日本近現代史の素材を「反面教師」として提示している本書を読むことを大いに推奨したい。といっても、ビリーバーには「馬の耳に念仏」であろうが(笑)




目 次

第1章 陰謀史観の誕生-戦前期日本の膨張主義
第2章 日米対立の史的構図(上)
第3章 日米対立スティネットとの史的構図(下)
 食わせてもらった負い目
 占領体制のアメとムチ
 「アメリカ化」の貸借対照
 国内消費用の東京裁判史観
 ウォー・ギルトと「甘えの構造」
第4章 コミンテルン陰謀説と田母神史観-張作霖爆殺からハル・ノートまで
 田母神史観の検討
 張作霖を殺したのはソ連工作員?
 河本の犯行を示す8つの確証
 満洲事変から日中戦争へ
 ルーズベルト陰謀説とは
 トーランドとネイヴ
 スティネットと幻の日本爆撃
 ホワイトとハル・ノート
第5章 陰謀史観の決算
 コミンテルン
 ヒトラーとナチ党
 CIA・MI6対KGB
 ユダヤと反シオニズム
 戦後期のユダヤ禍論
 フリーメーソン
 オカルトへの誘い
 仕掛人対「トリック破り」
 因果関係の単純明快すぎる説明
 飛躍するトリック
 結果から逆行して原因を引きだす
 挙証責任の転換
 無節操と無責任
あとがき

著者プロフィール

秦 郁彦(はた・いくひこ)
1932(昭和7)年、山口県生まれ。現代史家。東京大学法学部卒業。ハーバード大、コロンビア大留学。プリンストン大客員教授、拓殖大教授、千葉大教授、日大教授を歴任。法学博士。1993年度菊池寛賞受賞。『慰安婦と戦場の性』『靖国神社の祭神たち』など著作多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


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(2012年7月3日発売の拙著です)





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