『習近平の敗北-紅い帝国・中国の危機-』(福島香織、ワニブックス、2019)が面白い。 中国問題にさまざまな観点から取材活動を続けているジャーナリストによる近著。これ1冊で中国が抱えている問題を大づかみにできる1冊だ。
「9」のつく年には動乱が起きるとはよく言われることだ。これは中国についても、ひじょうによくあてはまる。
1919年には「五四運動」、1949年に中華人民共和国が建国、1959年には「チベット動乱」でダライ・ラマ14世がインドに亡命、1969年には珍宝島事件(=ダマンスキー島事件)でソ連と軍事衝突、1979年には「中越戦争」でベトナムに実質的な敗北、1989年には「天安門事件」、そして1999年には「法輪功弾圧」の開始・・・。
さて、ことし2019年もまた「9」がつく年だ。はたして中国で動乱が勃発するのか?
まずは「目次」を紹介しておこう。
第1章 中国のミンスキーモーメントに備えよ
第2章 嫌われ習近平に漂う政変のにおい
第3章 動乱の予感
第4章 宗教と異民族が引き起こす分裂
第5章 台湾有事と香港スキャンダル
第6章 軍靴の足音
第7章 人口問題と原発と食糧危機
第8章 米中文明の衝突
第9章 日本の立ち位置を考える
日経ビジネスオンラインの連載はリニューアルのために終わってしまったが、著者の福島氏は現在はJBPressなどで連載を続けている。
内容的には、すでに日経BPのコラム記事で読んでいるものも多々あるが、こうして1冊にまとまった形で読むと、傍若無人に振る舞う超大国・中国(というよりも中国共産党)は、じつは安定とはほど遠い安定であることがよく理解できるのだ。
その不安定な中国共産党の頂点に立つのが習近平。彼については第2章で詳しく取り上げられているが、こんなコンプレックスの塊で、小心者であるが自信過剰でプライドが高い男は、じつに危険だと言わざるを得ない。伝統中国で理想とされてきた、いわゆる大人(たいじん)とはほど遠い人物である。。
安倍首相による中国急接近の背後に、いかなる考えがあるのかわからないが、米中という二大超大国に地政学的に挟まれた存在の日本は、この状況をどうサバイバルしていくのか。 米中戦争を「経済戦争」とのみ捉えていては、事を見誤るのである。中国問題を大づかみに捉えるために、読むことを薦めたい。
著者プロフィール
福島香織(ふくしま・かおり)
ジャーナリスト、中国ウォッチャー、文筆家。1967年、奈良市生まれ。大阪大学文学部卒業後、1991年、産経新聞社に入社。上海復旦大学に業務留学後、香港支局長、中国総局(北京)駐在記者、政治部記者などを経て2009年に退社。以降はフリージャーナリストとして月刊誌、週刊誌に寄稿、ラジオ、テレビでのコメンテーターも務める。 主な著書に『潜入ルポ 中国の女』(文藝春秋)『中国複合汚染の正体』(扶桑社)『中国絶望工場の若者たち』(PHP研究所)『本当は日本が大好きな中国人』(朝日新書)『権力闘争がわかれば中国がわかる』(さくら舎)『孔子を捨てた国』(飛鳥新社)『赤い帝国・中国が滅びる日』(KKベストセラーズ)『「中国の悪夢」を習近平が準備する』(徳間書店)など多数。月刊誌『Hanada』WEBニュース『JBプレス』でも連載中。ウェブマガジン「福島香織の中国趣聞(チャイナ・ゴシップス)」毎週月曜発行。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
<ブログ内関連記事>
■福島香織氏の著書
書評 『中国絶望工場の若者たち-「ポスト女工哀史」世代の夢と現実-』(福島香織、PHP研究所、2013)-「第二代農民工」の実態に迫るルポと考察
書評 『潜入ルポ 中国の女-エイズ売春婦から大富豪まで-』(福島香織、文春文庫、2013 単行本初版 2011)-中国に生きる女たちから中国社会のリアルを知る
■その他の中国関連書籍
書評 『「中国製造2025」の衝撃-習近平はいま何を目論んでいるのか-』(遠藤誉、PHP、2019)-中国共産党が注力しているのが「軍民融合」分野の半導体と宇宙開発だ
書評 『習近平 vs. トランプ-世界を制するのは誰か-』(遠藤誉、飛鳥新社、2017)-「米中ビッグディール」という「密約」に警戒せよ!
書評 『チャイナ・セブン-<紅い皇帝>習近平-』(遠藤誉、朝日新聞出版社、2014)-"第2の毛沢東" 習近平の「最後の戦い」を内在的に理解する
書評 『香港バリケード-若者はなぜ立ち上がったのか-』(遠藤誉、深尾葉子・安冨歩、明石書房、2015)-79日間の「雨傘革命」は東アジア情勢に決定的な影響を及ぼしつづける
書評 『なぜ中国は覇権の妄想をやめられないのか-中華秩序の本質を知れば「歴史の法則」がわかる-』(石平、PHP新書、2015)-首尾一貫した論旨を理路整然と明快に説く
書評 『それでも戦争できない中国-中国共産党が恐れているもの-』(鳥居民、草思社、2013)-中国共産党はとにかく「穏定圧倒一切」。戦争をすれば・・・
書評 『語られざる中国の結末』(宮家邦彦、PHP新書、2013)-実務家出身の論客が考え抜いた悲観論でも希望的観測でもない複眼的な「ものの見方」
(2023年11月25日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2022年12月23日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2022年6月24日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2021年11月19日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2021年10月22日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2020年12月18日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2012年7月3日発売の拙著です 画像をクリック!)
end