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2019年11月24日日曜日

現代中国を考えるために読んだ5冊(2019年11月24日)ー『幸福な監視国家・中国』・『スッキリ中国論』・『習近平のデジタル革命』・『戸籍アパルトヘイト国家・中国の崩壊』・『食いつめものブルース』



週末の土日で中国関連本を5冊読了。いずれも読みたかったが、積ん読状態だったもの。1冊読むと関連する本を読みたくなる。「チェーン・リーディング」というやつですかね。


●『幸福な監視国家・中国』(梶谷懐/高口康太、NHK新書、2019)
●『スッキリ中国論-スジの日本、量の中国』(田中信彦、日経BP社、2018)
●『習近平のデジタル革命-24時間を監視され全人生を支配される中国人の悲劇』(川島博之、講談社+α新書、2018) 
●『戸籍アパルトヘイト国家・中国の崩壊』(川島博之、講談社+α新書、2017)
●『食いつめものブルース-3億人の中国農民工』(山田泰司、日経BP社、2017)


そもそもは、中国においてデジタル監視テクノロジーが急速に進歩し、精緻化する状況について考えるために『幸福な監視国家・中国』を読んでみた。テクノロジーそのものにイデオロギーはないのであり、功利主義的パターナリズムという観点において、先進諸国も変わりはないというということ、ただし、中国の場合は、儒教的支配とネット管理システムの親和性が高いことを確認。

『スッキリ中国論-スジの日本、量の中国』は、ビジネス書。上海を拠点に中国で人材ビジネスを起こっている著者が、長年の経験と観察をもとにまとめた、ある種のビジネス文化論。スジ(=べき論)vs 量(=現実)の対比は、やや類型化しすぎるかなという傾向がなきにしもあらずだが、内容はとても面白い。しかも実践的である。

『習近平のデジタル革命』は、中国共産党の行方についてはネガティブな見解。ただし、著者が強調するように、中国13億人は「都市戸籍」の所有者である4億人が、「農村戸籍」の所有者である9億人を搾取する構造にあるとする、いわば身分が固定化した江戸時代のような社会体制であることが議論の前提にある。そのため、著者の前著である『戸籍アパルトヘイト国家・中国の崩壊』とあわせて読むと、より理解が深まることになる。著者は、開発経済学と環境経済学が専門で理系の人。農業と人口問題の観点から中国を分析し、その他のアジア各国との比較に説得力がある。

「農民工」は、「農村戸籍」の所有者のうち北京や上海、広州などの大都市で働くワーカーのこと。工場労働者だけでなく、建設労働者、さらに低賃金のサービス産業従事者である。『食いつめものブルース-3億人の中国農民工』は、上海をベースに農民工たちとの交流をつうじて、その実態に迫った内容。いわば「下から見た中国」である。おなじ上海をベースにしているといっても、『スッキリ中国論』とは対極的な内容だ。立ち位置が違うだけではない。ビジネス処世術と社会分析との違いといってもいいだろう。

川島博之氏が整理しているように、中国13億人は一体ではない沿海部の「都市戸籍」の4億人と「農村戸籍」9億人(そのうち6億人が農民工)に厳然と区別されている「非民主主義国家」である。この点は、現代の日本人には感覚的に理解不能な点だ。しかも、人口規模がおなじのインドとも根本的に違う。インドにはカースト制が存在するが、世界最大の民主主義国家である。とはいえ、中国が「民主化」したら崩壊してしまう。そういう脆弱性を抱えている。

「都市戸籍」の4億人が支持する限り、中国共産党は安泰だが、はたして現体制はかれらの支持を受け続けることができるか。景気減速が常態化した「新状態」(ニューノーマル)のもと、現在のところネット革命、とくにスマホ革命がもたらした恩恵を享受しているため、国家が個人情報を完全に握っている現状に不平を表明することはあまりないが、さて今後はどうなっていくのだろうか。高度成長時代は、中国においてもすでに終わっているのである。

中国を理解するのは容易ではないが、理解しようとする意志は持ち続けなくてはならないと思う次第。以上、雑感として。













<ブログ内関連記事>

書評 『中国貧困絶望工場-「世界の工場」のカラクリ-』(アレクサンドラ・ハーニー、漆嶋 稔訳、日経BP社、2008)-中国がなぜ「世界の工場」となったか、そして今後どうなっていくかのヒントを得ることができる本

書評 『中国絶望工場の若者たち-「ポスト女工哀史」世代の夢と現実-』(福島香織、PHP研究所、2013)-「第二代農民工」の実態に迫るルポと考察

映画 『苦い銭』(2016年、フランス・香港合作)をイメージフォーラムで見てきた(2018年2月12日)-生きるために飯を食う、そのためにカネを稼ぐのが人生

書評 『蟻族-高学歴ワーキングプアたちの群れ-』(廉 思=編、関根 謙=監訳、 勉誠出版、2010)-「大卒低所得群居集団」たちの「下から目線」による中国現代社会論

書評 『中国台頭の終焉』(津上俊哉、日経プレミアムシリーズ、2013)-中国における企業経営のリアリティを熟知しているエコノミストによるきわめてまっとうな論

書評 『現代中国の産業-勃興する中国企業の強さと脆さ-』(丸山知雄、中公新書、2008)-「オープン・アーキテクチャー」時代に生き残るためには

書評 『三体』(劉慈欣、大森望/光吉さくら/ワン・チャイ訳、立原透耶=監修、早川書房、2019)-このSFはたしかにすごい!


 
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2019年11月9日土曜日

書評 『三体』(劉慈欣、大森望/光吉さくら/ワン・チャイ訳、立原透耶=監修、早川書房、2019)-このSFはたしかにすごい!


「これはすごい!」として、いま日本で評判になっているという『三体』をついに読了。購入してから3ヶ月、昨日から読み始めて、本日は最後のページまで一気読みで読了。

「たしかに、これはすごい!」としかいいようがない作品だ。

異星文明における「地球外知的生命体」との接触というテーマだが、スケール感がぜんぜん違う。地球がその一部である太陽系とは別の、太陽が3つある「三体世界」を舞台の一つにするという構想力。文化大革命時代から始まる中国現代史、天体物理学、ナノテクノロジーなどの科学技術を踏まえた重厚な世界観。いや、宇宙観というべきか。

『三体』(早川書房)は、中国のSF作家・劉慈欣(りゅう・じえん/リウ・ツーシン)氏によるSF大作。2006年に雑誌連載し、2008年に出版された作品だ。三部作の第1作で、2019年7月に出版された日本語訳によれば、中国では三部作合計で2,100万部(!)、英語訳は100万部を越えているとのことだ。英語版は、オバマ前大統領も絶賛という。

スケールが超弩級で、その構想力の大きさに圧倒されるだけではない、「三体世界」を舞台にしたVRゲームのコンテンツも重要な構成要素で、エンターテインメントとしても一気読みさせるものがある。 ディテールの描き込みも精緻で(ただし、天体物理学にかんしては、私には検証しようがないが・・)、しかも人物の描き方に、作家の人生経験が豊富であることが容易に想像される。略歴を見ると、1963年生まれなので、自分とは同世代だ。

こういう超大作が生まれてくる現代中国は、政治状況とは別に、注目しなくてはならないと、あらためて深く感じている次第。現在の日本で、中国SFが注目されているという理由もよくわかる。

途中で挫折している読者も多いと聞いているが、途中から俄然面白くなる作品だと言っておこう。読むに値するSF作品である。

日本語版で400ページ強あるが、これが三部作の第1作だというから、さらに驚きだ。そしてまた、続編を読むのが楽しみだ。








<ブログ内関連記事>

映画 『ブラックパンサー』(2017年、米国)を見てきた(2018年4月1日)-アフリカの架空の国を舞台にしたこのスーパーヒーローものSFアクション娯楽大作映画は、時代の流れを間違えなく変える想像を絶する傑作だ!

映画  『アバター』(AVATAR)は、技術面のアカデミー賞3部門受賞だけでいいのだろうか?

映画 『猿の惑星』の原作は、波乱万丈の前半生を東南アジアで送ったフランスの作家が1963年に発表したSFである


 
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2019年7月1日月曜日

書評『習近平の敗北-紅い帝国・中国の危機』(福島香織、ワニブックス、2019)ー 傍若無人に振る舞う超大国・中国は、安定とはほど遠い存在だ


 『習近平の敗北-紅い帝国・中国の危機-』(福島香織、ワニブックス、2019)が面白い。 中国問題にさまざまな観点から取材活動を続けているジャーナリストによる近著。これ1冊で中国が抱えている問題を大づかみにできる1冊だ。 

「9」のつく年には動乱が起きるとはよく言われることだ。これは中国についても、ひじょうによくあてはまる。

1919年には「五四運動」、1949年に中華人民共和国が建国、1959年には「チベット動乱」でダライ・ラマ14世がインドに亡命、1969年には珍宝島事件(=ダマンスキー島事件)でソ連と軍事衝突、1979年には「中越戦争」でベトナムに実質的な敗北、1989年には「天安門事件」、そして1999年には「法輪功弾圧」の開始・・・。



さて、ことし2019年もまた「9」がつく年だ。はたして中国で動乱が勃発するのか?

まずは「目次」を紹介しておこう。

第1章 中国のミンスキーモーメントに備えよ 
第2章 嫌われ習近平に漂う政変のにおい 
第3章 動乱の予感 
第4章 宗教と異民族が引き起こす分裂
第5章 台湾有事と香港スキャンダル 
第6章  軍靴の足音 
第7章 人口問題と原発と食糧危機 
第8章 米中文明の衝突 
第9章 日本の立ち位置を考える 

日経ビジネスオンラインの連載はリニューアルのために終わってしまったが、著者の福島氏は現在はJBPressなどで連載を続けている。

内容的には、すでに日経BPのコラム記事で読んでいるものも多々あるが、こうして1冊にまとまった形で読むと、傍若無人に振る舞う超大国・中国(というよりも中国共産党)は、じつは安定とはほど遠い安定であることがよく理解できるのだ。

その不安定な中国共産党の頂点に立つのが習近平。彼については第2章で詳しく取り上げられているが、こんなコンプレックスの塊で、小心者であるが自信過剰でプライドが高い男は、じつに危険だと言わざるを得ない。伝統中国で理想とされてきた、いわゆる大人(たいじん)とはほど遠い人物である。。 

安倍首相による中国急接近の背後に、いかなる考えがあるのかわからないが、米中という二大超大国に地政学的に挟まれた存在の日本は、この状況をどうサバイバルしていくのか。 米中戦争を「経済戦争」とのみ捉えていては、事を見誤るのである。中国問題を大づかみに捉えるために、読むことを薦めたい。






著者プロフィール 
福島香織(ふくしま・かおり) 
ジャーナリスト、中国ウォッチャー、文筆家。1967年、奈良市生まれ。大阪大学文学部卒業後、1991年、産経新聞社に入社。上海復旦大学に業務留学後、香港支局長、中国総局(北京)駐在記者、政治部記者などを経て2009年に退社。以降はフリージャーナリストとして月刊誌、週刊誌に寄稿、ラジオ、テレビでのコメンテーターも務める。 主な著書に『潜入ルポ 中国の女』(文藝春秋)『中国複合汚染の正体』(扶桑社)『中国絶望工場の若者たち』(PHP研究所)『本当は日本が大好きな中国人』(朝日新書)『権力闘争がわかれば中国がわかる』(さくら舎)『孔子を捨てた国』(飛鳥新社)『赤い帝国・中国が滅びる日』(KKベストセラーズ)『「中国の悪夢」を習近平が準備する』(徳間書店)など多数。月刊誌『Hanada』WEBニュース『JBプレス』でも連載中。ウェブマガジン「福島香織の中国趣聞(チャイナ・ゴシップス)」毎週月曜発行。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<ブログ内関連記事>

■福島香織氏の著書

書評 『中国絶望工場の若者たち-「ポスト女工哀史」世代の夢と現実-』(福島香織、PHP研究所、2013)-「第二代農民工」の実態に迫るルポと考察

書評 『潜入ルポ 中国の女-エイズ売春婦から大富豪まで-』(福島香織、文春文庫、2013 単行本初版 2011)-中国に生きる女たちから中国社会のリアルを知る


■その他の中国関連書籍

書評 『「中国製造2025」の衝撃-習近平はいま何を目論んでいるのか-』(遠藤誉、PHP、2019)-中国共産党が注力しているのが「軍民融合」分野の半導体と宇宙開発だ

書評 『習近平 vs. トランプ-世界を制するのは誰か-』(遠藤誉、飛鳥新社、2017)-「米中ビッグディール」という「密約」に警戒せよ!

書評 『チャイナ・セブン-<紅い皇帝>習近平-』(遠藤誉、朝日新聞出版社、2014)-"第2の毛沢東" 習近平の「最後の戦い」を内在的に理解する

書評 『香港バリケード-若者はなぜ立ち上がったのか-』(遠藤誉、深尾葉子・安冨歩、明石書房、2015)-79日間の「雨傘革命」は東アジア情勢に決定的な影響を及ぼしつづける

書評 『なぜ中国は覇権の妄想をやめられないのか-中華秩序の本質を知れば「歴史の法則」がわかる-』(石平、PHP新書、2015)-首尾一貫した論旨を理路整然と明快に説く

書評 『それでも戦争できない中国-中国共産党が恐れているもの-』(鳥居民、草思社、2013)-中国共産党はとにかく「穏定圧倒一切」。戦争をすれば・・・

書評 『語られざる中国の結末』(宮家邦彦、PHP新書、2013)-実務家出身の論客が考え抜いた悲観論でも希望的観測でもない複眼的な「ものの見方」


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2018年2月18日日曜日

映画『苦い銭』(2016年、フランス・香港合作)をイメージフォーラムで見てきた(2018年2月12日)― 生きるために飯を食う、そのためにカネを稼ぐのが人生


映画 『苦い銭』(2016年、フランス・香港合作)をシアター・イメージフォーラムで見てきた。オリジナルのタイトルは『苦銭』なので、日本語のニュアンスに近いものがあるのだろう。

浙江省の湖州という町に出稼ぎに来ている中国人たちを描いたドキュメンタリー映画だ。生きるとは飯を食うこと、そのためにカネを稼ぐこと。それに尽きる。といっても出稼ぎの雇われ労働者の労賃は低く、彼らを雇用する零細企業の経営者とて富裕層とはほど遠い。まさに「働けど、働けど・・・」である。

映画の撮影された湖州は杭州のとなり、地理的には上海にも近い。中小零細の繊維産業の集積地帯のようだ。出稼ぎに来る中国人の出身地は遠く離れた雲南省や、それほど遠くはない安徽省、そして黄河の南に位置する河南省などの内陸地域。出稼ぎ先では、血縁だけでなく地縁がものをいう相互扶助の世界でもある。

上映時間は164分と長いが、そのほぼすべてが会話で成り立っている。効果音はなし。テーマ曲もなし。音楽は、零細の縫製工場で働いている際にかけられているBGMのみ。ナチュラルな会話のスピードが早く、日本語字幕がなければまったく理解できない。


『苦い銭』というタイトルから、いわゆる「絶望工場もの」かなと思っていたのだが、全編から悲壮感といったものがまったく漂ってこないのは不思議な感じもした。

生きるとは飯を食うこと、そのためにカネを稼ぐこと。その現実は、中国だろうと、それ以外の世界であろうと、変わりはないためだろうか。生きていくためには、厳しい現実であろうと、事実は事実として受け止めていかなくてはならない。そこにあるのは、逆境であろうと笑い飛ばすしかない精神的な強さだ。

2014年から2016年にかけて撮影されたドキュメンタリー映画だが、人民元の札束というキャッシュが登場する世界だ。ここ数年、急速に電子マネー化が進んでいると言われている中国だが、底辺に近い中小零細工場の世界は、いまだ現金の世界なのだろうか?

中国の現実を描いた映画であり、しかも人生という普遍的なテーマを描いた映画でもある。日本語字幕をとおしての理解に過ぎないが、なんだか異なる世界を描いた映画ではないような印象をもった。





<ブブログ内関連記事>

書評 『中国絶望工場の若者たち-「ポスト女工哀史」世代の夢と現実-』(福島香織、PHP研究所、2013)-「第二代農民工」の実態に迫るルポと考察

書評 『中国貧困絶望工場-「世界の工場」のカラクリ-』(アレクサンドラ・ハーニー、漆嶋 稔訳、日経BP社、2008) 
・・「民工」と「農民工」については、日本語と中国語に堪能な著者による本書を読むべし

書評 『蟻族-高学歴ワーキングプアたちの群れ-』(廉 思=編、関根 謙=監訳、 勉誠出版、2010)-「大卒低所得群居集団」たちの「下から目線」による中国現代社会論




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2015年5月25日月曜日

書評『それでも戦争できない中国 ― 中国共産党が恐れているもの』(鳥居民、草思社、2013)― 中国共産党はとにかく「穏定圧倒一切」。戦争をすれば・・・



『昭和20年』というライフワークを完成させることなく2013年に亡くなった民間史家・鳥居民氏の遺作である。日本・米国そして中国。この日米中の三カ国の絡み合いを独自の視点で探求してきた人の中国関連の著作である。

2013年に出版された本書『それでも戦争できない中国  ―  中国共産党が恐れているもの』は、2007年時点の情報で書かれた遺作なので、その後の推移については触れられていない。

だが、基本的な分析と中華人民共和国=中国共産党の構造は変わらないだけでなく、中国を蝕む汚職と腐敗はさらに進行し、「中共最後の切り札である習近平」をもってしても、完全な解決とはほど遠い状態に近づいている。

だからこそ、崖っぷちに立つ中国に残された唯一のカードが、東シナ海の尖閣や南シナ海における「軍事的挑発」活動なのである。

著者の独自の視点とは、建国以来の中華人民共和国の歴史を振り返り、朝鮮戦争も台湾への攻撃も、「亡党亡国」を恐れた毛沢東による熾烈な権力闘争を隠蔽するための戦いだったと見る点にある。尖閣問題もまたその行動原理があるのだ、と。

だから中国共産党の挑発に乗ってはいけないのである。ケンカも戦争も、先に手を出したほうが国際的な非難を浴びることになる。ルーズヴェルトの挑発に乗せられて、大東亜戦争に突入した日本は、「隠忍自重」を貫かなくてはならないのである。これが歴史に学ぶ賢者の道である。

すさまじい勢いで貧富の格差が拡大し、一人っ子政策をやめても少子高齢化が止まらない中国。これを端的に表現したのが「未富先老」という四文字熟語である。「いまだ富まずして、先に老いゆく」中国。

中国は戦争などできる状態ではないのである。戦争になったら、間違いなく中国共産党は滅びる。中国共産党=中華人民共和国である以上、「亡党亡国」となるのは必定なのである。

習近平による「虎も蠅も叩く」というスローガンのもとに行われている腐敗撲滅運動だが、はたして濡れ手に粟のスーパーリッチ層を全面的に敵に回すことが可能だろうか? それこそ虎の尾を踏むことになるのではないか?

本書には、海外とくに米国への資本逃避についての言及はないが、すでに世界の二大超大国となた中国と米国の経済関係が切り離せないほどに密接となっており、しかも軍事力にかんしてみれば、米国の圧倒的な実力を熟知している中国としては、戦争に踏み切るオプションはないと考えるのが当然というべきだろう。

中国共産党はとにかく「穏定圧倒一切」なのである。安定と現状維持が一切すべてを圧倒するのである。

中国共産党の基本姿勢である「穏定圧倒一切」、中国の現実である「未富先老」。この2つのキーワードをアタマのなかに刻み込んでおけば、中国共産党=中華人民共和国の行動パターンをある程度まで「想定内」のものにできるだろう。

いずれにせよ、挑発に乗ってはいけない。これが「戦後70年」目の日本と日本国民が肝に銘じなくてはならない歴史の知恵である。


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目 次

はじめに
1 「亡党亡国」の恐怖-ソ連はどうして崩壊したのか。中国共産党はそれから何を学んだのか
2 「穏定」こそすべて-中国共産党指導部は戦争を仕掛けるのか。だれがそんなことを考えているのだろう
3 毛沢東の猜疑心-どうして中国は朝鮮戦争に介入したのか。毛沢東の猜疑心が原因だった
4 金門砲撃戦の虚構-「相手が福州、杭州などを攻撃してくれば、まことに面白い」と毛沢東は言った。その真意は
5 総統選とミサイル演習-李登輝を落選させようとしたのではない。かれに戒厳令を布かせ、台湾が民主化するのを阻止しようとしたのだ
6 つぎの統一戦線工作-尖閣諸島を利用して、台湾を「反日・親中」にする。中国が馬英九にやらせること
7 「未富先老」の宿命-「穏定圧倒一切」を変える利益はどこにもない。人口統計学が予測していること
8 百人のスーパーリッチ-第十七回党大会の真の勝者はだれだったのか。圧力団体の登場で、明日の中国は

鋭い論法、深い内容に支えられた文章(中嶋嶺雄)
鳥居民●著作一覧
『産経新聞』「正論」欄の中国時評一覧

著者プロフィール
鳥居民(とりい・たみ)
1928年東京生まれ、横浜で育つ。2013年1月逝去。膨大な資料を渉猟し、徹底した調査、考察をもとに日本および中国近現代史を鋭く洞察した独自の史観を展開。2005年『産経新聞』正論メンバーに加わり、同紙「正論」欄で中国時評等に健筆をふるう。著書に『毛沢東□五つの戦争』『「反日」で生きのびる中国』『横浜山手』『横浜富貴楼□お倉』『日米開戦の謎』『原爆を投下するまで日本を降伏させるな』他。ライフワークとなったシリーズ『昭和二十年』は第1部は13巻まで上梓したが未完に終わる。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものを編集)。



<ブログ内関連記事>

■現代中国

書評 『なぜ中国は覇権の妄想をやめられないのか-中華秩序の本質を知れば「歴史の法則」がわかる-』(石平、PHP新書、2015)-首尾一貫した論旨を理路整然と明快に説く

書評 『語られざる中国の結末』(宮家邦彦、PHP新書、2013)-実務家出身の論客が考え抜いた悲観論でも希望的観測でもない複眼的な「ものの見方」
・・「中国崩壊」をシミュレーションする

書評 『中国外交の大失敗-来るべき「第二ラウンド」に日本は備えよ-』(中西輝政、PHP新書、2015)-日本が東アジア世界で生き残るためには嫌中でも媚中でもない冷徹なリアリズムが必要だ

書評 『習近平-共産中国最弱の帝王-』(矢板明夫、文藝春秋社、2012)-「共産中国最弱の帝王」とは何を意味しているのか?

書評 『中国台頭の終焉』(津上俊哉、日経プレミアムシリーズ、2013)-中国における企業経営のリアリティを熟知しているエコノミストによるきわめてまっとうな論 ・・中西輝政氏もこの本を詳しく取り上げている




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