本日から7月である。会計年度では第2四半期の始まりだが、暦年では下半期の始まりの日にあたる。
7月は英語で July、フランス語では juillet(ジューイエ)、ドイツ語では Juli(ユーリ) である。みな同じ系統のコトバだ。
ついでにその他ヨーロッパ諸国語もみておくと、スペイン語では julio(フリオ)、イタリア語では luglio(ルーリョ)であり、ロシア語すら Июль(イユーリ)とあきらかに同系統であることがわかる。
ラテン語では7月は Iulius(ユーリウス)、8月は Augustus(アウグストゥス)である。
一方、ギリシア語では7月は Εχατομβαιων(ヘカトンバイオーン)、8月はΜεταγειτνιων(メタゲイトニオーン)である。
つまり断層は、ギリシア語とラテン語にあることがわかる。いいかえれば、西洋社会のカレンダーはそもそも古代ギリシアと古代ローマに断層がある。
日本人の常識と違って、西洋文明はラテン語世界の圧倒的支配下にあるのだ。
ラテン語の7月 Iulius は、Gaius Iulius Caesar(ユーリウス・カエサル)、英語読みすれば共和制ローマ末期の軍人政治家であるジュリアス・シーザーからきている。
同じくラテン語の8月は、Augustus、ローマ帝国初代皇帝アウグストゥス、つまりカエサルの養子であったオクタヴィアヌス Gaius Iulius Caesar Octavianus Augustus のことである。
カレンダーのなかに、なぜかユーリウス・カエサルとアウグストゥスいう二人の人物の名前が紛れ込んでしまった。理由はわからないのだが。
中学校の時の英語の教科書にあったが、もともと現在の9月である Sept-ember は7、Octo-ber は8、Nov-emberは9、Dec-ember は10をあらわすことばである。ひととおり英仏独の3カ国語とラテン語の知識があれば、良く理解できる話であるが、ローマではもともと3月から1年が始まっていたらしい。だから、決しておかしくはないようである。
書いていて思い出したが、森鴎外の『ヰタ・セクスアリス』(vita sexualis)に、学生時代、ラテン語の語源を知っていれば、ドイツ語でもなんでも西洋語を覚えるのはたやすい、と主人公がいっているシーンがあった。医学用語はラテン語が多いから当たり前といえば当たり前の話ではある。
私の知り合いに、食品メーカーで人事部から医薬品開発事業部に移った人がいるが、ラテン語の知識のないことをぼやいていた。もちろん私とて中途挫折組だから、たいしてラテン語わかるわけじゃないのだが・・・・
さて、ここでやっと本題に入る。カエサルである。シーザーである。
日本では、盟友ブルータスに裏切られたとき、「ブルータスよ、お前もか」と叫んだ、という話はよく知られている。
私としてはもっと威勢のいいコトバを引用しておきたい。
カエサルは、ルビコン川を渡った乾坤一擲の勝負に際して、「賽は投げられた」という有名なセリフを残している。
そして、タイトルにあげた veni vidi vici (ヴェーニ・ヴィーディ・ヴィーキ)だ。意味は「来た、見た、勝った」というもの。
北アフリカ戦線での勝利の際にローマに送った勝利宣言で、見事なまでに v で頭韻、語尾も i で韻を揃えた、実に簡潔な表現である。『ガリア戦記』という著書もある、名文家カエサルの面目躍如たるものがある。
日本でも、日露戦争の日本海海戦の際の名言、「(敵艦見ユトノ警報ニ接シ 連合艦隊ハ直チニ出動 コレヲ撃滅セントス)、本日天気晴朗ナレドモ波高シ」があるが、カエサルの簡潔な名言には及ばない。あえていえば暗号だが、「トラ・トラ・トラ」ぐらいだろうか。
最近はクールビズが普及しているので、ネクタイすることなどほとんどないのだが、私がこのネクタイをしているときは、カエサルにあやかって、ひそかに「勝利宣言」しているのである。
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書評 『ラテン語宗教音楽 キーワード事典』(志田英泉子、春秋社、2013)-カトリック教会で使用されてきたラテン語で西欧を知的に把握する
(2013年12月23日 情報追加)
(2012年7月3日発売の拙著です)
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