ある年金生活者の誘いで、2007年製作のハンガリー映画 『人生に乾杯!』を見にいってきた。
東京では、現在のところシネ・スイッチ銀座のみの上映である。ハリウッド映画ではないのでシネコンで上映されることはありえない、ちょっと地味だが十二分に楽しめるエンターテインメント作品である。
映画の内容についてはオフィシャルサイトを見ていただきたいが、夫婦二人の年金生活者「人生最後の大反乱」とでもいっていいだろうか。
81歳の夫と70歳の妻が起こした銀行強盗!これだけでもすでに荒唐無稽というか、ふつうならありえない設定なのだが、少ない年金ではとても生活していけないハンガリー市民の精一杯の抵抗が生み出したシリアスだが、ほのぼのとしたコメディタッチの物語だ。
人生の終わりにいたっても 「人生に乾杯!」できる、という内容が、同じく日本の年金世代にも共感を生んでいるのであろう。
内容が内容だけに年金生活者の間ではクチコミで評判が伝わっているのだろう、またシニア料金1,000円ということもあろう、本日昼の上映で来ていた観客の大半は高齢者だった。
地下鉄日比谷線で地上に出る際にすれ違った老夫婦のご主人が奥さんに向かって 「『人生に乾杯!』って映画が面白いらしいよ」と話しかけているのを小耳にはさんでしまったくらいである。
本日はレディースデイで1,000円ということもあるのだろう、比較的若い世代の女性の観客もみられた。
映画の主人公は年金生活者の老夫婦だが、日本でも年金問題はまさにホットイッシューだし、年金生活候補者の世代は親世代の年金のことだけでなく、自分がもらえるであろう、あるいはもらえないであろう年金のことは、心の片隅にずしんとのしかかりつづけているであろう重~いテーマであるから、決してひとごとではないのだ。
まあ、そんな難しいことを考えなくても、エンターテインメントとして十二分に楽しめる作品だ。
映画の設定は製作の2007年頃を想定しているようだが、老夫婦が一緒になったのは1950年代後半という設定。
ハンガリー現代史では、日本では「ハンガリー動乱」といっている1956年の「ハンガリー革命」の直後にあたる。そして1989年の東欧社会主義の崩壊、こうした時代背景を知っていると、さらに映画を深く楽しむことができる。
主人公は退職した元共産党員、そして革命に参加して逃亡中の女性との数奇な出会いと結婚、社会主義崩壊後の社会保障システムの崩壊、そして・・・。
「ハンガリー革命」を舞台にした青春映画、『君の涙ドナウに流れ-ハンガリー1956-』(2006年、ハンガリー)もぜひDVDなどで見てほしい。
革命後、命からがらハンガリーを脱出して、アメリカで艱難辛苦のすえ大成功したのが、世界最大の半導体メーカー・インテル創業者の一人、カリスマ的経営者のアンドリュー・グローヴであることもしっておいて損はない。
2008年のリーマンショック後、ハンガリー通貨フォリントが急落、ハンガリーからは外国資本が一気に国外に流出、流動性危機に陥ったハンガリー政府は IMF(国際通貨基金)に緊急財政出動を要請、現在ウクライナ、ベラルーシ、アイスランドなどと同様、IMF管理下にある。
1997年の「アジア金融危機」の際はタイ、インドネシア、韓国が IMF管理下に入ったが、今度は社会主義から脱して自由世界に復帰した中東欧諸国が軒並み直撃を受け、苦境に陥っている。
『人生に乾杯!』 が製作されたのは2007年だが、2009年の現在リアリティはさらに増しているのではないか。先日行われた欧州議会総選挙でハンガリーの持分24議席のうち3議席を極右政党が獲得したという。社会的不満と不安の反映だろう。
年金問題は社会問題ではあるが、個人個人の人生にとっての大問題でもあるのだ。
PS ブログ記事のタイトルに副題を付加しておいた。本文には手はいれていない。(2014年1月8日)
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(2014年8月21日 項目新設)
(2014年11月25日、2015年10月6日 情報追加)
(2012年7月3日発売の拙著です)
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