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2011年3月9日水曜日

「ブランド・ポートフォリオ」の組み替え-日立製作所 と LVMH にみる「選択と集中」


 昨日(2011年3月7日)にビジネスニュースで大きく扱われたのは、企業の売買をめぐる日本の大企業フランスの大企業との話題でした。

 まず、日本を代表する「総合電機メーカー」である日立製作所が、HDD(=ハードディスクドライブ)事業を世界第一位のメーカー約3,500億円で米国の米ウエスタン・デジタルに売却。

 日立については特に説明する必要はないでしょう。重電から家電まで、実に幅広く事業展開を行っている、日本を代表する「総合電機メーカー」です。

 いっぽう、フランスの「総合ブランド企業」LVMH が、宝飾品ブランドのブルガリを買収、また一つ自社グループのポートフォリオを充実させました。ブルガリの創業家が保有する同社株式の51%と LVMH株を交換、買収総額は 37億ユーロ(約4,2000億円)になるとこのことです。

 LVMH は、ルイ・ヴィトン=モエ・ヘネシーの略、ブランドものバッグのルイ・ヴィトンと高級洋酒のモエ・ヘネシーを中核に、高級ブランドのみを集めた「総合ブランド企業グループ」です。

 新聞報道によれば、「日立はハイテク量産品事業から距離を置く一方、今後は社会インフラ事業に経営資源を集中させる」とのこと、買収によって入手した HDD事業では結局アドバンテージを築くことが出来ずに手放すことに。買収した側のウェスタン・テクノロジーは HDD専業メーカー、つまるところ「餅は餅屋」に強みあり、ということになります。

 LVMH の会長はブルガリを加えたことは「完璧な組み合わせ」と述べているそうですね。それにしても無限に増殖していく「ブランド帝国」。高級洋酒、ファッションブランド、宝飾品・・・。取扱商品は多岐にわたりますが、「高級ブランド」というコンセプトで一つにまとめあげた企業グループは、非常に首尾一貫した企業姿勢であるといえるでしょう。

 一言でいえば「選択と集中」。

 日立と LVMH のいずれにも共通しているのは、実体をもった企業の売買はブランドの売買でもある、ということです。無形資産であるブランドと、企業実体は相互依存関係にあります。

 自社が展開する事業にとって、見える形でのシナジー(相乗効果)があるかどうかが、意志決定の重要なポイントになります。それは顧客の目に見えるマーケティングのこともあるし、あるいは製造コスト削減など顧客の目には直接ふれないところでのシナジーでもあります。

 LVMH は、「高級ブランド」に特化することによって、消費財のなかでも顧客ターゲットを絞り込んだうえで水平展開をしていることになります。

 いっぽうテクノロジー企業である日立は、重電という産業財と家電という消費財を一緒に抱え込んでおり、マーケティングという観点からみると、現在でもまだまだ総花的な印象も強い。

 昨日、LVMH は足し算を、日立は引き算をしました。もちろん財務の裏付けのある話ですから、ブランドの売買はキャッシュフローの観点からなされます。将来的に買収価格よりも大きなキャッシュフローをもたらす可能性があれば買収し、その反対であれば早めに手を引いて売却によって得たキャッシュを別の目的に使用することもできます。

 つまるところ、「ブランド・ポートフォリオ」の組み替えは、「財務ポートフォリオ」の組み替えでもある、ということです。

 「選択と集中」という表現はかつて流行語とさえなっていましたが、この国ではブームが去ると実体もなくなったと思われがちなもの。

 ところが、「ブランド・ポートフォリオ」という観点からみるると、いわゆる「総合企業グループ」の行動原理が見えてくるというわけですね。


 
<関連サイト>

日立製作所(公式サイト)
LVMH(公式サイト 日本語)

ウエスタン・デジタル(Western Digital)(公式サイト 英語)
ブルガリ(Bulgari)(公式サイト 日本語) 



<初出情報>

 このブログの姉妹編である 「佐藤けんいち@ケン・マネジメント代表 公式ブログ」に書いた、同タイトルの記事を再録したものである。

 ビジネス関連の解説記事も、広い意味での「アタマの引き出し」の一部であるので、あえてここに再録した次第である。

 同じ内容の記事でも、発表媒体が異なることは、ある意味では、コンテンツに変化はなくても、コンテクストが変わることによる「あらたな価値創造」であるといってもよい。

 情報は一元化することによって、拡がりをもつにいたる。ビジネスとビジネス以外の内容も融合して、一括してブログ内検索対象とすることで、またあらたな発見もある。情報と情報がつながることで、あらたな意味をもつようになる。

 ブログがひとつの有機体としての BOK(=Book of Knowledge)としての意味をもちだすのである。

 なお、再録にあたっては、上記の趣旨にもとづき、あらたに下記の「ブログ内関連記事」を加えた。



<ブログ内関連記事>


日立製作所関連

アマルティア・セン教授の講演と緒方貞子さんとの対談 「新たな100年に向けて、人間と世界経済、そして日本の使命を考える。」(日立創業100周年記念講演)にいってきた
・・「この木なんの木 気になる木」のCM。創業100年目の日立製作所グループによる社会貢献

書評 『この国を出よ』(大前研一/柳井 正、小学館、2010)
・・大前研一は、かつて日立製作所の原子力エンジニアであった


高級ブランド関連

書評 『ブランド王国スイスの秘密』(磯山友幸、日経BP社、2006)
・・日本も参考にすべき「ブランド王国スイス」の実像

書評 『ボルドー・バブル崩壊-高騰する「液体資産」の行方-』 (山本明彦、講談社+α新書、2009)
書評 『富の王国 ロスチャイルド』(池内 紀、東洋経済新報社、2008)
・・高級ワインについて言及




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