出版されたばかりの『日本製鉄の転生 ー 巨艦はいかに甦ったか』(上阪欣司、日経BP、2024)を読んだ。最近には珍しく腹の底から元気がでる本だ。
先日、米国のUSスティールを買収するというニュースが日本の経済界を賑わせたばかりだが、じつにタイミングのいい出版である。まさに日鉄がどう変身したのか、その内実を知りたいと思っていたからだ。
記者として日経新聞の産業部で鉄鋼など製造業を追ってきた著者自身も、2022年から6年ぶりに取材を再開したらしいが、日本製鉄の変身ぶりに驚いている。それが読者にもダイレクトに伝わってくる。
日本を代表する大企業が崖っぷちから2年で「V字回復」したストーリーは、日本航空や日立製作所などに続くものといえよう。要は経営者次第で巨大企業も変わることができるのだ、と。
JALの場合は外部から招かれた稲盛和夫氏がリードしたが、日立や日鉄の場合は生え抜きの社長による変革の成功事例である。
しかも、日鉄を崖っぷちから再生させた橋下英二氏は技術畑ではなく、営業畑の出身である点も特筆すべきだろう。学部は違うが大学の先輩にあたる人だが、本書によれば学園祭の実行委員長だったらしい。学生時代から誰もが一目おくリーダーだったようだ。
動きが鈍くて恐竜扱いされる大企業といえども、経営者次第で変わることができるのである。しかも、日本人が強みを発揮できるのは製造業であろう。ものづくりであろう。
日鉄の成功に続く大企業が、1社でも多くでてきてほしいものだ。 ひさびさに腹の底から元気がでる本であった。
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目 次はじめにプロローグ【コラム】よく分かる日本製鉄第1章 自己否定から始まった改革 ー 5つの高炉削減、32ライン休止の衝撃第2章 「値上げなくして供給なし」ー 大口顧客と決死の価格交渉第3章 異例のスピードで決断 ー インドで過去最大M&A第4章 動き出すグローバル3.0 ー「鉄は国家なり」の請負人に【コラム】インド発、踊る製鉄所見聞録第5章 国内に巨額投資の覚悟 ー 高級鋼で勝ち抜く「方程式」【コラム】石油会社が認める高級鋼「油井管」の謎第6章 脱炭素の「悪玉」論を払拭せよ ー 鉄づくりを抜本改革第7章 「高炉を止めるな!」ー 八幡の防人が挑む改革後の難題第8章 原材料戦線異状あり ー 資源会社に巨額出資第9章 橋下英二という男 ー 野性と理性の間に【コラム】日本製鉄社長 橋下英二氏おわりに
PS ついに日鉄による米鉄の100%買収が決着(2025年6月14日)
発表からなんと1年半。ようやく、ここに決着した。トランプ大統領の英断を讃えたい。
・・「日本製鉄は14日、米鉄鋼大手USスチールの買収を巡り、米政府との間で安全保障上の懸念を 払拭 する国家安全保障協定を結び、トランプ大統領が両社の「パートナーシップ」を承認したと発表した。日鉄は、USスチールの普通株100%を141億ドル(約2兆円)で取得して買収が成立し、「完全子会社化が実現する」と説明している。一方、USスチールは米政府に対し、少数の保有で企業の重要な決定への拒否権を持つことができる「黄金株」を発行する。
トランプ米大統領は米国時間の13日、買収計画について、米政府と安全保障協定を結ぶことなどを条件に、「取引による国家安全保障の脅威は十分に軽減できると判断する」と明記した大統領令に署名した。」(・・・後略・・・)
これでようやく長い旅が終わった。めでたし、めでたし。今後は、いかに日鉄が設備投資に見合った利益を確保していくかにある。今後の検討を祈るとともに、日米同盟が盤石化する経済的基盤が確立する要素の一つとなることに安心する。
(2025年6月14日 記す)
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