日本製鉄が USスティールを買収したというのは、ひさびさに日本企業発のビッグニュースだ。2023年12月18日に発表された。
これが1980年代後半だったなら、米国でバッシングの嵐だったろう。だが、いまは違う。
「米中経済戦争」のまっただなか、かつての競合相手であった日鉄と米鉄が「日米連合」を組み、インド市場攻略も含めたグローバル戦略としての意味合いは大きい。
買収後も USスティールの社名変更は行わず、本社をピッツバーグに置くという方針。これもよい。じつに賢明である。ブランドマネジメントと組合対策もあるのだろう。
日本製鉄(Nippon Steel)の出発点は1901年に設立された官営八幡製鐵所。USスティール(US Steel)は、投資銀行家 J.P. モルガンの主導で米国内の鉄鋼業再編の結果として1901年設立。ともに、20世紀が開始された時点に起源がある鉄鋼メーカーなのだ。
(ベッセマー法による鉄鋼製造 『若き鉄鋼王カーネギー』より)
この時点では、世界最大の鉄鋼メーカーはUSスティールであり、日本はまだよちよち状態であった。 「鉄は国家なり」という経済ナショナリズムの時代であった。素材としての鉄は、ほぼすべての製造業の基盤的息をもつ。
USスティールは、アンドリュー・カーネギーの鉄鋼会社にルーツがある。世界最大の大富豪であったアンドリュー・カーネギーである。モルガン財閥に持ち株すべてを売却した時点で、世界最大の大富豪になったわけだ。
この点については 『超訳 アンドリュー・カーネギー 大富豪の知恵 エッセンシャル版』(ディスカヴァー、2022)を参照されたい。背景説明として米国の鉄鋼業についてふれてある。アンドリュー・カーネギーは、慈善事業家となる前に、なによりもまず辣腕の実業家であった。
「本業に特化せよ」というのがアンドリュー・カーネギーの教えだ。これはきわめて重要だ。
なぜなら、「多角化」も重要だが、「本業」に特化することはより重要だからだ。リスク分散の観点による多角化は、あくまでも投資家のものであって、実業家のものではないのだ、と。実業家は、自分の本業にすべてを投資せよ、と。
本業に特化するためには、国境も越えて海外市場も視野に入れ規模拡大を目指す。「スコープ」を狭めて、同時に「スケール」を拡大することは、いっけん矛盾しているように見えながら両立可能だ。じつは理にかなっている。
まさに王道というべきであろう。
PS ついに日鉄による米鉄の100%買収が決着(2025年6月14日)
発表からなんと1年半。ようやく、ここに決着した。トランプ大統領の英断を讃えたい。
・・「日本製鉄は14日、米鉄鋼大手USスチールの買収を巡り、米政府との間で安全保障上の懸念を 払拭 する国家安全保障協定を結び、トランプ大統領が両社の「パートナーシップ」を承認したと発表した。日鉄は、USスチールの普通株100%を141億ドル(約2兆円)で取得して買収が成立し、「完全子会社化が実現する」と説明している。一方、USスチールは米政府に対し、少数の保有で企業の重要な決定への拒否権を持つことができる「黄金株」を発行する。
(大統領令を掲げるトランプ米大統領(ロイター)
トランプ米大統領は米国時間の13日、買収計画について、米政府と安全保障協定を結ぶことなどを条件に、「取引による国家安全保障の脅威は十分に軽減できると判断する」と明記した大統領令に署名した。」(・・・後略・・・)
これでようやく長い旅が終わった。めでたし、めでたし。今後は、いかに日鉄が設備投資に見合った利益を確保していくかにある。今後の検討を祈るとともに、日米同盟が盤石化する経済的基盤が確立する要素の一つとなることに安心する。
(2025年6月14日 記す)
<関連サイト>
(日本製鉄の公式サイトより)
・・買収を前提に作成されたウェブサイト。「2050年のカーボン・ニュートラル達成へ向けた技術的な強みが、脱炭素と持続可能な社会への実現へ向け世界の鉄鋼業界をリードする」
(2024年1月18日 情報追加)
<ブログ内関連記事>
・・かつて京葉工業地帯にあった川崎製鉄の高炉が展示されている
・・幕末に開始された製鉄近代化
・・ピッツバーグ郊外の鉄鋼業の企業城下町を舞台にした青春ドラマ
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