『論理的思考とは何か』(渡邉雅子、岩波新書、2024)は、昨年10月に出版されてすぐに購入し、しばらくしてから通読した。
すでにベストセラーとなっているので、あらたに書く必要はないと思うが、コメントを書く機会を逸していたので、ここで簡単に書いておくことにしたい。
論理的思考には文化によって「型」があることを明解に説いた内容の本である。
「形式合理性」をタテ軸に、「実質合理性」をヨコ軸にとった四次元マトリックスで分類されるのが、以下の4つの合理的行為の累計である。
●経済領域/政治領域/法技術領域/社会領域
経済領域は、形式合理的で主観的政治領域は、実質合理的で客観的法技術領域は、形式合理的で客観的社会領域は、実質合理的で主観的
それぞれの領域に対応して、論理的思考の「型」(パタン)が存在する。
●経済の論理/政治の論理/法技術の論理/社会の論理
論理的思考の「型」のそれぞれを代表しているのが、アメリカ/フランス/イラン/日本 となる。
経済の論理を代表するアメリカの論理的思考は、いわゆる「ロジカルシンキング」として日本のビジネス界でも近年は推奨されているものだ。
「ロジカルシンキング」は、効率性と確実な目的の達成のために構築され定着してきたものであり、共感を重視した日本の「感想文」とは対極にある。
■この本を読むべき人は?
わたしは、論理的思考方法に関心がある人なら、ぜひ読むべき本であると言っておきたい。ただし、ビジネスパーソンであるなら中堅以上であることが望ましい。
なぜかというと、ビジネスパーソンなら、まずは「ロジカルシンキング」に習熟しておくべきだからだ。日本語で初等中等教育を受けた人なら、日本流の感想文については、あえて習得するまでもない。
それ以外のフランスとイランの「型」については、知識として知っておく程度にとどめておけばよい。 これは中級以上のビジネスパーソンにとっては、「教養」程度にとどめておけば十分だ。
一般人もさることながら、この本をいちばん読むべきなのは、初等中等教育にたずさわる教育関係者であろう。
というのは、ビジネス界では「ロジカルシンキング」が強調されるものの、それだけが論理的思考ではないことを知ることが重要であること、しかも初等中等教育で行われてきた「感想文」には共感力を養うという、きわめて重要な目的があることを自覚したほうがいいからだ。
論理的思考には複数の「型」があり、それぞれをつかい分けることが重要だという、著者の主張には大いに納得する。
日本人としての強みを活かすためにも、ひきつづき初等中等教育では「感想文」を書かせる教育をつづけつつ、ビジネス界に入る前後から「ロジカルシンキング」を身につけること。
こうすれば、日本人が世界で生きていくうえで「鬼に金棒」となるはずだ。
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目 次はじめに ー 論理的思考はひとつなのか序章 西洋の思考のパターン ― 4つの論理1 論理学、レトリック、科学、哲学の論理と思考法の比較表2 論理学の論理3 説得(レトリック)の論理4 科学的発見の論理5 哲学的探究の論理 第1章 論理的思考の文化的側面1 何が “論理的” だと感じさせるのか2 論理と文化 ― 価値の選択と優先順位3 論理と合理性4 経済・政治・法技術・社会のそれぞれの論理第2章 「作文の型」と「論理の型」を決める暗黙の規範 ― 4つの領域と4つの論理1 求められる作文の型を知る2 経済の論理 ― アメリカのエッセイと効率性・確実な目的の達成3 政治の論理 ― フランスのディセルタシオンと矛盾の解決・公共の福祉4 法技術の論理 ― イランのエンシャーと真理の保持5 社会の論理 ― 日本の感想文と共感第3章 なぜ他者の思考を非論理的だと感じるのか1 「自己の主張」の直線的な論証(経済)とは相容れない論理2 弁証法の「手続き」(政治)とは相容れない論理3 「ひとつに決まる結論」(法技術)とは相容れない論理4 他者への共感(社会)とは相容れない論理終章 多元的思考 ― 価値を選び取り豊かに生きる思考法おわりに参考・引用文献
著者プロフィール渡邉雅子(わたなべ・まさこ)コロンビア大学大学院博士課程修了、Ph.D(博士・社会学)。現在、名古屋大学大学院教育発達科学研究科教授。専攻、知識社会学、比較教育、比較文化。著書に『「論理的思考」の文化的基盤』、『「論理的思考」の社会的構築』(岩波書店)など。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)
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