昨年2024年にPHP新書から面白い中国関連本がつづけて出版されている。8月にでた『中国を見破る』(楊海英)と9月にでた『中国ぎらいのための中国史』(安田峰俊)の2冊だ。この2冊を昨日つづけて読んだ。
■ユーラシアからの視点で「中国」を相対化する
まずは『中国を見破る』(楊海英)から。著者の楊海英氏は静岡大学教授。中共支配下の内モンゴル(=南モンゴル)に生まれた著者は、現在は帰化して日本国籍を所有しているがモンゴル人。モンゴル名はオーノス・チョクト、日本名は大野旭。
現在なお南北に分断されているのは朝鮮半島だけではない。あまり知られていないが、モンゴルもまた分断状況がつづいている。
中共支配下の南モンゴルでは、文革時代にモンゴル人が大量虐殺の「ジェノサイド」が行われただけでなく、現在は母語であるモンゴル語を抹殺するという「ジェノサイド」も進行している。中共支配下で苦難を味わっているのは、チベット人やウイグル人だけではないのだ。
そんな南モンゴルで生まれ育った著者自身の「自分史」が、そのまま「世界史」と直結しているのである。 ユーラシア大陸からの視点で中国を「相対化」し、中国人の本質が明らかにされる。
本書に収録された、モンゴルを中心に置いた「逆さ地図」(本書のカバー)には、目を開かれることであろう。
ただし、北の中国人と南の中国人を十把一絡げに同一視してしまっていいのか、わたしは疑問を感じないわけではない。というのも、華僑・華人として東南アジアに生きる中国人と、北方の遊牧人と対峙してきた中国人とでは、置かれてきた環境が異なるからだ。
とはいえ、「いま、そこにある危機」の本質を知るため、日本国民が読むべき本である。そう言っても過言ではない。
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目 次序章 私の体験的中国論Ⅰ部 中国の本質を見破る視点① 歴史を「書き換える」習近平政権Ⅱ部 中国の本質を見破る視点② 「多民族弾圧」の歴史と現在Ⅲ部 中国の本質を見破る視点③ 「対外拡張」の歴史と現在おわりに終章にかえて
■エンタメの世界と現実の中国をつなげる試みで、中国人の「歴史」意識について知る
さて、『中国ぎらいのための中国史』(安田峰俊)は、中国関連で旺盛な取材と執筆活動をつづけているジャーナリストの著者によるもの。
「現在」の中国を理解するための有用なツールとして、「過去」である中国史を活用すべきだという趣旨のもと、テーマ別のトピックとしてまとめた読み物だ。
著者は、大学院で中国近現代史を専攻している。 「目次」を紹介しておこう。
第1章 奇書[諸葛孔明(三国志演義)/水滸伝]第2章 戦争[孫子/元寇/アヘン戦争]第3章 王朝[唐/明]第4章 学問[孔子/科挙/漢詩と李白]第5章 帝王[始皇帝/毛沢東]おわりに 武器としての中国史
テーマ別なので、通史としての理解はできない。だが通読すると、現在の中国と中国人について、日本人がいかに理解していないかがよくわかる。中国人にとっての「歴史」の位置づけが、日本人とはまったく異なるのである。
歴史上の人物になぞらえた政敵への攻撃や、現体制である中共政府にとって「不都合な事実」など、知っておくべき知識が書かれている。カバーにあるように、「歴史を学び直して習近平の謀略」を知らなくては鳴らない。
そのためにも、中国人にとっての「歴史」の意味と位置づけ、そして中国人による中国史の使い方を知っていくべきなのだ。
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■この2冊を読むと、依然として日本人がいかに中国と中国人を理解していないかを痛感することになる
『中国を見破る』(楊海英)と『中国ぎらいのための中国史』8安田峰俊)は、スタンスは大きく異なるが、日本人がいかに中国と中国人を理解していないかということを知らしめている点は共通している。
どうしても人間は、無意識のうちに自分の都合のいいように解釈するというバイアスがはたらきがちだ。中国と中国人の「本質」をただしく理解するためには、バイアスの存在を意識する必要がある。
そのためには「歴史」を知り、それを活用しなくてはならないのである。そのためのツールが歴史的事実という知識であり、歴史をベースにものを見る思考法である。
さらに「異文化」という視点も不可欠だ。これは文化人類学の知識の応用だ。中国は日本人にとっての「異文化」であることは言うまでもないが、「中国史」そのものが「異文化」と考えるべきなのだ。
まさに「孫子の兵法」にあるように、「彼を知り己を知れば百戦殆からず」である。
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