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2026年8月11日火曜日

書評 『安倍晋三 平成・令和の光と闇』(服部龍二、中公新書、2026)―「第1次安倍政権」(2006年)の誕生から20年。同時代史としての「安倍晋三時代」を振り返る

 

『安倍晋三 平成・令和の光と闇』(服部龍二、中公新書、2026)は、ことし6月にでたばかりの新刊である。  

日本政治外交史を専攻する研究者による、きわめて冷静で公平なファクトベースの評伝である。出典がすべて「注記」として明示されており、検証可能となっている。 

安倍元首相が暗殺され、67歳の生涯を終えてからはや4年。憲政史上最長の総計2,799日、言い換えれば8年8ヶ月の在任となった安倍晋三氏。 

この数字が前面にでてくるので忘れられがちだが、ことし2026年は「第1次安倍政権」誕生から20年になる。当時の安倍晋三氏はなんと52歳「戦後最年少」で「戦後生まれで初」の首相であった。 

「第2次安倍政権」時代の「第1次トランプ政権」との対応やEUとの良好な関係構築など、民主主義の価値観と自由貿易の守り手として、国際政治の世界においてはきわめて高く評価されてきた。その一方、国内政治においては業績だけでなく、その人物にかんしてもシンパとアンチで毀誉褒貶相半ばする存在であった安倍晋三という政治家。


(FOIPの範囲であるインド洋と太平洋 Wikipediaより)


世界に向けて発信し、大いに賛同された「自由で開かれたインド太平洋戦略」(FOIP: Free and Open Indo-Pacific)構想のような「大きな絵」は描けるが、実行にあたっては戦略性を欠いていたので対応が場当たり的であり、「北方領土返還交渉」にかんしてのロシアのプーチンに対してはもとより、「戦略的互恵関係」としての中国共産党の習近平に対してもリアリストになり切れない弱点があったという指摘には、大いにうなづくものがある。

情が深くて、仲間にはやさしいという批判は、そのとおりであったというべきだろう。いわゆる「ブルーブラッド」のなせるわざでわる。血筋と育ちの良さの反映である。

副題の「平成・令和の光と闇」に、研究者である著者の視線が反映されている。『田中角栄 ― 昭和の光と闇』(講談社現代新書、2016)においても「光と闇」という副題を使用している。田中角栄と安倍晋三を同列において見るという視線か。

安倍政権における「光と闇」の「闇」とは、いわゆる「官邸官僚」に依存した政権運営敵と味方を峻別する政治姿勢、そして長期政権ゆえの規律の緩みに起因する「闇」をともなっていたという指摘だ。

「光と影」ではない、「光と闇」である。その意味は、安倍シンパはもちろん、アンチ安倍の立場に立つ人にとっても、しっかりと受け止めるべきだ。光だけではない。闇だけでもない。光と闇が背中合わせになっていたのが、安倍長期政権の内実であった。 

とくに「闇」にかんする部分については、今後あらたな事実の判明によって書き直される箇所もでてくるだろうが、現時点ではスタンダードとなる評伝というべきである。 

第1次安倍政権誕生から20年。この20年を振り返り、迷走した民主党政権時代を含んだ「安倍晋三の時代」とは何だったのかを考えることが必要だ。

ほぼ時系列にしたがい、淡々とした叙述が一貫する本書は、同時代史としての現代史であり、読んでおきたい充実した1冊である。 


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目 次
はしがき
序章 ブルーブラッドの「使命」 
第1章 傍流から主流へ ― 安倍と森喜朗・小泉純一郎 
第2章 戦後レジームからの脱却 ― 第1次内閣の挫折 
第3章 アベノミクスから積極的平和主義へ ― 第2次内閣 2012~ 
第4章 外交の充実、国内の分断 ― 第3次内閣 2014~ 
第5章 瓦解する「一強」 ― 第4次内閣 2017~ 
終章 突然の死と安倍の遺産 
あとがき 
註記/参考文献/安倍晋三略年譜

著者プロフィール
服部龍二(はっとり・りゅうじ) 
1968年、東京都生まれ。1992年、京都大学法学部卒業。神戸大学博士号(政治学)、ジョンズ・ホプキンス大学修了号(国際関係)、東京大学修士号(国際貢献)。現在、中央大学総合政策学部教授。日本政治外交史・国際政治史専攻。著書に『日中国交正常化』(中公新書、2011年)、『中曽根康弘 ―「大統領的首相」の軌跡』(中公新書、2015)、『田中角栄 ― 昭和の光と闇』(講談社現代新書、2016)、『高坂正堯 ― 戦後日本と現実主義』(中公新書, 2018年)、『増補版 大平正芳――理念と外交』(文春学藝ライブラリー、2019年)など多数。(本書刊行時のもの)


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